いざ、交渉!
「で、要件は?」
「あの...その前にどこですか?ここ」
「俺が居座っている料亭シーウェストだ。」
足を組みながら偉そうに、そう答えてくれる。料亭 シーウェスト 王族御用達の料亭で、王国内に知らない者はいないってレベルの、めっちゃ有名な所。
「居座っている...?」
「記憶によるとな。」
「拾われたってこと?」
「さあ?最後の記憶は、俺がここで働いている記憶だった。どういう経緯で働いていんのかも知らねぇよ。」
「ほへー」
レンがそう答えてくれる。その答えを聞いて、私は独りでに納得していた。
レン(ヴォルト様)は、現国王王弟であるジークベルト家の長男だ。
安心して、怪しまれず預けられる所が、王家御用達でもあるここだったのだろう。
これは、あくまで前前世の知識だがヴォルト様は、莫大な魔力を持っていたが故に、金目当ての貴族に幼い頃から狙われていた。
貴族から守るためにジークベルト公爵夫妻がとった行動が、記憶を消し、町に隠すことだったのだ。
貴族嫌いなのは、親に捨てられたと思っているから。人嫌いなのは、人目に付く容姿をしているせいで、人が群がってくるから。
13歳のときに、ようやく真実を知って、公爵家に戻される。そして16歳のときに、王立複合学園 フェアリアに転入してくる...だったけな。ヴォルト様の話は、劇にもなった有名な物語。だから私も詳しく知っている。
「おい、お前、俺になんか頼みたいんじゃなかったか?」
「はっ!う、うん!そうそう!!」
「要件を言え。はやく。手短に。」
早く帰れオーラと威圧感を放ちながら、レンがそう言う。そんなに怒らなくてもいいのに......と私が思っていると、怒っている理由がわかってきた。
「ねぇねぇ、レンが、あのレンが!女の子連れてきてるよ!?」
「本当だね〜。レンも隅に置けないってことさ。」
「いや、2人とも仲良しって感じのオーラじゃないっすけど?」
「照れているのよ!」
「な、なるほど...。」
店員さんたちが、扉の外でそんな話をしているのが聞こえてくる。隠れているつもりなのかもしれないが、全く隠れていない。それどころか、丸聞こえで、レンの顔が段々と般若のようになっていく。
「というわけで!私を平民にするお手伝いをして欲しいの!」
「事情は分かった。が、その前にちょっと待ってくれ。」
「あっ、分かった。」
そう言い、扉の外へ視線を向けたレンを見て、察してしまった。ご愁傷さまですと思いながら、店員さんたちの無事を願い、心の中で南無阿弥陀仏と唱えておく。
「店主達、まだ仕事の時間ですよね?」
「「「あっ...」」」
「さっさと戻ってください!!」
「ごめんって〜レン!あまりにも珍しい光景だったからさ!」
「俺は、リーナに付き合わされただけなので、無実っす。」
「あたしも、二人を注意しようと思ったんだよ。」
「どうでもいいです!早く戻れ!」
一連の会話を聞いていた私は、思わずふふっと笑ってしまった。賑やかないい人たちなんだな、と思ったからだ。
レンも、怒ってこそいるが、嫌な顔はしていない。
仲の良さが窺えた瞬間だった。
「はぁ、すまん。待たせたな。」
「ううん、大丈夫!」
「そうか。で、平民にする手伝いだったか?」
「そう!頼みます!」
「………そんなに王太子の婚約者がいやなのか?」
「嫌だけど。」
レンからの質問に真顔でスパッと答えると、少し引いた顔をされた。王太子の婚約者なんて、破滅フラグ満載のポジションだしね!!
「変わってるな。お前」
「そー?」
「王太子の婚約者なんて、誰もが夢見るとこじゃねぇのか?」
「うーん、私はそう思わないかな。」
「まじか」
「うん!だって、貴族って窮屈なんだよ。平民は、自由じゃん!色んなところに行けるしさ。」
「!?そう考えたことはなかったな。」
レンが驚いたようにそう告げる。
私も、ちょっと前まではこんな思いを抱くこともなかったように思う。でも、前世と前前世の記憶を思い出して、分かったのだ。私は、たぶん、貴族のように"合わせる"ことが苦手なんじゃないかって。1人の方が自分に合っているんじゃないかってそう思った。
聖女が来る前も、アリーは嫌われていた。その理由は案外単純だったのだ。私が一匹狼だったから…。
私がこんなことを考えていた頃、しばらく考え込むようにして黙っていたレンの口が開く。
「自由、か。……まぁいいだろう。お前に協力してやる。」
「ほんと!?」
レンの言葉に私が歓喜しているのも束の間、レンの次の言葉に、唖然としてしまった。
「その代わり、条件がある」
「条件…?」
「俺の自分探しに付き合え」
「えっ?」
「俺が誰なのかを探すのを手伝えって言ったんだ。」
「ええ!?」
手伝えって言ったって、私、あなたの正体知ってるんですけどぉぉぉお!?