第40話 正反対な兄弟
「あ、ピャーねぇ……行っちゃった……」
僕はピャーねぇの後ろ姿を追いながら、屋根の上を見る。カリンが首を縦に振って任せろと言ってくれた。ピャーねぇがトイレに行く間、護衛についてくれるようだ。
「……シューネさん」
「は、はい……」
2人っきりにされて若干気まずい空気が流れていたが、僕は目の前のおどおどしてる女の子に話しかけることにした。
「ピャーねぇの家に来て、どうですか?」
「すごく、よくしてもらってます……」
「そうですか、今は幸せですか?」
「え?……わかりません……でも……でも、ピアーチェス様と一緒にいると、すごく心があったかくなるんです……」
「そうなんですね。じゃあ、僕と一緒だ」
「ジュナリュシア様も?」
「ええ、僕もピャーねぇと一緒にいるとすごく温かい気持ちになります。姉さんは高潔な志があって、すごく優しい人なので」
「そう、ですね……わたしも、そう思います……」
少し笑ってくれるシューネさん。
「でも、ちょっとおっちょこちょいだったり、抜けてるところがあるので、こちらが気をつけてあげないとってよく思いますけどね」
「……た、たしかに……ふふ……」
自宅でのピャーねぇのことを思い出したのか、やっと声に出して笑ってくれた。その様子を見て、シューネさんがピャーねぇの友達になってくれたんだな、と実感する。だから、僕の願いを伝えることにした。
「もしよければ、シューネさんもピャーねぇを支えてくれると嬉しいです」
「わたしが?ピアーチェス様をですか?そんな、わたしなんか……」
「僕と姉さんは、この王国ではかなり微妙な立場にいます。姉さんはこの前のギフト授与式で成功したことで見直されつつありますが、それもどうなるのか、わかったものではありません」
「それは……」
「だから、1人でも多くの人に仲間になってもらいたいんです」
「仲間……」
「急にすみません。こんなこと」
僕は焦っていたのかもしれない。仲間探しが進まないこの数週間のせいで。だから、シューネさんに対して、つい仲間、という言い回しをしてしまった。
「いえ……わたし、が、がんばり――」
シューネさんが決意の言葉を発しようとしたとき、聞き覚えのある語尾の男が近づいてきた。
「おい。ここにいたでござるか、シューネ。あのピアーチェスとかいう王女はどこでござるか?」
「ま、マーダスお兄様……」
「まぁいい。さっさと帰るでござる。立て」
「……」
突然やってきて、命令口調のマーダスにビクつくシューネさん。そして、その命令に逆らうことはせず、立ちあがった。
「待ってください。シューネさん、本当にそれでいいんですか?」
「え?」
「帰りたくないなら、そう言うべきです」
僕も立ち上がり、彼女の前に出てマーダスと向かい合った。
「わ、わたしは……」
「そなたは誰でござるか?拙者の妹に余計なことを言わないでもらいたい」
「僕はジュナリュシア・キーブレス。こんにちは、マーダス殿」
ニコ。僕は、背中に仕込んだ短剣を握りながら、余裕の笑みを浮かべる。
「キーブレス?……王族の方でござるか?いや……そなた、この前ピアーチェス王女の後ろにいた御人でござるか?」
「そうですね、やっと思い出していただいたようでよかった。改めて、僕は、ジュナリュシア・キーブレス、キーブレス王国第十七王子です。ピアーチェス第五王女とは大変仲良くさせてもらっています」
「なるほど。だから余計な口を挟むでござるか」
「余計かどうかは、マーダス殿が決めることではないと思いますけどね」
「……面白い御人だ」
面白い、そう言いながらもマーダスの顔色は暗く沈んでいってるように見えた。
「ジュナリュシア様……わ、わたし!帰ります!」
シューネさんが焦った声を出す。あいつの顔色から何かを察したようだ。
「大丈夫です。シューネさんは姉上の御友人、つまり僕にとっても友人です。その人が虐待されるような場所に帰るのは賛成できません」
「友人……ジュナリュシア様……」
「……はぁ……虐待でござるか?何を言ってるのか、皆目見当もつかぬでござる」
「路地裏で妹の背中を斬りつけようとしてた人に、友だちは渡せません。そう言ってるんです」
「……はぁ、そうか、見ていたんでござったな……めんどくさい……」
マーダスが腰の刀に手をかける。
「お兄様!?相手は王族の方ですよ!」
「……あー……しかし……ん?」
一瞬躊躇したかに見えたマーダスは、口元をニヤつかせて僕のこと見る。
「第十七王子、ということは、そなたスキル無しでござるな?」
「……」
「では、斬っても問題にはならぬ」
シャキン。嬉しそうに刀を抜ききるマーダス。近くに衛兵はいない。いや、いても助けてはくれないだろう。
やるしかないのか?僕が短剣を抜こうとしたとき、
「遅いでござる」
僕の目の前にあいつの刀が――
あ、死……
「ジュナリュシア様!!」
「っ!?」
ドサッ!
首を斬られたかと思った。しかし、まだ僕は生きている。シューネさんが飛び込んで僕を押し倒してくれたおかげだった。
「ふぅ……シューネ、どういうつもりだ?」
「わ、わわ!わたしのお友達を傷つけないでください!」
シューネさんが膝をついたまま僕の前に出て、両手を広げた。
「なんだと?」
ビクッ。強い殺気を当てられてビクつくが、そこからどくことはしない。震えながら、僕のことを守ろうとしてくれている。
「……」
シャ。僕は短剣を抜いて立ち上がった。
「シューネさん、ありがとう、感謝します。あとは僕が」
「ジュナリュシア様!だめです!マーダスお兄様には敵いません!」
「拙者も同意見でござるな。そなたでは拙者の相手には幾分か不足がすぎる」
「……やってみないとわかりませんよ?」
「愚かな、実力差もはかれぬとはな」
へたり込んだシューネさんを挟んで睨み合う僕とマーダス。一触即発だった。どちらかが動いたら剣戟がはじまる。そんな空気を壊したのは、
「お兄様!!わたし!か!帰りません!」
立ち上がって、僕の前で手を広げたシューネさんだった。
「あ?」
「もし!ジュナリュシア様に怪我をさせたら!わたし!絶対に帰りませんから!!」
今まで聞いたこともない大きな声でそう宣言するシューネさん。それを見て、ニヤけていたマーダスは無表情になり、ブツブツとひとりごとを呟き出した。
「……めんどうだ……もう、2人とも……いや……」
シャキン。唐突に刀を鞘に納め、一歩下がるマーダス。
「わかったでござる。今日は引いてやるでござるよ」
「……どういう風の吹き回しです?」
「いや、拙者、正式にギフト授与式に出ることに決まりましてな。そこで高ランクのスキルを授かれば、こんないざこざどうにでもできると思いまして。そのときは……そなたを斬ってから、そこの愚妹もお仕置きしてやるでござる」
「そんなことはさせません」
「ははは!スキル無しになにができるというでござるか!それでは、授与式の後を楽しみにしてるでござるそれまでは……いつものストレス発散で我慢するでござる……」
気になる一言を言い残して、マーダスは僕たちの前から去っていった。
「面白かった!」
「ヒロイン可愛い!」
「今後どうなるのっ……!」
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