第二十一話 悪魔大蛇VS二人の王女②
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「それで、悪魔大蛇を倒す方法というのは?」
「ドラウグル王家、相伝の技を使う」
「……その技なら悪魔大蛇を倒す事ができるのですか?」
「――倒せる……だけど、この技をボクは使えたことがないんだ」
「――え……?」
「実はボクは出来損ないでね……次期、国王の立場にあるのに、歴代の王たちが繋いできたこの技を、いつまで経っても習得することができないでいるんだ……家臣たちは陰でボクが女として産まれてきたせいだと言っていたよ」
アリスの記憶ではドラウグル王国の歴史に今まで女王は存在しない。
クレアはダンジョンに潜っていた理由を父のように強い王になるためだと言っていた。
おそらく、歴代王たちが繋いできたその技を修得し、王位継承者として認められたかったのだろう。
「父上はボクを王にすると言っているけど、こんなボクじゃ国民は認めないだろうね。
ボクがせめて男として産まれてきていたら――」
「女性だからとか関係ないと思います。
クレアさんは強いです!
それは他の誰でもない私がこの目で見てきました。
きっと、クレアさんのこれまでの努力の成果なのでしょう。
そんな方が王になるこの国の人々は幸せだと思います!」
「――あはは……そんな風に言ってくれるのはアリスだけだよ……ありがとう」
クレアは瞳に薄らと浮かんだ涙を払い、言葉を続ける。
「でも、ボクが相伝の技を使えないのは事実だ。今回も失敗するかもしれない。いや、失敗する可能性の方が高い」
「先程も言いましたが、他に策もありません。なので、クレアさんの賭けに私も乗らせていただきます!」
例えこの賭けが負け確定の大博打だとしても、賭けなければ勝つ事はできない。
「それに、私たちは仲間です。クレアさんが失敗したなら仲間の私がなんとかして見せます!」
クレアが失敗したら終わりだ。それは間違いないだろう。だが、簡単に死ぬつもりはない。
最低でも悪魔大蛇と相打ちにする。
そうすれば、もしかしたらクレアは助かるかもしれない。
クレアが生き延びれば、レンにアリスの事を話してくれるだろう。
それでレンに少しでもアリスの死を悼んで貰えれば、今のアリスはそれで満足だ。
「そんなこと言われたら失敗できないな……」
「……? クレアさん何か言いましたか?」
クレアが何かを呟くが、アリスは聞き取る事ができなかった。
「いいや、何でもない。
それより、ボクのことはクレアでいいよ。
それと……ここから無事に出れたら……ボクと友達になってくれないかな?」
「もちろんですよ! クレア!」
〜〜〜
魔法を放ちながら、アリスは悪魔大蛇から逃げ回る。
悪魔大蛇という恐ろしい存在を一人で相手にする事に、今までなら恐怖心が芽生えていたが、不思議と今は落ち着いている。
時間を稼ぐという使命感が恐怖心を打ち消しているのかもしれない。
『一分間、一分間だけ時間を稼いで欲しい』
岩陰でクレアに頼まれた、技を発動させるまでの時間稼ぎ。
アリス一人で悪魔大蛇を足留めするには厳しい時間だ。
(いえ、足留めなんて大層な事をする必要はありません。クレアの邪魔をさせないようにすればいいだけです)
アリスの魔法は悪魔大蛇の硬い鱗を貫通してダメージを与えることはできない。
しかし、魔法で注意を引きながら時間を稼ぐ事はできる。
「……ハア……ハア……」
アリスは悪魔大蛇の迫り来る腕を、岩陰の隙間を縫う様に走り、回避する。
ただ伸びてくるだけの腕ならアリスにも十分回避できる速度だ。
この巨大な腕を先程のように高速で射出するには、一度限界まで収縮する必要があるのだろう。
(――言ってるそばから……!)
悪魔大蛇は十二本の腕の内、四本を収縮させ始め、高速で射出する。
「――火炎矢!!」
射出された格腕に向かって一本ずつ炎の矢を放つ。すると着弾した矢の爆風で腕の速度を殺す事に成功する。
その隙にアリスは射出された腕の軌道から逃れた。
(これで悪魔大蛇の腕による遠距離攻撃には、全て対応できました。この調子で一定の距離を保ちながら、注意を引き続けます!)
