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第56話 妹の目覚め

 セーレンさんに事情を説明した後、僕たちは寝室に戻ってきて、シューネさんが目が覚ますのを待っていた。しばらく待っていると、白い髪の少女が目を覚ます。


「…………ここ……は?」


「シューネ!」


 ベッドの横に寄り添って、ずっと手を握っていたピャーねぇがシューネさんのことを覗き込む。


「おねえ、さま?」


「そうですわ!わたくしですわよ!ああ!シューネ!」


 ピャーねぇが瞳に涙をためて、笑顔でシューネさんに抱きついた。


「お姉様……わたし……」


 抱きしめられたシューネさんも、ゆっくり両手をピャーねぇの背中に回す。


「え?手が……」


 そして、気づいた。自分の腕が再生していることに。


「なんで……だって……斬られて……」


「こちらのセーレンさんが治してくれたんです」


 僕は隣の優男を紹介する。


「セーレンさん?」


「はじめまして。クリオ南部を治めるブーケ家の三男、セーレン・ブーケと申します。シューネ様、お目覚めになって本当に良かった」


「あ、ありがとう……ございます……」


「そんなことより!シューネ!」


 ピャーねぇが声を荒げて、シューネさんの両肩を持った。目を真っ直ぐに見つめる。


「なんであんな大怪我を!勝手に出て行って!わたくし!心配いたしましたのよ!」


「心配しすぎて、命懸けで輸血したしね」


「ジュナは黙ってなさい!」


「はぁい……」


「お姉様が命懸けで?わたしのために?……そんな……ごめんなさい……」


「いいんですわ!シューネはわたくしの大切な家族ですもの!当たり前ですわ!」


「家族……わたし……わたしが家族……う、うぅ……」


 ポロポロと泣き出してしまうシューネさん。


「かわいそうに!泣かないでくださいまし!ジュナのせいですわ!」


「ピャーねぇも怒鳴ったでしょ」


「……シューネ、泣かないで。わたくしはあなたが無事ならそれでいいですの」


「お姉様……うう……でも……わたし……」


「それに、シューネ様は何も悪くないと思います。あのクソ兄貴のせいですね。そろそろあいつをなんとかしましょう」


 しんみりしているのに、空気を読まず好戦的なことを言い出すうちのアサシンメイド。


「あ……あなたは……」


 シューネさんが顔を上げ、カリンのことを見た。シューネさんはカリンのことをよく知りもしないのに、身を挺して守ってくれたんだ。目を覚ましたらちゃんとお礼を言おうと、カリンと話して決めていた。


「先日は、実力不足の私を助けていただき、ありがとうございました、シューネ様」


「僕からもお礼を言うよ。シューネさん、僕の大切な従者を助けてくれてありがとう」


「いえ……わたしは何も……やっぱり、ジュナリュシア様の従者の方だったんですね」


「はい、カリンと申します。以後、お見知りおきを」


「わたくしにも挨拶はなくって?」


 なぜかムっとしたピャーねぇが割り込んできた。さっきもカリンを紹介しろ、って言いながら怒ってたし、僕がいない間にカリンとなにかあったのだろうか?


