第6話 隠された力の覚醒
湖についてから、僕らは2人とも微妙なテンションのまま、ほとりにとめられてる小さなボートに乗り込んだ。せっかく遊びに来ているのに、家を出たときと違って、2人とも沈んだ表情をしている。
僕は口を開かず、オールを漕いで、湖の中心を目指すことにした。僕の前には向かい合うように、ピャーねぇが座っている。
なんて声をかけよう。せっかくだし楽しい話を……いや、さっきのことちゃんと話しておこう。
そう思ってピャーねぇの方を向くと、ボートに座ったピャーねぇの足の間から、子どもらしくない白のレースの下着が見えてしまっていた。めちゃくちゃ気まずくなる。僕は、それを見なかったことにして、そっと目を逸らしてから話しかける。
「ピャーねぇ……」
「なんですの……」
「ピャーねぇはあいつのお嫁さんになるの?」
「ならないって言いましたわ」
「うん、だよね……でも、でもさ、あいつのお嫁さんになれば……少なくとも、殺されることは、無いと思う……」
ずっと考えていたことだった、この1年。どうやって、スキル無しの自分が生き延びるのか。その方法の1つには、権力者の庇護下に入る。つまり、結婚などをして守ってもらう、というアイデアもあった。
Eランクのピャーねぇにとっても同じことだ。だから、Aランクの相手との縁談は、生き延びるためには悪くない話ではある。それがたとえ、気に入らない相手だったとしても。
「わたくし……わたくしは愛した殿方と添い遂げますの。ですから、クワトゥル兄様とは結婚しませんわ」
少しだけ言い淀んだあと、ピャーねぇは僕の目を真っすぐ見て、強い瞳で自分の意思を伝えてきた。
「そうですか……じゃあ、やっぱり、僕と一緒に国外に逃げませんか?」
このアイデアも、何度も提案してきたことだった。
「いえ、わたくしはこの国で、国を国民を守ります。それが王族の矜持というものです」
湖の水面に照らされて、キラキラと光る金髪の少女はとても美しく見えた。10才とは思えない志を持つその子に自然と目が惹かれる。すごく立派だと感じた。
「そう……ですか……」
「それに……それに、ジュナは……わたくしが他の殿方と添い遂げてもよろしくって?」
「え?」
自分本位な考えしかできない自分に凹んで下を向いていたら、ピャーねぇから不思議なことを質問された。
顔をあげてピャーねぇの顔を見ると、僕から目をそらし、そっぽを向いている。その頬はほんのり赤く染まっているように見えた。
「あの……それって……」
ガタガタ。
「ん?」
「なんですの?」
ガタガタガタガタ!
突然、ボートが左右に揺れ出した。何事かと辺りを見渡すが異変は見つけられない。僕たちのボートの周りだけ、水面が暴れていた。
「ジュナ!」
「姉さん!しっかりつかまって!」
僕たちは必死にボートのへりに掴まる。しかし、そんなことは無駄だといわんばかりに、ボートは勢いよく転覆してしまう。そして、転覆するときに見てしまった。湖のほとりで、ニヤつく第四王子と、両手を前に出している取り巻きの1人を。
そうか、さっきのあいつの目。あいつの目は、コレットを斬った衛兵の目と同じだった。
殺気だ。
ザブンッ!僕たちは湖に落ちる。とてもじゃないが足はつかない深さだ。
「ガボッ!ピャ、ピャーねぇ!!」
「ジュナ!今助けっ!ますわ!」
バタバタと足掻いているピャーねぇが見える。泳ぎには向かないドレスを着てるのに、必死に僕を助けようと、こっちに手を伸ばしてくれる。でも、そんなピャーねぇの手を取ることが出来ず、僕は沈んでいった。そう、僕はカナヅチなんだ。
水の中、焦ったピャーねぇが潜って追いかけてきてくれる。そして、僕の手を取った。
水面に持ち上げられる。
「ガボッ!はぁ!はぁ!ジュナ!しっかり!」
「ピャ、ピャーだけでも!」
「ダメですわ!」
僕を離さないピャーねぇ。でも、彼女はすごく苦しそうで、僕を抱えて岸までたどり着けるようには見えなかった。
なんで、なんで僕は泳げないんだ!くそ!