〜〜〜
ドラウグル王家相伝の技。それは長槍を用いた必殺の一撃だ。
この技は、ドラウグル王族が生み出したものではない。
初代ドラウグル王が四大害獣の一匹から国を守るために、今はもう滅んだとされる龍人族から教わったものだそうだ。
それを歴代の王たちが受け継ぎ、今代まで王が自ら国を守ってきた。
王位継承者であるクレアも幼い頃から相伝の技を取得するため、励んできた。
しかし、修得する事はできなかった。
歴代の王たちは皆、成人前にこの技を修得している。
父もそうだ。王家の歴史上最年少である十二という若さで技を修得した。
紛れもない天才だ。
クレアは現在十九歳。
その天才の血を引いているにも関わらず、この歳になっても技を修得できずにいる。
当然周りからの目は冷たい。家臣や貴族から出来損ないと陰で罵られていることをクレアは知っている。
それでも父は『次代の王はクレアだ』と、そう言い続けてくれた。
そんな父に失望されたくはない。
だから頑張った。頑張り続けた。
でも、ダメだった。
遂には王宮を飛び出しクレアは逃げ出した。
父の失望した顔が見たくなかったからだ。
そんな時、ギャンツという男と出会った。
ギャンツはこの街の冒険者ギルドの支部長で父の古い友人でもあった。
父は若い時は凄腕の冒険者としても名を挙げていたらしく、ギャンンツは父と同じパーティに居たことがあるらしい。
なので、父の若い頃の話を沢山してくれた。
そして、クレアは冒険者になることを決める。
同じことをすれば父のような立派な王になれると、そう思ったからだ。
今思えば浅はかな考えだったと思う。
それから数年、王女という立場を隠し、冒険者として一人でいろんなことをした。
学びもあった。
この数年でかなり強くなったという自負もある。
それでも、技を修得することは叶わなかった。
もう既に、王である父は六十を超えており、持病も患っている。
王位を退く日は近い。
いや、クレアがちゃんとしていればとっくに退いていただろう。
今のままでは国民から認められず、クレアは王にはなれない。
だから、父は玉座に居座り続けている。
そのため、一刻も早く技を修得して王位を継承しなければならない。
そんな焦りから今回、蛇魔の迷宮にきた。
ダンジョンでひたすら戦い続ければ何かきっかけが掴めるかもしれないと、そう思ったからだ。
しかし、その結果がこのザマだ。
技の修得どころかアリスが助けに来なければ命を失っていただろう。
そして今、アリスを巻き込み絶体絶命の窮地に陥っている。
つくづく自分が嫌になる。
もし男に産まれていたのなら、父の様な立派な人間になれたかもしれない、そう思わずにはいられない。
『女性だからとか関係ないと思います!』
アリスに言われた言葉を思い出す。
『私たちは仲間です。クレアが失敗したなら仲間の私がなんとかして見せます!』
初めてのダンジョンで仲間と逸れ、一番不安なのはアリスの筈なのに、そんな少女に気遣いまでされてしまった。
このままでは、心までもが王の器ではなくなってしまう。それはダメだ。
「――まったく、アリスには敵わないな」
クレアは邪念を振り払い、長槍を構える。
今はただ、この技で相手を倒すことだけを考える。
他の誰でもない仲間のために。
〜〜〜
人間には魔力と闘気を扱うことができる。
もちろん使える量は才能によるが、少なからず誰でも持っているものだ。
魔力は魔法を使うために必要なもので、闘気は身体能力を強化するために必要なものになる。
つまり、どちらかを極めると優れた魔法使いや戦士になることができるというわけだ。
だが、例外もある。ドラウグル王家相伝のこの技が正にそれだ。
これは魔力と闘気の両方を武器に纏うことにより発動する特殊な技なのだ。
つまり、魔力の制御をする必要がある。
しかし、歴代の王のほとんどはクレアと同じ、魔法が使えない戦士だった。
なので、魔法が使えなくとも魔力の制御さえできれば技を発動することは可能な筈だ。
(魔力と闘気を同時制御しながら槍に纏うのが第一段階。そしてその槍を制御しながら身体に闘気を纏うのが第二段階。後は全力の一撃を敵に向かって放つだけ。言うのは簡単だけど……神業だ……)
クレアはこの技を使おうとすると、第一段階の時に槍に纏った魔力と闘気のバランスが第二段階の途中で崩れ失敗する。
(だとしても、チャンスは一回だ。失敗は許されない)
悪魔大蛇とアリスの激しい戦闘音を聞きながら、クレアは集中する。
まずは第一段階からだ。
魔力と闘気を槍に纏う。
成功だ。
長槍全体が青白く輝き始めバチバチと放電し始める。
続いて第二段階、槍の状態を保ちながら身体を闘気で強化する。
(――クッ……!)
闘気に集中したため、魔力の制御が一瞬疎かになり槍の状態が一瞬グラつく。だがクレアがなんとかそれを持ち直すことに成功する。
「――よし、いける!! アリス!! 離れるんだ!!」
「――はい!!」
アリスはクレアの準備完了の合図を受け、前線から離脱する。
悪魔大蛇は既にアリスから目を離しており、クレアに警戒の目を向けている。異変に気付いたのだろう。
「今更ボクに気付いても、もう手遅れだけどね」
クレアは悪魔大蛇目掛けて長槍を突き出す。
「蒼雷壊槍!!!!」




