第59話 王の剣
ボフッ。カリンによってまた煙玉が投げ込まれる。僕はすぐに撤退した。
右腕が熱い。感覚もない。ぶらぶらと揺れていて走りずらかった。
そこに、待機していたセーレンが駆けつけてくれる。
「ジュナリュシア様!ヒール!」
回復するのを確認して「ありがとう!」と声をかけてすぐに駆けだした。3人目の元へと向かう。
「はぁ!はぁ!」
建物に入り、騎士の手に触れ、武器を、
「さっきから、そなたは何をしている?」
「っ!?」
真後ろからマーダスの声がした。近い。僕は咄嗟に飛び出して、目の前の壁に体当たりする。スラム街の建物は脆く、バキバキと音をたてて突き破ることができた。
「はぁ……はぁ……」
たまらず地面に転がり、反転し、槍を構えた。片膝をついた状態で、突き破った壁の方を見て深呼吸する。
「ふぅー……」
後ろから背中を斬られていた。でも傷は浅い、セーレンに治してもらうまでもない。
やつが、土煙が舞う中、僕が出てきた壁の穴を跨いで、ゆっくりと姿を現す。
「そなた……なぜ先ほどから、獅子王騎士団の騎士たちの剣技を模倣している?それに、なぜその剣技を使う騎士がここにいる?」
「……さぁ?なんででしょうね?」
「面白い……いいぞ、好きにするでござる。しかし、猿真似もいささか飽きた。そいつの槍では拙者には届かぬ。1番の使い手でこい。そうしないなら、今ここでお前を殺す」
「……」
僕は何も答えず、あいつから目を離さないまま、その場を離れた。最後に力を借りる予定だった男の元に行く。
「がぁー!がぁー!」
5軒目の建物に入ると、大男が椅子にもたれかかり、豪快なあくびをかいていた。獅子王騎士団副団長ライオネル・アーバングリム。副団長という地位ではあるが、実力は団長と遜色なく、その髭面の見た目から、こいつこそ獅子王だ、なんて言われている人物だ。
彼の手に触れ、技能を借り、彼の大剣を両手で握る。僕には似つかわしくない大剣だ。ずしりと重量が伝わってくるが難なく持ち上げることができた。そして、その剣を握ったとき、長年の相棒かのような感覚を覚えた。こいつとならいける、そう確信して立ち上がる。
「お借りします」
僕は、副団長に頭を下げてから建物を出た。
マーダスの元へと戻る。
「やっときたでござるか。……まさか、それは……ライオネルの?……面白い……」
僕の大剣を見て、あいつは察したようだ。僕がこれからライオネル副団長の剣技を使うということを。
「いつまでその余裕が続きますかね」
「そなた次第でござるな。頑張って拙者を楽しませてくれ」
「いくぞ」
「こい」
全身に力を入れ、一歩ずつ地面を踏みしめる。この剣に小細工なんて必要ない。ただの一刀、一刀に、全力を込めればいい。確かにそう感じながら、一歩一歩近づく、そしてマーダスの胴体を狙って剣を振るった。
ガキン!!
「ぐっ!?」
はじめてマーダスが苦しそうな声を出す。
「らあ!!」
ガン!!僕は力の限り剣を振りぬいた。
「がっ!?」
マーダスが吹き飛び、建物に叩きつけられる。ガラガラと、ガレキが崩れ、土煙が舞った。
「……ふふ……ははは!面白い!」
土煙を突き破り、マーダスが笑いながら突っ込んでくる。僕はそれを弾き返した。
「そなた!その細い身体のどこにこのような力が!」
「……」
楽しそうに何度も剣戟を繰り出してくるマーダスの刀をガンガンと打ち返す。当たる気がしない。それに軽い。なんでこんなやつに苦戦していたのかと疑問すら感じる。
「もういいか?」
「あ?どういう意味でござる?」
僕の言葉を聞き、動きを止めるマーダス。
「もう、おまえと戦うのはうんざりだ」
「つれないでござるな。もっと楽しもうではないか」
「次で終わらす」
「……」
マーダスは、僕の顔を見て笑うのをやめる。
僕は、それを見てから、もう一度、全身に力を溜めるように集中し、マーダスの脳天目がけて、思い切り大剣を振り下ろした。
「ぐぅ!?」
マーダスは、その一撃をなんとか受け止めるが、片手で支えることができなくなり、両手を使って対応する。
僕は大剣を振り下ろす力を緩めない。目の前の敵を叩き潰すことに囚われていた。
「あぁぁぁ!!」
全身に力を、この一刀に全てを、その気持ちを叫びに乗せた。
「ぐ!がぁぁー!!」
僕の全力をマーダスが押し返そうとしてくる。あいつの両足を支える地面が割れ、食い込んでいく。
