表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/66

第54話 一番大切な人

 トレスから首都まで帰る道のりは、行きよりも数時間早く帰ってくることができた。移動中、馬の速度が落ちる度にセーレンさんが治癒魔法を使ってくれたおかげだ。僕たちは、自宅の前で馬をおり、馬たちをそのままにして家の中に駆けこんだ。


「みんな!」


 僕とセーレンさんが部屋に入ると、カリンが身体を半分起こし、そのカリンに抱きついているディセの頭を撫でていた。


「う、うう……ピアーチェス様……ディセ……ディセのせいで……」


 むせび泣いているディセ。

 なんで……泣いて……


 ピャーねぇの方を見る。輸血をしてるシューネさんの顔色は、昨日よりも幾分かいいように見える。でも、対するピャーねぇの顔は真っ青で、目を開けていなかった。


「……え?」


「ピャー様が……これ以上、輸血を止めたら……許さないって……」


 セッテが泣きながら僕に報告してくる。


「セーレンさん!!」


「すぐに!ヒール!!」


 セーレンさんがピャーねぇに向かってヒールを唱える。大きな緑色の光がセーレンさんの両手からあふれ出し、ピャーねぇの身体に吸い込まれていった。


 僕は、姉さんの手を取って、祈るように膝をつく。姉さんの顔から目を離さない。怖くって、涙がにじんでくる。


 でも、治癒魔法の緑色の光が浸透していくと、徐々に、ゆっくりと、ピャーねぇの顔色が戻っていくのがわかった。さっきまで青かった顔色は、いつもの綺麗なピャーねぇの顔色に戻ってくる。


 僕はそれを見てから、ピャーねぇに刺さっている輸血チューブを乱暴に引き抜いた。引き抜いた先からヒールによって傷口が塞がり、そして、姉さんが目を開けた。


「…………ん……ジュナ?」


「バカやろう!」


 僕は、こんな、輸血なんてバカなマネをした自分と、命懸けで無茶をした目の前の女の子に向かって、怒鳴った。

 なんで輸血なんてものを提案したのか。自分のバカさ加減に嫌気がさして、大声を出す。


「バカ!ピャーねぇは!ホントにバカだ!!」


 怒鳴って、怒鳴って、涙があふれ出た。


「僕が!なんでこんな!っー!!ごめん!!」


「なにを……怒ってますの?」


「セーレンさん!こっちの子も!」


 キョトンとしているピャーねぇを無視して、涙を拭き、シューネさんの治療をお願いする。


「お任せ下さい!」


 セーレンさんはすぐに移動して、シューネさんにもヒールをかけてくれた。でも、そんなことより、


「僕は!ピャーねぇが!1番!大切なんだ!」


 目の前のベッドに横たわっている女の子に抱きつく。泣いてるのを見られたくなくって、ピャーねぇの肩越しに話を続けた。


「ジュナ?」


「ピャーねぇは!大切な人なんだ!だから!」


 だから、シューネさんを助けるためだからって、無茶しないで欲しい。自分の命を優先して欲しい。でも、そんなこと言っても、この人には受け入れてもらえないことはわかっていた。この人は、大切な人を全力で助ける。たとえ自分の命をかけることになっても。


