魔法にかけられた湖
ごめんね。それが彼の最後の言葉だった。気の利いた返事もできず、手を握ることもせず、ただ沈黙で応じたあの日。
四年前のあの瞬間から、私は何ひとつ成長していない。にもかかわらず、昨日、彼を見た瞬間、いつもと違う感覚が胸をよぎった。まるで初めて彼に会ったかのような、不思議な感情。これが何なのか、自分でもまだわからない。
入学式の後、母と一緒にぼんやりと歩きながら、これから通うことになる校舎を見上げていた。広い校庭、立派な校舎。どれもが新しい生活の始まりを感じさせる。
体育館の中では、在校生たちが新入生に向けて部活動の紹介をしている。少子化の影響かどうかはわからないが、中学時代の友人たちから、部員集めが大変だと聞いていた。
私自身は、大学進学を見据えて部活動に入るつもりはなかったので、その熱気を遠巻きに感じるだけだった。
サッカー部や野球部には、たくさんの男子生徒が集まり、吹奏楽部は男女問わず賑やかな声が飛び交っている。小さな部活も、それぞれ一生懸命にアピールをしている様子だった。体育館全体が活気に満ちている。
ふと、体育館の端に人だかりができているのが目に入った。黄色い声が飛び交い、何やら盛り上がっているようだ。気になって近づいてみたが、声が反響して何を言っているのかは全く聞き取れない。
まあいいか、と思った瞬間、前の女子生徒たちが少し身を屈めた。
その一瞬、視界が開け、私は目を見張った。女子たちに囲まれている一人の男子生徒。初めて見るはずなのに、どこか懐かしい。
湖に立っていた波が、一瞬にして魔法にかけられたかのように静まり返る、そんな感覚だった。
そして、記憶のどこかに彼の姿が刻まれているような気がするが、どうしても思い出せない。
そして、その一瞬で気づいた。この感覚、間違いなく――彼だ。