巡り合わせ
最近、本を読むのに時間を多く使って、あまり投稿してませんでした。
すいません!
雨が止む気配はなく、私の胸に残るのは、ほんの少しの胸の高鳴りと蒼太の柔らかな香りだった。彼が差し出してくれた傘、その中で感じたぬくもりは、不思議と冷え切った雨の夜を心地よいものにしてくれた。
家の中に入り、玄関で靴を脱ぎながら、私は心の中であの数十分間を反芻していた。
隣で歩けて嬉しかった――そんな単純な感情が、胸の奥からじんわりと湧き上がる。蒼太の柔らかな声や仕草が、何度も頭の中で繰り返される。
部屋に入ると、窓に打ちつける雨音がより強く聞こえた。いつもならうるさいと思うその音も、今日はどこか心地よく感じるのだから、不思議だ。制服を脱いで、濡れた髪をタオルで拭きながら、私はふと蒼太が最後に言った言葉を思い出した。
「たまたま一緒になったからね」
あの一言には何の感情もこもっていなかったのだろうか。それとも、少しでも特別だと思ってくれたのだろうか。思わず頬が熱くなる。
翌朝、目を覚ますと、昨夜の雨が嘘のように晴れていた。窓から差し込む光は、六月の湿気を含んで、ほんのりと温かい。私は制服を着ながら、鏡の中の自分に目を向ける。昨夜の出来事が思い出され、自然と頬が紅潮するのを感じた。
学校への道を歩いていると、道端の水たまりがキラキラと輝いているのに気づく。雨上がりの朝は、いつもとは違った空気感がある。少し湿っぽくて、でもどこか清々しい。
学校に着くと、結月が待っていた。
「おはよう! 昨日は大変だったね」
「おはよう。結月はちゃんと帰れた?」
「うん、何とかね。でも蒼太と帰ったんでしょ?」
突然の指摘に驚き、私は顔を真っ赤にした。
「え、ど、どうして知ってるの?」
「噂になってるよ。相合い傘してたって」
「僕も聞いたよ」
結月と柊の目がキラリと輝く。冗談めかした口調にも、彼女なりの興味が感じられる。私は恥ずかしさのあまり、適当に話を濁すことしかできなかった。
その日の放課後も、いつものようにオーケストラ部の練習が始まった。私はいつも通りに部活を終えられるか心配だった。なぜなら、あんな噂が広まったら、蒼太を狙っている女子から変な攻撃を受けかねないかだ。
窓から差し込む夕陽が、音楽室をやわらかく照らしている。昨日の雨の影響か、空気は少しひんやりとしていた。
蒼太は、いつもと変わらない様子でヴァイオリンを構えている。彼の横顔は真剣で、声をかけるのもためらわれるほどだった。
私はヴァイオリンの練習をしていたが、どうしても彼の姿が視界の端にちらついて集中できない。彼が奏でる音色は澄んでいて、どこか心を揺さぶるものがある。
「休憩にしましょうか」
先生の声で練習が一時中断されると、蒼太がふいにこちらを見て微笑んだ。
「昨日はちゃんと家に帰れた?」
「う、うん。蒼太のおかげで風邪も引かなかったよ」
その一言を言うだけで、心臓が跳ね上がるのを感じる。蒼太は軽く頷いて、それなら良かったとだけ言った。
その言葉の意味を深読みしてしまう自分が、少し嫌になる。けれど、ほんの少しでも特別だと思ってくれたのなら――。
その日の帰り道、私はもう一度蒼太と一緒になった。偶然か、それとも必然か、わからない。もしかしたら後者かも。
雨は降っていなかったが、二人で歩く帰り道は昨夜以上に心地よかった。
「実はさ、昨日、香恋と一緒に歩けてちょっと嬉しかったんだ」
突然の告白に、私は驚いて足を止めた。蒼太は一歩先を歩きながら、ふと振り返る。
「もちろん、ただの偶然だけどね。でも、昨日のことを思い出して、なんか今日はずっと楽しかったんだ。昔みたいに」
その言葉が私の胸に深く響く。雨の匂いがまだ残る空気の中で、私たちの距離は少しずつ近づいているような、しかし、一方では離れているような。




