第12話 潜入
2時間ほど馬で移動してきたところに、第四王子の別荘はあった。海にせり出した崖の上に、小さな城のような建物が建っている。別荘の外には、かがり火が焚かれていて、その明かりに照らされた衛兵が何人も巡回しているのが見てとれた。とてもじゃないが正面から入ることはできなそうだ。
だから、離れたところに馬を繋いでから、海の方に向かい、崖沿いに別荘に近づいていく。衛兵がいない海岸沿いに歩いていき、別荘の真下までやってきた。目の前にはそりたった崖、普通の人間が登ることなんてできないだろう。
だから、対策はしてきた。僕は、懐から夜光石を取り出し、崖上に向かってキラキラと合図を送る。すると、間も無くして、崖上からロープが降ろされた。ロープには一定間隔で結目が作ってあり、登りやすいように加工されていた。
「さすがだな。よし、いくか」
僕はロープを握って崖を登り始めた。
「ふぅ……結構しんどかった……」
「お待ちしておりました。ご主人様」
崖を登りきり、別荘の広いベランダによじのぼったところに、使用人の衣装を着た少女が待っていた。
「ありがとう。カリン、助かったよ」
「いえ、家臣として当然のこと。まずはこちらにお着替えください」
「わかった」
僕はカリンから受け取った使用人の衣装に着替えながら、隣で室内を警戒してくれているクール美少女に話しかける。
「カリンの方は問題なかった?」
「はい、問題なく使用人として潜入できました」
カリンは、サイドで1つにまとめたサイドテールを揺らしながら、室内の様子を伺っていた。
彼女の髪は、黒に近いオレンジ色の髪色で、サイドテールは黄緑色のリボンでまとめられ、そのリボンがサイドテール本体にも巻きついて飾られていた。身長は僕より少し高くて、年齢は15歳で僕の2つ年上、ピャーねぇと同い年だ。カリンは今日も鋭い眼差しで、クールな表情を浮かべながら任務に専念してくれていた。その紫の瞳からは全くといっていいほど油断を感じない。さすが潜入任務が本職の従者である。
カリンとは、もともと敵対関係にあったのだが、ある事件をきっかけに僕につかえるようになってくれた。あのときは大変だったけど、今となっては僕の大切な従者の1人だ。そのときのことを思い出していると、
「ご主人様は顔が知られていますので、使用人の服を着ているといっても、あまり目立たないように。普段は仕事もしないようにして、なるべく身を隠していてください。くれぐれも第四王子には顔を見られないように」
この別荘での潜伏の仕方についてカリンがアドバイスしてくれる。
「わかった。カリン、いつも大変な仕事ばかり……ありがとうね」
「いえ、ご主人様のお役にたてて嬉しく思っています。前職の技能も活かせますしね」
少しおどけて笑うカリン。そう、彼女はもともと裏の仕事を生業にしていたので、こういったことは慣れているのだ。
「まずは、明日の午前中に来る。危機感知スキル持ちのブカイ伯爵をなんとかしないとですね。そのときはよろしくお願い致します」
「うん、それは任せて」
「それでは私はここで」
カリンはぺこりと会釈してから、窓を開けて室内に入っていった。仮の使用人としての仕事に戻ったのだろう。
「よし、僕も行くか」
僕は、自分に言い聞かせるように気合を入れて、カリンが用意してくれた眼鏡をかけてから室内に潜入した。
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