「……カリンと申します。ジュナリュシア様のお気持ちも考えれないおバカな王女様。以後、お見知りおきしていただかなくても結構です」


「は?はぁぁ!?なんなんですの!?この女!!無礼者!そこに直りなさい!」


 突如、ケンカを売り出すカリンとすぐに買うピャーねぇ。


「あなた様がディセを叱責して輸血を続けたこと、私は怒ってるんです。バカ王女」


「キー!またバカって言いましたわ!ジュナ!なんなんですの!この女!」


「どーどー、ピャーねぇ、ピャーねぇはおバカでも可愛いよ?」


「なんなんですのそれ!ぜんっぜん!フォローになってませんわ!許せませんわ!」


「お姉様……おちついて……」


「はぁ、はぁ……血管がブチ切れそうですの……」


「短気バカ王女……」

 ぼそりとカリンがつぶやく。


「カリン、黙ってなさい」


「はぁい……」


「あー、えっと、カリンのことだけど、数年前から僕のことを手伝ってくれている従者なんだ。主な仕事は、諜報活動をお願いしてる」


「諜報活動ですって?」


 ピャーねぇに怪訝な顔を向けられる。


「うん。最近だと、クワトゥルのバカの行動やマーダスのカスの動向なんかを見張ってもらってた」


「……なんで、この方のこと、わたくしに秘密にしてましたの?」


「それは、カリンには裏の仕事を任せることになるってわかってたからだね。だから、ピャーねぇからは遠ざけた。なるべく、この国の暗いところを見て欲しくなくって」


「それは、余計なお世話ですの。わたくし、子どもではありません。そういったことと向き合う覚悟は持ってるつもりですの」


「そう、だよね……ごめんなさい……」


「では、重要なことを聞きますわ。ジュナは、この方を信頼してるのですね?」


「うん、大切な従者だ。いつも助けてくれるし、すごく信頼してる。ディセやセッテと変わらないくらいに」


「……カリン、とおっしゃいましたね?あなたはジュナのこと」


「愛しております」


 ピャーねぇを真っすぐ見て、食い気味に答えるカリン。その回答はすごく照れくさいものだった。


「……よろしい、認めましょう。あなたがジュナの従者であることを」


「別に、あなたに認めて欲しいと頼んだ覚えはありません」


「なにかおっしゃいまして?」


「……」


「あなたの態度はわかりましたわ……ふぅ……んん!カリン」


 頭に怒りマークを浮かべながらも、深呼吸して落ち着きを取り戻すピャーねぇ。カリンの方に向き直り、真剣な眼差しを向けた。


「……」


「シューネを助けてくれてありがとう」


「いえ……私に実力が足りていれば、シューネ様に怪我をさせることなど……至らぬ従者で申し訳ありませんでした……」


「そんなことはありません。あなたがここまでシューネを運んできてくれたから、この子は助かったんです。ありがとう。よく、あのマーダスから逃げ切りました。あなたは素晴らしい能力の持ち主です」


「いえ……私は、私たちは見逃されたんです。あのクソ侍に」


「見逃された?」


 僕たちは、2人が斬られたときの詳細をまだ聞いていなかった。シューネさんが目を覚ましてからにしよう、そう決めていたからだ。はじめて、そのときの様子がカリンの口から話されていく。


「はい。私はシューネ様が虐待されているのを見て、命の危機を感じ、独断であいつに斬りかかりました。しかし、まったく通じなかった。だから、撤退を試みたんです。煙幕の中、逃げようとした私は、マーダスに捕捉され殺されそうになりました。そのときシューネ様が私を庇ってくださったんです」


「シューネはそれで両手を……」


「はい。しかし、マーダスはシューネ様の腕を斬り落として、私を斬りつけてから急に大人しくなったんです。シューネさんが気絶したのを見て、笑うのをやめたように見えました。そして、こう言ったんです。〈そのゴミを死なせるな、クソ女〉と」


「あいつ……」


 僕は両手を握りしめた。あいつのセリフを聞いて、『許せない、殺してやる』そんな思いに支配されそうになる。


「なんて人なんですの……それにしても、シューネ、なぜマーダスに会いに行ったんですの?あんな家に1人で……わたくしに黙って戻るなんて、あなたらしくありませんわ」


「それは……わたし、聞いちゃって……」


「何をですの?」


「マーダスお兄様が、スラム街で人殺しをしてるって……」


 シューネさんは、僕の方をチラリと見る。盗み聞きを(とが)められると思っているのかもしれない。


「なんですって?」


「……僕たちの会話を聞いたのか?」


「はい……」


 つまり、シューネさんは知ってるんだ。僕の能力のことも。でも、今は黙ってくれている。


「だから……わたしがマーダスお兄様を止めないと、と思って……」


「でも!それでしたら、わたくしに相談してくれてもよかったですのに!」


「お姉様に話したら、お姉様も危ないかもって……それに、このままだとジュナリュシア様が……」


「僕?」


「……ジュナリュシア様が……斬られるかもって……」


 そうか、この子は、僕がマーダスを倒す計画についても聞いていたんだ。だから、もし僕とマーダスが戦ったら、僕が斬られると思って、僕のことを案じて、単身マーダスの元へと向かってしまった。


「そんな……僕はキミに優しくしてこなかったのに……それなのに、あんなやつのところに……」


「わ、わたしにとっては……ピアーチェスお姉様と……ジュナリュシア様は……はじめて、わたしのことを受け入れてくれた人だから……だから……守ろうと思って……」


「シューネ……なんて優しい子なんですの……でも、あんな無茶はもうしちゃダメですの」


「はい……」


「僕なんかのために……そうか……シューネさん、いえ、シューネ」


「は、はい……」


「ありがとう。これからは僕のことも兄って呼んで欲しい」


「え?」


「キミは僕たちの兄弟だ。それに命の恩人で、カリンも助けてくれた。もう、大切な家族だよ」


「か、家族……かぞく……わたし……うう……わたしが……」


 またポロポロと泣き出してしまうシューネ。でも、今度の涙はさっきと違い、嬉しそうな涙だった。

 ピャーねぇも笑顔でシューネの頭を撫でる。僕は、そんな優しい少女が泣く姿をみて、改めて決心した。


 マーダス・ボルケルノ、あいつは絶対に許さない。

「面白かった!」


「ヒロイン可愛い!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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