第五部 ドクター・ストーン・オーシャン
「それにしても、ナツメが金髪の奇行種になるとはね。」
「貴公子でしょ。」
「貴公子だったらヒルダは蹴り入れないでしょ。」
「自分の姿を見てないからわからなかったけど、結構かっこよかったの?」
「にいちゃんはにいちゃんのままのほうがかっこいいよ。」
「そうかい? あんがとよ。まあ、ボクはビジュアル系じゃないけどね。賢者のうんこの力かな、触れたものを金に変えるって言うからね。」
いつものように車掌がドアを開けて入ってきて次の停車駅を告げた。
「次の停車駅は『ミドリイルカ通り刑務所、ミドリイルカ通り刑務所です。停車時間は72時間つまり三日です。」
「ミドリイルカ通り刑務所? なんで刑務所なんか止まるわけ?」
「面会人がいるのですよ。それから、刑務所の慰問のためでもあります。歌手や芸人さんがここで興行をやるのです。結構な報酬らしいですよ。」
いろはが刑務所の名前をしばらく考えていて、『あっ』と声をあげた。
「どうしたんだい?」
「ミドリイルカ通り刑務所と言ったわね。英語にすると・・・え? 嘘でしょ? まさか・・・そんなはずは・・・こんなところにあるはずが・・・」
「ここに覚えがあるわけ?」
「まさかそんなはずはないと思うけど、父の囚われてる刑務所と同じ名前なのよ。ただ、この世界のこんな星にいるわけないと思うけど。」
「行って確かめようよ。三日間もここで何しようか考えものだったけど、何か目的があれば俄然やる気が出るよ。」
「あの、いろはさん、一つ聞いてもいいですか?」
ロカトはいろはの父が刑務所にいる理由を聞きたくても聞けないことだろうと思ったが、誰かが質問するまで待つのもズルいと思った。そこで思い切って聞いてみることにしたのだ。
「ええ、何で父が捕まってるかってことでしょ?」
「え、ええ、まあ、そうです・・・」
「そんなに気を遣わなくてもいいわよ。わざと刑務所に入ったんだから。悪霊に憑りつかれたと言って。」
「ああ、前に言ってたね。スター・プラチナのためだったよね?」
「勝手にそう言ってなさい。」
「これまでお父さんとは連絡を取ってたんですか?」
「いいえ、収監先を告げてわたしの前から姿を消した後はぱったり。その刑務所がどこにあるのか調べてもわからなかったのよ。いろいろ探して旅先の老婦人の家に住まわせてもらっていたところへみんなと出会ったわけ。」
「その話はにいちゃんから聞いたよ。十二単を着ていたから、おまるで用を足してたって言ってたよ。」
「話を盛るな、ナツメ!」
「い、いや、でも歴史的事実だったでしょ? それで今回は登場しないテルーのやつがおまるの中身を物色しようとしていたんだよね?」
「どんなスカトロなんだ。ここにいなくてもコケにされる男だな。」
「いい加減おまるから離れなさいよ!」
「いろはさん、お父さんに会いたいですか?」
「ええ、悪霊なんて信じられないけど、何かおかしなことに巻きこまれてるなら、力になりたいわ。」
「ここで何か手がかりがつかめるかもしれませんね。」
「ええ、ありがとう。」
みんなの意見は一致した。一行はミドリイルカ通り刑務所へ向かった。いろはは緊張しながら入り口の受け付けで父の名前を検索してもらった。事務員がコンピューターで囚人のデータを照合している間、胃がむかむかした。
いろはの感が当たるのが幸なのか不幸なのか何とも言えないが、いろはの父の名前と生年月日が一致する人物がそこに確かにいた。事務員がいろはに尋ねた。
「面会しますか?」
「え、ええ。」
「それではここに面会される方のサインと必要事項を記入してください。身分証明書を持っていますか?」
「トリプルシックスのパスポートでいいかしら?」
「構いません。お連れの方も面会されるのですか?」
「はい。」
「面会時間は30分です。時間前の退出は構いませんが、延長はできません。それから、囚人から何も受け取ってはいけません。特に、火のついたライターなどは厳禁です。」
「いや、最後のセリフ、ギャグか何か?」
一行は厳重なセキュリティ・チェックを受けて刑務所内を案内されていった。ところが、『面会室』と書かれた部屋を通り過ぎ、ガラス張りの囚人室に案内された。
