第20話 命懸けの証明
「ギフト授与式の閉式に移ります!クワトゥル様!ご着席ください!」
「黙れ!今すぐそのジジイを引っ捕らえよ!それからその2人もだ!ええい!なぜ誰も動かぬ!」
依然として大声で怒鳴り散らすクワトゥルに対して、僕は祭壇に向かいながら声をかけた。
「兄上、Sランクの治癒魔法だと、証明できればいいのですね?」
「貴様は黙っていろ!スキル無し!」
やつの静止の声を無視して祭壇への階段をのぼる。
「ジュナリュシア様!式典の最中ですぞ!あなた様は観客席に控えておられよ!」
祭壇をのぼりきったところで司会の爺さんが怒りの声をあげた。
「とは言っても、あのバカ王子を黙らせないと収束しないでしょう。この事態は。まぁ、僕に任せてくださいよ。僕も神聖なギフト授与式を汚してはいけないと思っています」
「しかし……」
ニコリと、僕は味方だよ、とアピールしたら爺さんの勢いはなくなった。
「誰がバカだと!この無礼者め!」
こっちは相変わらず絶好調だ。
「はぁ……もう一度聞きます。兄上、セーレンさんの治癒魔法がSランクだと証明できれば、納得するんですね?」
「ああ!そんなことができるのならな!」
「わかりました。では、そこで見ていてください」
シャ。僕は服の下に隠していた短剣を取り出し、勢いよく抜ききった。
「な、なな!何をする気だ!そいつを取り押さえろ!」
僕が凶器を抜いたのを見て、さすがの衛兵たちも動き出す。でも、彼らが祭壇に上がってくるまでの時間で、僕がやりたいことには十分時間が足りていた。
僕は信頼している人たちの方を向く。
「ピャーねぇ」
「ジュナ、一体何を……」
「セーレンさん」
「ジュナリュシア様……」
「僕は2人のことを信じています」
言いながら、短剣を自身の左腕に当てがった。人体切断の魔法を付与した短剣を。そのまま、力いっぱい、振り抜く。
「ジュナ!?」
姉さんの声が聞こえたような気がした。激痛で意識が飛びそうになる。
「ああぁぁ!!」
しかし、声を出し、奥歯を食いしばって意識を保つ。みんなが、狂人を見るような、恐怖の目を向けているのがわかった。でも、そんなことは無視して、僕は自分の左腕を拾う。
そして、舞台のまわりに焚かれている青い篝火にそれを放りこんだ。
よし……僕の仕事はここまでだ……
すぅっと身体から力が抜けていく。
「ジュナ!!なんてことを!!ああ!!どなたか!医者を!」
僕の頭上にピーねぇがいた。僕のことを心配そうに見下ろし、ボロボロと泣いている。
そうか、いつの間にか倒れていたのか。
「ピャーねぇ……」
「ジュナ!ジュナ!」
「僕たちなんかに医者なんて……来ないよ……へへ……」
いつか、湖でおぼれたとき、ピャーねぇに言われたことを言い返し、笑いかける。
「そんな……そんな……」
「だから……セーレンさん……」
「わ、私、ですか?」
反対側で、同じく心配そうな顔で僕を覗き込んでくれている青年に声をかけた。
「あなたの力を、みんなに、見せてください」
「!?はっ!!必ずや!!」
セーレンさんは思い出したようだ。自分が何を授かったのか。
彼は両腕を前に出す、僕の左腕に向けて、「ヒーリング!!」と、大きな声で治癒魔法を唱える。
すると、彼の両手から緑の光が輝き出し、僕の左腕に集まっていく。僕のまわりに飛び散った血は、みるみるうちに身体の中に戻り、燃えてしまったはずの左腕が光によって形作られていく。
1分も経たなかったと思う。そんな一瞬の時間で、僕の左腕は元通りに再生した。痛みも、倦怠感もなにもない。健康そのものに戻ったことがわかる。僕が上半身を持ち上げて、再生した左手をグーパーさせていると、
「ああ!ジュナ!なんて無茶を!わたくし!わたくしは!」とピャーねぇが泣きながら抱きついてきた。
「ごめんね」
そんな優しい姉さんを僕は両腕で抱き締める。これで、一件落着だろう。
「な、ななな……そんな……バカな……」
僕の腕が再生されたのを見て、クワトゥルが狼狽していた。それに、僕を取り囲んでいた衛兵たちはどうすればいいのか、わからない様子だった。だから、「もう、下がっていいですよ。僕はスキルの証明をしたかっただけですので」と声をかけてやる。すると、衛兵たちは大人しく引き下がり、元の持ち場へと戻っていった。
「鑑定士殿、神聖なギフト授与式の進行を妨げてしまい、申し訳ありませんでした」
司会にも丁寧に頭を下げておく。
「いえ……」
司会の爺さんは、あまりの事態に思考が追いついていない様子だ。
「兄上、よろしいですね?」
椅子にもたれかかっているクワトゥルを見て確認する。
「……」
やつからはなにも返答はない。
だから、この場を借りて、大きな声で言い放った。
「本日のギフト授与式にて!ピアーチェス第五王女が!セーレン・ブーケ殿に!Sランクの治癒魔法を授与されたこと!皆々様もお忘れなきよう!」
僕はそれだけ発言して、祭壇から降りようとする。
「……待て」
祭壇を降り切ったところで、あいつの声が聞こえてきた。
「おまえ!おまえがなにかしたんだな!スキル無し!」
「はぁ……」
心底嫌気がさす。またギャーギャーと騒ぎ出したクワトゥルを司会が咎めているが止まる気配がない。
もう、やるしかないのか。
ある計画を実行するか否か、僕は逡巡していた。
ずっと考えてはいた。でも、決心がつかなかったんだ。多くの人の人生を変えてしまう行為だから……
でも、考え込んでいる僕を、時は待ってくれなかった。
「ブラウ!そいつもろとも!そこにいるやつらを殺せ!さすれば!弟も!おまえの家族も守ってやる!」
は?
泣いてるアズーに寄り添っていたブラウの方に顔を向ける。青い顔をして戸惑いを見せていたが、あいつは、あろうことか、ピャーねぇに対して構えをとった。両手を前に出し、水滴が集まっていく。あいつの水魔法はAランクだ。当たれば、ピャーねぇは……
僕はすぐに駆け出した。
ブラウの目の前に立ち塞がり、手首をつかむ。
「おまえ!?」
「……悪いけど、もう限界だ」
僕はブラウの手首を握ったまま、こいつのスキルを奪い取った。そして、そのまま、ブラウが使ったかのように見せかけて、凝縮した水魔法を解き放った。
王族の席の真ん中に座る、退屈そうな男に向けて。
キーン。ブラウの水魔法は、第二王子デュオソーンの目の前で結界に阻まれてかき消えた。
ここで、ずっと退屈そうにしていたデュオソーンが口を開く。
「……ヴァンドゥーオ一族とクワトゥルを取り押さえ、投獄せよ」
「なっ!?兄上!?」
「これは、勅命である」
第二王子のその一言で、衛兵たちが顔色を変えて動き出した。すぐに3人は取り押さえられる。いや、他にも捕まっている人たちがいた。客席にいたヴァンドゥーオの一族が次々に手錠をかけられていく。
「兄上!兄上!私は!くそ!くそー!」
そして、最後まで醜くさえずってクワトゥルは連行されていった。
その後、式典の最中に王族が投獄されるという異例の事態を招いたギフト授与式は、冷や汗を大量に流した司会の言葉と共に閉式となったのだった。
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