「ジュナ!わたくしが!わたくしがあなたを!ッ!?足が!?」
「ガボガボ!?」
今度は2人して沈んでいってしまう。隣のピャーねぇは足を押さえて苦しそうだ。足を吊ってしまったんだろう。
なんだよ。僕は、こんなところで死ぬのか。
お母様を助けることもできず……コレットの仇を討つこともできず……でも、僕なんかの力じゃどうせ……
僕は早々に諦めそうになる。でも、目は閉じていなかった。
『ジュナ!!』
声は聞こえない。でも、僕のことをまっすぐ見て、足がつってるのに、必死に手を伸ばしてくれる女の子がそこにいた。
いいのか?このままで?
いいのか?また大切なものを奪われて?
違うだろ。
あんなやつらに奪われるくらいなら……僕が【奪ってやる】
僕が全部を手に入れて、大切な人たちを守るんだ。
強い思いを持って手を伸ばし、ピャーねぇの手を握ったとき、僕は自分の身体に変化を感じた。
なぜか、さっきまでは何もできなかった水中で、手足が動くようになる。
〈僕は泳げる〉すぐにそう確信した。
僕がピャーねぇを抱えて、水面に向かって泳ぎ出すと、腕の中の少女は目を閉じてしまった。彼女の身体から力が抜けていく。僕は焦って足を動かし、水面に向かう。
「ぷはっ!?ピャーねぇ!ピャーねぇ!」
声をかけてもグッタリとして動かない。
「そんな!?いや!まだ!」
僕は、そのままピャーねぇを抱えて湖のほとりを目指す。これまで一度も泳いだことなんてなかったのに、陸地までたどり着くことができた。
「ピャーねぇ!ピャーねぇ!しっかり!」
ペチペチとほっぺを叩くが反応はない。
「ごめん!」
僕は本で読んだ人工呼吸をはじめた。ピャーねぇの鼻を押さえて、気動を確保し、柔らかい唇に……唇……馬鹿野郎!そんなこと考えてる場合か!
僕は無心で人工呼吸を続けた。
「ピャーねぇ!ピャーねぇ!死なないで!」
「…………ゲホッ!?……ゲホッ!ゲホッ!」
グッタリしていたピャーねぇの口から水が吐き出される。
「……うっ……ジュナ?」
「ピャーねぇ!大丈夫!?」
「大丈夫……では、ありませんわ。溺れたんですもの……」
「すぐに医者を!」
「わたくしたちに、医者なんて……来てくれませんわ……」
「クソっ!なんなんだこの国は!」
僕は両手を地面に叩きつける。
許せない。この国も。この国の制度も。あの、クソ王子たちも。
「……ジュナ、あなたが助けてくれたんですの?」
「え、ええ、一応……」
「泳げないって、言ってたじゃありませんか……」
「なんか火事場の馬鹿力で」
「ふふ、すごいですわ。ジュナも男の子ですのね……」
そのあと、ピャーねぇの体力が少し戻るのを待って、肩を貸してあげながら、僕の家に戻った。身体を拭いてあげて、着替えを手伝って、僕のベッドで寝かせる。
僕は、不安そうな顔で眠る姉さんを椅子に座りながら覗き込んでいた。考えを改めるときがきた。そう感じていた。
このままじゃ、僕たちは、この国に殺される。今までは自分とお母様が助かれば良いって思ってた。でも違う。
助けるんだ、この子を。
僕のことを必死に守ってくれたこの子を。
今度は僕が助ける。
そのためには……
【この国の全てを奪ってやる】
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