「おいおい、何か展開がおかしいぞ。意味不明にベッドがデブの囚人に変化するとか、バナナと一緒に指食ってるやつがいるとかしないだろうな。」
案内していた看守が一行を振り向いて言った。
「すみません、部屋を間違えました。」
「なんなんだよ。あれだけセキュリティ強化しときながら、まったくもってザルじゃねえか。」
「でも、そこにいる人、ちょっと見たかったな。」
看守は今度は牢屋にみんなを案内した。牢屋の中から何かくぐもった声が聞こえている。
『・・・千代の富士五十三連勝です!・・・」
「あ、そのまんまだ! すごいすごい!」
「いろはカグツチ。友人からは『は』と『カ』をつなげて『ジョジョジョ』と呼ばれているそうだ。おい、ジョジョジョ。面会人だ!」
「あ、そのまんまだ! ジャンプ読んでたら完璧だね。しかもまだ昭和なんだよね。」
「どこに『ジョ』なんて文字が入ってるんだ! なんだ、ジョジョジョって、ふざけんな!」
そう言って背の高い男が立ちあがって牢屋ごしに現れた。
「お父さん、ほんとにいたのね! わたしよ、かぐやよ!」
「なんでお前がここにいる? どうやってここに?」
「わたしもよくわからないのよ。間違って変な汽車に乗ったらここに着いたってわけ。ねえ、どうしてこんなところにいるの?」
「俺をここから出すな。俺は悪霊に憑りつかれているんだ。」
「おお、まさに待ってましたの展開だね。」
「誰だ、貴様?」
「お父さん、この人、ナツメといって、おかしな出来事にはもってこいの人物なのよ。きっと力になってくれるわ。」
「え、いろは、ボクのことをそんな風に手放しでほめてくれるなんて、なんて嬉しいこと。」
「消えな! 何が力になるだ。見ろ、あっさりカバンの中身をすられやがって。」
そう言ってカグツチはナツメのカバンから取り出したものを見せた。
「あ、それ、賢者の石! いつの間に! このボクを出しぬくとは!」
「いやー! お父さん、それよく見てよ!」
「何? 何だこれは! クソじゃねえか!」
あわててカグツチは持っていた賢者のクソを牢屋に設置してある便器に放り込んだ。
「ああ、待って、流しちゃだめー!」
『ジャー・・・』
「おい、ナツメとかいったな、頭いかれてんのか? カバンにクソなど入れやがって。」
「いや、あれはクソじゃなくて賢者の石なんですよ。トイレの水使うの、アブドゥルさんが来てからなのに・・・」
「貴様もトイレに流してやろうか?」
「落ち着いて、お父さん。ここにいるみんなは頼りになる仲間よ。まずはわけを話してよ。」
「いいだろう。俺が悪霊に憑りつかれていることを見せてやる。」
そう言ってカグツチは右手をかざすような動きを見せた。すると牢屋の外にいた警官の腰からひとりでに拳銃がひっぱられ、カグツチのもとに飛んでいくように移動した。
「何だ? 拳銃が勝手に。おい、カグツチ、やめろ!」
ナツメ以外の全員がこおりついた。カグツチが拳銃を頭に向けて引き金を引いたのだ!
『ピュー!』
カグツチの言う悪霊が弾丸を止めようとしたところ、銃口から発射されたのは水だったために、顔がびしょびしょになってしまった。それを見て拳銃を取られた警官が言った。
「デヒ、デヒ、デヒヒヒ、焦ったなカグツチ、それはモデルガンだもんねー!」
全員が口をあんぐりした。
「三部と四部がくっついてるよ!」
ナツメがどうでもいいつっこみを入れた。
「結局アブドゥルさんが来なくても水をかぶってしまったね。それにしても、あの便器を割って水を出したけど、中にうんこが入ってたら最悪だったね。ああ、それと、刑事さん、お酒のびんには気を付けたほうがいいよ。」
「お父さん、悪霊の正体が何かわからないの?」
「ああ、突然こんなのに憑りつかれてしまったんだ。」
「インスタントカメラぶっ壊したらわかるかも?」
「てめーの頭もぶっ壊したほうがいいな。」
「そんなー! オキタ、何かいい道具はないかな?」
「とりあえず、インスタントカメラでいきますか?」
みんなが意味なく話し合っていると、突然あたりが騒がしくなってきた。
「なんだ?」
すると牢屋の前に何人かの警官が走り込んできた。
「緊急事態です。刑務所内のあちこちのトイレから怪物が出現しました。」
その報告を聞くのとほぼ同時に館内へ緊急警報のサイレンが鳴り響き始めた。