「だから!だから……」


 そう思ったら、なんて言えばいいかわからなくなり、僕は言葉をつまらせた。涙だけが、ピャーねぇの肩口につたわっていく。


「ジュナ……わたくしも、あなたがなにより大切ですわ。でも、シューネも、もう家族ですのよ」


 優しい声で、僕の頭を撫でながら、言い聞かせるように話すピャーねぇ。


「……でも、だめだ……こんなの……」


「うふふ、泣いてますの?かわいいですわ」


「泣いてるよ!ピャーねぇが死んだらって!思って!バカやろう!」


「ばかばか言わないでくださいまし……」


「ピャー様……ぐすっ……」

「う、うう、う……ディセは……」


 僕が言いたいことを言い終わったころ、ディセとセッテが近づいてくる。2人ともピャーねぇに抱きついた。


「ディセ、さっきは、怒鳴ってすみませんでした」


「わたし……ピアーチェス様が……こわかった……」


「ごめんなさい、怒ってしまって……」


「違うんです……ピアーチェス様が死んじゃったらって……すごく、怖かったんです……うう……」


「ごめんなさい……わたくし……」


 ピャーねぇは、ディセの頭を撫で続けた。セッテも、ディセのことを抱きしめてくれる。僕はその姿を見て、輸血のことをディセに一任したのは酷すぎたと反省した。あのとき、あの場で1番しっかりしてるディセにお願いしてしまったけど、ピャーねぇが危なくなったら輸血をやめさせろなんて判断、なかなかできるものではない。この場が落ち着いたら、ディセにちゃんと謝ろう。そう考えてから、セーレンさんの方に向き直る。


「……セーレンさん、シューネさんの容体は?」


「大丈夫です。助かります」


「良かった……」


 シューネさんの方はというと、すっかり両手も再生し、顔色も正常にもどっていた。すやすやと眠っているように見える。


「あの、あの子もいいですか?かなり血を流したので」


 カリンのことを指して、セーレンさんにお願いする。


「もちろんです」


 そして、セーレンさんはカリンのことも快く治療してくれた。治療が終わったカリンは、すっと立ち上がる。


「まだ寝てた方がいいんじゃない?」


「いえ、大丈夫です。さすがSランクの治癒魔法ですね、体調は万全です。ありがとうございました」


「いえ、私はピアーチェス様にいただいた力を使っただけですので。それに、身体は治っていても精神的には疲れがあるはずです。ご無理はなさらないでください」


 セーレンさんが補足すると、カリンはぺこりと頭を下げて一歩下がった。そこに、ピャーねぇがやってくる。


「改めまして、セーレン・ブーケ殿、わたくしたちを救ってくださり、ありがとうございました」


 ピャーねぇがスカートを両手でつまんで、お辞儀をした。丁寧に、王族を相手にするような仕草で。


「滅相もございません!頭をおあげ下さい!私はピアーチェス様とジュナリュシア様に忠誠を誓っております!何なりとお命じください!」


 ピャーねぇの姿を見たセーレンさんは恐縮そうにしたあと、あわてて膝をついた。


「ありがとうございます。それで、あの子の容体はどうなのでしょう?なぜ目を覚さないのでしょうか?」


 ピャーねぇがシューネさんの横に寄り添って、質問した。


「こちらの方は、怪我を負った際、相当な痛みを伴ったのかと思います。ヒールによって血液は再生しましたが、心が目を覚ますのを拒んでいるのかと思います。しかし、経験上、必ず目は覚ましますので大丈夫です」


「わかりました。ありがとうございます。わたくしの妹を救ってくれて」


「いえ……こちらの方も王族の方だったのですね」


 シューネさんのことを知らないセーレンさんは、ピャーねぇの妹という言葉を聞き勘違いしたようだ。それに、この惨状がなんなのか気になるだろう。


「あー、セーレンさん、そのあたりは僕から説明しますね。こちらに」


 僕はセーレンさんを連れて、部屋を出ようとする。


「お待ちなさい、ジュナ」


 しかし、ピャーねぇに捕まってしまった。


「なに?」


「そのまえに、このカリンという方は誰なのですか?」


「え?あー……」


 そういえばカリンとは初対面だったか。カリンのことをどうやって話したものか、頭を悩ませる。


「まぁ、あとで説明するよ。とりあえず、はるばる来てくれたセーレンさんに事情を説明するから」


 そう言って誤魔化した。カリンのことは後で上手いこと説明しよう。


「……わかりましたわ。シューネが目を覚ましたときに、ぜんぶ説明してもらいますわよ」


「……はぁい」


 僕は生返事をしたあと、セーレンさんとカリンを連れてリビングへと移動した。

「面白かった!」


「ヒロイン可愛い!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