第62話 純白の炎
「お待ちください!」
「黙っておれ!ボルケルノ家の五女よ!」
シューネの発言を聞いても、司会の爺さんの怒りは収まらなかった。
名門貴族とはいえ、五女という立場のシューネでは、この場を納めることは難しそうだ。そもそも、問題を起こしているマーダスの身内とあれば、なおさらかもしれない。
そんなざわついた会場内に、「お待ちになってください」と、ピャーねぇの声が響き渡った。大きな声ではないのに、不思議と通る綺麗な声だった。姉さんが、椅子から立ち上がって、ゆっくりと階段を降りてくる。
それを見て、司会の爺さんは一旦、口を閉じた。不服そうな顔をしているが、王家への忠誠は確かなようだ。しかし、ピャーねぇが祭壇に到着すると同時に不満を口にする。
「ピアーチェス様。しかし、マーダス殿の振る舞いはいささか許容しかねまする。ここは私にお任せいただきたい」
「あなたの怒りはもっともでしょう。王家のことを思い、自分のことのように激昂していただき嬉しく思います。いつも、キーブレス王家への忠誠を示していただき、感謝いたしますわ」
ピャーねぇがスカートの裾を持って、お辞儀をする。王族が頭が下げることなど、この国では稀なことだ。だから、爺さんは驚いた顔をした後、自らも深々と頭を下げた。
「はっ……これは……勿体なきお言葉……」
爺さんの怒りはだいぶ沈静化したようだ。恐縮そうに一歩下がる。
「しかし、この場をどう納めましょうか。ピアーチェス王女殿下」
「そうですわね。わたくし、血生臭いことは好ましく思っておりませんの。まずは、シューネの話を聞いていただけないかしら?シューネ・ボルケルノは、わたくしの義理の妹。発言の許可をいただけますか?」
「ピアーチェス様の?そうでしたか……かしこまりました。お任せいたします」
爺さんは、シューネがピャーねぇの身内になっていたことを知らなかったようだ。まぁ、公表していないし仕方がない。だとしても、王家の身内に怒鳴ったことを気まずく思ったのか、その場の進行を姉さんに任せ、口を紡ぐことにしたようだ。
ピャーねぇは、それを確認してから、シューネに声をかける。
「シューネ、壇上に」
「はい!」
シューネが祭壇の上にのぼってきた。
マーダスは取り押さえられたままで、ヘキサシスはおろおろしている。
「ヘキサシスお兄様はお戻りになってください」
「へ?あ、ああ!あとは任せた!」
ピャーねぇに促されたヘキサシスは逃げるように階段をのぼっていった。もはや、あいつは部外者といってもいい。
問題となっているのは、マーダスの処分。ひいては、ボルケルノ家の処分だ。
ピャーねぇが話を再開する。
「シューネ、なにか意見があるようですね?」
「はい!兄マーダスの処分!わたしのスキル授与の結果を見てからにしてはいただけないでしょうか!」
「おまえは黙っていろ!愚妹の分際で!」
「マーダス殿、あなたはこれ以上しゃべらない方がよろしいですわ。それに、わたくし、あなたには色々思うことがありますの。これ以上、ご自身の立場を悪くしないでくださいまし」
「くっ……」
「シューネ、それは、高ランクのスキルを授かったら、その爵位と権限によって、兄を許せという意図でしょうか?」
「いえ!お兄様には然るべき罰を!しかし!命だけは助けてください!」
「いいでしょう。もし、あなたがSランクを授かったら、考える余地があります。その力を持って、王家に貢献なさい」
「はい!」
ピャーねぇの提案に、会場がざわつく。
「Sランクだって?」
「この前たまたまSランクを授与したことで調子にのってるのか?」
「シューネ・ボルケルノとは誰だ?先ほどの無能の妹ならSランクなど夢のまた夢だろう」
そんな声が聞こえてくる。僕は、そいつらの声をシャットアウトして、祭壇の上を見た。
シューネは大丈夫だ。ピャーねぇだって。
僕は手すりを握りしめて、2人のことを心の中で応援した。
2人ならできるはずだ。
「それでは、スキルの授与を始めます。シューネ、こちらへ」
「はい!お願い致します!お姉様!」
シューネとピャーねぇが祭壇の中心に歩いていき、シューネが跪いた。ピャーねぇが両手を掲げる。
静まり返った会場の中に、姉さんの綺麗な詠唱が響き出した。
「我、ピアーチェス・キーブレスは、キーブレス王国の名の下に、汝に祝福を授けよう。汝の培ってきた才、育ててきた才、それを超えるものを与えよう。この新たな才が、汝とそして汝の大切な者たちに祝福あらんことを切に願う。目覚めよ。何にも代え難い才覚よ。《ギフト・キー》」
詠唱を終えたピャーねぇの両手から光が溢れ出す。目を覆いたくなるような、まばゆい光だった。その大きな光はやがて収束し、鍵の形を形成する。
ピャーねぇの両手の間には、虹色の鍵が浮いていた。
「なっ!?バカな!!」
マーダスは驚愕している。もちろん、会場の貴族たちも。
それらを無視して、ピャーねぇは、鍵をそっと握り、シューネにつきさした。
カチリ。
ゴォォォ!
鍵が開く音がしたかと思うと、シューネの身体から、白い炎が立ち上った。メラメラと天井まで立ち上り、ぶつかって、炎は霧散する。
「……」
見たこともない、美しい純白の炎を目の当たりにして、会場内に静寂が訪れた。
「鑑定を」
「……はっ!」
司会の爺さんが水晶を持って、シューネに近づき鑑定をはじめる。そして、
「シューネ・ボルケルノ殿の!スキルは!Sランクの!炎魔法である!!」
「おぉぉぉ……」
会場から驚きの声。
そして、マーダスのブツブツ言う声が聞こえてくる。
「そんな……そんなバカなことが……拙者が……なぜ……愚妹ごときが……」
「シューネ」
「はい!」
「あなたの望みをもう一度聞かせていただけますか?」
「兄の命をお助けください!」
「あなたを虐待し続けた男でもですか?」
「それでも!この人は!わたしの兄です!」
「っ……シューネ……おまえ……」
マーダスはシューネのことを見る。そして、ついに諦めたのか、ぐったりと顔を伏せた。
「衛兵の皆さん、マーダス・ボルケルノを牢へ。牢の鍵はボルケルノ家の当主へ渡してください。本件の処分は、当主とシューネ公爵に一任いたします」
「ありがとうございます!お姉様!」
シューネはもう一度頭を下げて、丁寧にお辞儀をしてから、祭壇をおりていった。
「面白かった!」
「ヒロイン可愛い!」
「今後どうなるのっ……!」
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