契約完了
「えっ、えぇっとお……」
レンが出したきた契約の条件に、私が戸惑う。
自分探しに付き合えって……正体知ってるんだけどぉ!?そして、この事は機密事項だから、バレたら殺されるんですけど!?
まさかの場面での、破滅フラグに内心冷や汗が、だらだらと流れる。
「この条件が飲めないのなら、契約は無しだな。」
「まってまって」
ようやく見つけた協力者になり得る人を失うわけにはいかず、慌てて止める。暗黒ギルドは見つからず、諦めかけていたところ現れた協力者(仮)……この存在まで失ったら、本当に家出をすることが出来なくなる。
悩むが、私が手にしたいのは、平民生活!多少の壁は付き物!それに、私がレンの正体を知っていることを悟られなければ、いいんだよね!
なら思ったより、簡単かも…と考えている私を見て、レンが察してくる。
「その様子だと、答えは決まったぽいな。」
「うん!私は、レンの自分探しに付き合う」
「俺は、お前の家出の手伝いをする。」
「契約完了だね!」
「ああ」
レンと契約を交わしたとき、辺りはもう日が落ち始めていた。夕日の光が窓に差し込む。そんな中、ふと気がついたようにレンが言う。
「てか、お前、貴族ならそろそろ帰らねぇと心配すんじゃねぇか?」
「確かに、帰るかぁ…」
「帰れるのかよ」
「そりゃあ、もちろ…………………………あっ…」
「…やっぱりな」
馬鹿にしたようなレンの声が聞こえるも、私はそれどころじゃなかった。カンナたちがいる場所が分からない現実に気がつき、途方に暮れる。
あっちは今頃、血眼になって私を探しているだろう。帰りたいが、場所が分からない以上、帰れない。私が絶望していると、その隙にレンが部屋から出ていこうとする。
「あの!?ここに困っている乙女がいるんだけど!そこは助けなさいよ!」
「助ける価値ないだろ」
「おい!?」
ツーンと顔を背けながら、レンが嫌味を言ってくる。
前前世のヴォルト様もこんなに嫌な奴じゃなかった。あのときはクールで大人っぽいイメージがあったけど、子どもの頃はクソガキなんだな。妙な親近感が湧いてきて、同士を見つめるような目で見ると、あからさまに嫌な顔をされた。
「そんな目で見るな。どういう感情なんだ」
「慈愛…?」
「母親気取りすんな」
「してないわよ」
そう言い返し終え、沈黙が訪れる。先にその沈黙を破ったのは、私でも、レンでも無かった。
「主様〜何してるの〜?」
「ウィンド…勝手に出てくるな」
「わっ精霊!?可愛い」
突如レンの背後から、精霊が飛び出してきた。精霊というのは、召喚するだけで、莫大な魔力と体力を使うと言われている生物。
どれだけ優れた魔術師でも召喚することができるのは、ひと握り。それくらい精霊は貴重だ。
私がレンのことを初めて、尊敬の眼差しで見つめると、面倒くさそうに精霊の紹介をしてくれる。
「こいつは、中級精霊のウィンド。風の精霊だ。」
「初めまして〜ウィンドだよ〜君は?」
「初めまして、アリー・サイレントと言います。」
小さな子どもの見た目をしたウィンドに、自分の名前を言うと、ウィンドの目が大きく開かれた。
「お貴族様?主が懐いてんの珍しいね〜」
「懐くわけねぇだろ」
「主様にガールフレンド!ウィンド嬉しい〜」
「話聞いてたか?」
「あはは…」
レンとウィンドの会話を聞いて、思わず苦笑する。前前世の関係上、レンが私に懐くことは、多分無いと思う。一応、私の死亡フラグでもあるんだし………って、ん?そうだよ!死亡フラグなんだよ!!わたし、協力求め…てよかったのか、?
「なに百面相してんだ。仕方ない、ウィンドこいつ送ってやれ」
「分かった〜」
「え!?いいの?」
「契約関係の相手に問題が起こると困るしな」
「ありがとうございますっ!」
深々と感謝のお辞儀をして、私は歓喜に溢れる。やっぱり美少女の頼み事は断れないのよ!謎の自信をつけ、自分自身を自画自賛していると、レンから物を投げられた。
「おわっ!?っ、はぁ、危なかった……」
「ふっ」
「笑うなァ!元はと言えば、そっちのせいでしょ!まず、これなんだよ!」
「簡単な通信機器だ。連絡先と思ってくれていい。」
レンが雑に扱った見た目を石ころのこやつが、通信機器ぃ?レンの説明を聞いたはものの、簡単には信じられず、訝しむ。そんな私を見かねてか、レンが…
「そんなに怪しいなら捨てても構わねぇぜ。その代わり、お前は家出できねぇって訳だ。」
「それは困る。」
思いっきり脅し文句を言ってから、レンがウィンドに向き直る。そこで、何か伝えたかと思うと、私の方に顔だけ向いた。
「帰る準備ができたぞ〜。この魔法陣の上に乗れ」
「りょーかいっ」
「じゃあウィンド、頼んだ。」
「は〜い」
「じゃあな、アリー。計画が立て終わったら、連絡する」
「レン…!!案外いいやつなんだね!」
「うるせぇよ」
その言葉を最後に、魔法陣が発動して、転移する。私の今世の未来計画の一歩を、ようやく踏み出せたように思う。
《アリーとレンのちょこっと話》
アリー (ア)┊ 「ウィンドってほんとに可愛いね!」
レン (レ)┊ 「そうか?自由奔放な困り者だろ」
ア┊ 「可愛いじゃん!素直じゃないんだから」
レ┊ 「にやにやすんな。うぜぇよ、契約やめるか?」
ア┊ 「まてまてまて」
レ┊ 「じゃ、そういう事で。また次回」
ア┊ 「まって!契約やめないで!」
レ┊ 「ははっ」