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スチュワート大通り

「それでは、お兄様行ってまいります。」

「ああ、気をつけて行くんだよ。」

「はい!」


お兄様に返事を返してから、すでに構築されてある魔法陣の上へと向かう。いつも、こうして転移魔法を誰かに発動してもらわないと、私は町に出かけられないのだ。


「お嬢様、参りましょうか。」

「ええ、お願いね。みんな」

「はい。『転移魔法 発動! 』」


テレストシーラは、貿易都市で王国が管理している所だ。だからか、毎日のように賑わっているらしく、アリーも楽しみにしていた。


「お嬢様、着きましたよ。ここがテレストシーラの真ん中、スチュワート大通りです。」

「結構、広いのね。」

「まあ、王国一の大都市ですから。」


カンナの説明を聞き流しながら、ぐるっと辺りを見回す。大通り周辺にあると、目立ってしまうから暗黒ギルドは、外れにある事が多い。

暗黒ギルドを探しに行くために、とてつもなく原始的な方法で、カンナ達の目を盗もうと思い.....


「あっ、アレ!」

「どうかしましたか?お嬢様」


私の言葉がぶっつけ本番だから、棒読みになってしまったのは許して欲しい。

私が出した突然の大声に、カンナ達が目を外した隙に私が全力疾走する。


「うおおお!走れー!」


普段は淑女の仮面をしているが、記憶を思い出した今、アリーの中身はひねくれ社会人だ。

本来、お嬢様のフリをしていることの方がキツくなって来ていたからか、立場も忘れ、全力疾走していた。


「はあ、はあ、ここまで来たらさすがに大丈夫でしょ.........」


しばらく、走っていたアリーは、自分でも気が付かないうちに大通りを離れ、町の外れまで来ていた。


「ここが、外れ...?結構お店も賑やかだけど......大通りからだいぶ離れたし、外れっぽくない外れなのね!」


そう結論づけて、壁に張り付きながら暗黒ギルドらしき建物を探す。

息を殺してピッタリと張り付きながら探している様はスパイの真似事で、かっこいい......訳では無い。

所詮、平民の服を着ている少女がスパイの真似事など、周りから見たら訝しまれるだけだが、アリーはその事に気が付かない。


「暗黒ギルド...なくね?」


体感時間で約1時間ほど探したのにも関わらず、見つからないことから、アリーはもしかして無いのでは...と思い始めていて...


「テレストシーラという大都市にない!?暗黒ギルドも思ったより、ポンコツ.....じゃなくて、大都市だからこそ無いのかしら...?」


アリーの脳みそがバグを引き起こし、考えたら、考えただけ分からなくなる無限ループに、投げ出してしまおうかと思考をやめる。


「もう、他の方法を考えた方がいいのかしら.....さすがに何回も町へ行きたいって言ったら、怪しまれるし.....」

「とりあえず、今日の作戦は失敗ってこ「きゃあああ!!」とでって一体何事!?」


いきなり、甲高い悲鳴がアリーの耳に聞こえてきた。何事かと思い、後ろを振り向くと、そこにいたのは.......


「あれって、バードウルフ!?上級の魔物がどうしてここに!!」


背には翼を、体は狼で口からは、尖った犬歯が見える。この特徴は上級の魔物バードウルフしかありえない.....って、冷静に分析している場合じゃないって!


「は、はやく...都市警備部隊を呼ばないと...!」


そう思い、アリーがこの場を離れようとした瞬間、また人々の悲鳴が聞こえてくる。


「!!危ない!」


この場所がバードウルフの標的にされたのか、様々な人が逃げ惑う。都市警備部隊を呼びに行く時間がない。呼びに行っている間に、全滅する。

直感的に、そう感じたが.....魔法も使えないアリーには為す術がなかった。


「なんで今、魔法が使えないのよ!」


悔しげに唇を噛む。バードウルフの場所はもう既に私の半径10m以内に収まっていた。


「こうしてる場合じゃない!私も逃げなきゃ.....ってあ、」


私の目に入ってきたのは、バードウルフの目の前に標的にされたであろう、私よりも幼い子どもの姿だった。今にも襲われる位置にいたその子は、恐怖からか体が固まっていた。

私は、頭で考えるよりも、体が先に動いていた。


「っ!やめなさい!」


思えば自分でも、無鉄砲な作戦だと思う。今世の死因は魔物か...まぁ、前前世の自分よりかはかっこいい死に方かもな...とか思いながら覚悟を決めた瞬間、凛とした声が響いた。


「『炎魔術 炎華(えんげ) 』」

「ギャオオオオォォオオン!!」


「え?」


彼は突如、私の目の前に現れた。明らかに平民の服装をしているのに、魔術を使ったのだ。そして、魔物を...上級魔物を一瞬にして倒してしまった。


「ふぅ、大丈夫か?お前」

「えっ?」


彼の言葉にハッとなって後ろにいた子どもを見ると、既に母親らしき人が抱きかかえて、涙を流していた。

良かったなぁとか思いながら、感傷に浸っていると...その様子をみた彼が笑ってこう言った。


「お前、結構かっこよかったぞ」

「あ、ありがとう...。」

「ああ、挨拶がまだだったな。俺はレン。この町の住人だ。」


私の目の前に突如、現れた魔術が使える、不思議な平民レン。彼と出会ったことで、波乱の嵐がまた起ころうとしていた。

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