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君に触れた音のない恋  作者: 倉津野陸斗
プロローグ
1/27

魔法にかけられた湖

 ごめんね。それが彼の最後の言葉だった。気の利いた返事もできず、手を握ることもせず、ただ沈黙で応じたあの日。

 四年前のあの瞬間から、私は何ひとつ成長していない。にもかかわらず、昨日、彼を見た瞬間、いつもと違う感覚が胸をよぎった。まるで初めて彼に会ったかのような、不思議な感情。これが何なのか、自分でもまだわからない。

 入学式の後、母と一緒にぼんやりと歩きながら、これから通うことになる校舎を見上げていた。広い校庭、立派な校舎。どれもが新しい生活の始まりを感じさせる。

 体育館の中では、在校生たちが新入生に向けて部活動の紹介をしている。少子化の影響かどうかはわからないが、中学時代の友人たちから、部員集めが大変だと聞いていた。

 私自身は、大学進学を見据えて部活動に入るつもりはなかったので、その熱気を遠巻きに感じるだけだった。

 サッカー部や野球部には、たくさんの男子生徒が集まり、吹奏楽部は男女問わず賑やかな声が飛び交っている。小さな部活も、それぞれ一生懸命にアピールをしている様子だった。体育館全体が活気に満ちている。

 ふと、体育館の端に人だかりができているのが目に入った。黄色い声が飛び交い、何やら盛り上がっているようだ。気になって近づいてみたが、声が反響して何を言っているのかは全く聞き取れない。

 まあいいか、と思った瞬間、前の女子生徒たちが少し身を屈めた。

 その一瞬、視界が開け、私は目を見張った。女子たちに囲まれている一人の男子生徒。初めて見るはずなのに、どこか懐かしい。

 湖に立っていた波が、一瞬にして魔法にかけられたかのように静まり返る、そんな感覚だった。

 そして、記憶のどこかに彼の姿が刻まれているような気がするが、どうしても思い出せない。


 そして、その一瞬で気づいた。この感覚、間違いなく――彼だ。

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