第八部 黄金虫体験
「ついに、ついにこの日が来たのだ。太陽を克服する日が。完全体すなわち神となる日が!」
ドライブの顔から石仮面が取れ、勝ち誇った笑みを浮かべた表情が現れた。
「さて、太陽を拝みに行くとするか。」
ドライブが歩き出そうとしたその瞬間、会場にいた囚人たちがうめき声をあげ始めた。
「なんだ?」
囚人たちはお腹やらお尻やらを押さえて出口に殺到した。制止すべき刑務官までもが出口から出て行き、囚人は殺到しすぎて入り口がふさがってしまった。みんな口々に叫んだ。
「も、漏れる。だ、だめだ。間に合わない!」
『あぁー』というあきらめと切なさが混じったような声を上げ、囚人たちは脱糞してしまった。するとドライブの体が輝き始め、囚人たちのうんこを引き寄せ始めた。石仮面から発せられた光は囚人たちに強烈な便意を催すものだったらしい。
「な、なんだこれは!? なぜわたしの周りにクソが集まってくる! や、やめろ。う、うわー!」
うんこは次から次へとドライブの周りに集まり、ドライブはうんこに閉じこめられてまん丸のボールのようになった。ドライブの叫び声は小さくなっていった。
「ドライブ様、一体これはどうなっているんだ?」
「助けたいならどうぞ、止めないわ。」
いろはが冷たく言った。
「どうやって助ければいいんだ?」
「そりゃあもちろん、勇気を出して飛び込む、それっきゃないね。」
柱の男二人は躊躇していた。
「おら、速く行けよ!」
そう言ってロカトは二人に蹴りを入れてうんこボールに突入させた。二人は叫び声をあげてうんこに飲みこまれていった。
「おーい、聞こえるかい?」
ナツメが声をかけた。ナツメの髪型はリーゼントの金髪の前髪が666の形になっていた。
「このナツメ・デーツにはおかしいと信じる夢がある!」
「なに言ってんだてめー。」
うんこボールの中からかすかに声が漏れていた。
「た、助けてくれ。ここからどうやって出たらいいんだ? わたしは完全体になったのではなかったのか?」
「うーん、スカラベとかフンコロガシって黄金虫知ってる? うんこを丸めて玉みたいにして中に卵を産むんだ。君が入っているボールみたいにね。卵からかえった幼虫はうんこを食べて成長し、さなぎになって成虫になるんだ。幼虫のときは芋虫だよ。それが成虫になったらメタリックでピカピカの黄金虫になるんだ。
言い換えれば、ピカピカの黄金虫になるにはうんこを食べなきゃいけないんだよ。だから、君も完全体つまり成虫になるにはそのうんこを食べればいいんだよ。そしてスカラベの丸くしたうんこが何を表すかが重要だね、あれは太陽の象徴なんだ。太陽を克服するとはすなわち、それを平らげることっていうわけさ。神になるっていうことは、そこまでやらなきゃならないんじゃないかな?
あれだけうんこを嫌がっておいて、結局石仮面にうんこ、いやエイジャの茶石をつけて変身したのは君だからね。
「貴様、そこまで計算していたのか、と言う。」
「き、貴様、そこまで計算していたのか? は!」
「まあ、柱の中で寝るのも、うんこの中で寝るのも、寝るのは同じじゃない? それともしっかり食べるかのどちらかだね。」
「にいちゃん、すごい! 究極生命体までやっつけちゃったね。」
「ははは、このうんこ、いや賢者の石のおかげだね。なんで金髪キャラになるのか疑問だったんだけど、簡単なことだったよ。賢者の石は触れたものを黄金に変えるんだ。まさに、黄金虫体験だね! フィグ、今度ダイコクコガネを探しに行こうよ。ピカピカで角があってかっこいいぞ。」
「ええ、見たい見たい! どこにいるの?」
「牧場の牛の糞の中にいるよ。」
「えー!?」
「糞に入らずんばこがねを得ずってわけさ。鬼舞辻無惨もうんこ食べればよかったのに。」
「そんなこと言ってると、鬼舞辻じゃなくてファンに殺されるよ。」
「このうんこボールどうする? ここに置いとくのか?」
「結局のところ、本人たちはどうしたいかな? おーい、ドライブ、ダーティ・チープ、ラスクリ、君たちはどうしたい?」
「・・・・・」
「どうやら、考えることをやめたみたいだね。たぶん、地下に彼らがいた空間があるだろうから、そこに運ぼうよ。」
「てめーがやれよ、フンコロガシ野郎。逆立ちして足で押してけよ。」
結局それは囚人たちが自分で出したものだったので、かわりばんこに運ばされた。
「さあ、トリプルシックスに帰る用意をしましょう。」
「オキタ、またシャワールーム出してよ。」
「ええ、そう思って外に用意しておきました。急いでください。」
「さすが、気が利くねえ。」
「ナツメは最後ね。」
「まあ、常にレディーファーストだから。」
「よく言うぜ。」
トリプルシックスは定刻通りミドリイルカ通り刑務所星を出発した。ナツメを除くみんなは頼むから今度こそうんこは御免こうむると思っていた。
「今回、短けえじゃねいか! 作者め、ネタがなくてとんずらこきやがったな!」