「おまえの剣は!人を不幸にする!ここで折れるべきだ!」
「それは!そなたに決められることではござらん!」
「あぁぁぁー!!」
「がぁぁぁあ!!」
さらに力を込め、マーダスを、こいつの剣を叩き潰すことに集中した。
バキン!鈍い音を立てて、マーダスの刀が折れる。そしてそのまま、目の前の敵を斬りつけた。
「ぐぼっ!?」
カラン……刀を落とし、大量の吐血をするマーダス。両膝をつく。
「はぁはぁ……僕の勝ちだ」
「ぐっ……まだまだ……」
目の前の敗北者は、降伏せず、折れた刀に手を伸ばす。僕はその手を斬りつけた。右手が身体から離れ、ボトリと地面に落ちる。
「がぁ!?」
そして、左手も無言で斬り飛ばした。
「ぐぅぅぅ……」
「これで刀は握れない。僕の勝ちだ」
「……」
「シューネの痛みが少しは分かったか?」
「……」
目の前の男は、下を向いて、僕のことを見ようともしない。
「何か言ってみろ」
「……いつか……お前を殺す……」
僕は大剣を大きく振りかぶった。
こいつを生かしておいたらダメだ。そう思ったからだ。そこに、
「待ってください!お兄様!」
シューネが姿を現し、僕の前に立つ。
「……なんですか?どいてください」
シューネは、なぜか僕の前に立って両手を広げていた。マーダスを庇うように。
「どきません!」
「……」
「……バカ女が……武士の戦いに、水を差すな……」
マーダスも朦朧としながらも、シューネの介入を拒む。
「と、いうことです。どいてください。そいつを殺します」
「ダメです!」
「なんでですか?」
「これでも!こんな人でも!わたしの肉親です!」
「シューネは優しすぎます。どいてください」
「お兄様だって!優しすぎるんです!」
「僕が優しい?何を言ってるんです?」
「お兄様!何で泣いてるんですか!」
「え?」
僕は、シューネに指摘されて、はじめて、自分の頬に涙が伝っていることに気づく。
「殺したくないんでしょう!だったら!お兄様は人を殺すべきじゃありません!」
「……でも、コイツは、殺さないと……ダメなんです……」
「そんなことしなくても!お兄様には力があるじゃないですか!」
マーダスの才能を奪え、それでいいじゃないか。シューネは、そう言ってるのか。でも、本当にそれでいいのか。
「……はっ……殺せよ。おぼっちゃん……」
「……」
「今殺さなかったら、拙者は必ずそなたに復讐する……」
「……」
「お兄様!お兄様は優しいままでいてください!」
逡巡した。なにが正しいのかも悩んだ。でも、
「シューネは!優しいお兄様が大好きです!」
そう言われて、僕は大剣をおろした。我ながら、単純な男だと思う。でも、シューネのその言葉が嬉しくって、僕は剣を手放すことができた。
バタっ。マーダスが倒れる。
「マーダスお兄様!」
シューネが心配そうに寄り添って、応急処置をはじめた。昔から自分のことを斬りつけてきた男をだ。なんて、慈悲深い子なんだろう。
「……セーレン」
「はっ!」
戦いの決着を見て、従者たちが姿を現したので、セーレンに声をかける。
「あいつの治療……止血だけしてくれ。腕は再生させるな」
「はっ!」
セーレンの治癒魔法により、マーダスの止血が終わり、シューネが安心した顔をして一歩下がった。僕は、気絶したマーダスの前に立ち、最後の仕上げを行うことにした。
従者たちが見守る中、倒れているマーダスの背中に触れ、詠唱を始める。
「汝が培ってきた力を、汝が授かった力を、我が譲り受けよう。汝は望まぬだろう。それは汝の唯一無二の力なのだろう。だが、王の前に置いて汝の望みは叶えられぬ。寄越せ、貴殿の全てを。簒奪の錠前」
詠唱が終わると、マーダスの背中から、小さな鍵が現れる。才能の鍵だ。そして、その鍵は虹色に輝いていた。
なんでこんなやつに……そう思いながら鍵を回す。
ガチン。鈍い音を聞きながら鍵を抜ききる。
こうして、マーダス・ボルケルノとの決着は僕の勝利で幕を下ろした。いや、違うな。
「僕たちの勝ちだ」
一言だけ、そうつぶやいてから、撤退の指示を出す。寝ている騎士たちを元の居酒屋に戻す必要があるのだ。僕たちはまた、闇に紛れて後片付けに取り掛かった。
「面白かった!」
「ヒロイン可愛い!」
「今後どうなるのっ……!」
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