「館内は何者かの襲撃を受けています。警察官はただちに対テロモードに切り替えてください。繰り返します・・・」
「何が起こったんだ?」
「あ~あ、たぶんあれだよ。」
ナツメがため息交じりに行った。
「カグツチさんがトイレに流した賢者の石のせいだと思うよ。」
「あんなクソのことをまだ言ってるのか。」
「だからクソじゃないんですよ。あの石の力でうんこのスタンド使いが出てきたんじゃないかな。フー・ファイターズみたいな感じ。こうなったらカグツチさんのスタンドで倒してもらうしか。それと、あの石を探さなきゃ。」
「いろは、こいつの言ってること、信じられるのか?」
「ええ、今は彼の言う通りだと思う。」
「なんてこった! おい、いろは。お前のタブレットでこの刑務所の見取り図を出せるか?」
「うん、刑務所のPCにアクセスしておいたわ。」
「よし、このトイレの下水管の行き先を調べろ。まずはそのクソ石を探さないと、怪物は増える一方だ。」
「湯ババーバの旅館の再現だね、こりゃ。」
「みんな、かわや星の武器を転送するわ。みんなナツメを援護してね。」
「ボクも戦うよ。」
「あなたは下水管の中に入ってもらうから。」
「えー!?」
「あのクソまみれの中からあのクソ石を探せるのはあなただけでしょ。」
「というより、みんな『それはやりたくない』ってことじゃないの?」
「多数決取る? 誰がふさわしいかって?」
「こんな選挙戦嫌だよ~。」
「お願いします。」
「え、いろはが頭下げるなんて。ちょっとうるっときちゃった。」
「それだけ嫌だってことじゃねえか?」
「・・・・・アルファもかわいく頼んでくれない?」
「恐喝でいいか?」
「・・・・・」
そんなやり取りをしていると、牢屋のトイレから巨大なうじ虫が現れた。
「これは気持ち悪い! 寄生虫がかわいく見えるぞ!」
「サーベルで切ったら体液が飛び散りそうだ。」
「オラオラできない相手だね。」
「ナツメ、とにかく石を探せ!」
「よし、このセリフを使う時が来たぞ。逃げるんだよー。どけー、警官ども!」
これは敵の強弱の問題ではなかった。みんな、こんなに逃げたいと思ったことはなかった。とにかく気持ち悪かった。
「かわやでの戦いが初心者レベルに思えるよ。エバちゃん、来てくんないかな。」
「この刑務所は浄化設備があるんだな。下水はすべてそこへ流れ込んでいる。下水処理場に向かうぞ。」
「兄貴、俺が援護するよ。気持ち悪いとか言ってられない。いろはさん、行き先を指示してください。」
「まず、さっきのガラス張りの部屋に向かって!」
「了解。」
ロカトは先頭に立って走り始めた。ナツメがそのあとに続いた。ガラス張りの部屋まですぐだ。
『バリーン!』
ガラスが割れる音がして、ガラス張りの部屋からグネグネしたものが出てきた。それは巨大なナメクジだった。
「これはうじ虫よりましかな。」
ロカトがそう言うやいなや、ナメクジは背中から回転する刃物のようなものを飛ばしてきた。
「なんだ、こいつ、攻撃力高そうだな。」
「コウラナメクジの化け物か? 背中の貝殻を飛ばして来てるぞ。」
ロカトは剣でナメクジのカッターを粉砕しながら間合いを詰めた。
「下水の呼吸、三の処理。」
「兄貴、変なこと言うなよ。」
ロカトの剣は炎をまとい、ナメクジを真っ二つにした。ナメクジの体は焼け焦げて縮み上がった。
「ナメクジだから意外に貝を焼いたいいにおいだね。」
「いちいち説明すんな。」
「右へ曲って。」
「はい。」
「中庭が右に見えるでしょ。剣でガラスを壊して外へ出て!」
ロカトは大きなガラス戸を破壊し、外へ出た。外には巨大化したミミズやうじ虫、ナメクジ、そしてみんなが知らない(ナツメはわかったらしい)寄生虫がうごめいていた。
「よし、広い所に出たぞ。アッガイ召喚! バルカン砲で殲滅だぜ!」
アルファが待ってましたとばかりにアッガイ(身長は人間と同じ)で虫たちを蹴散らし始めた。
「いろは、どっちに道を開ければいい?」
「正面の通路をとおって左にまっすぐ行けば下水処理場に着くわ。」
「どおりゃー!」
アルファは先頭に立つとアッガイの爪で虫たちを蹴散らし、通路まで突き進んだ。
「ナツメ、急げ! 敵は増える一方だぞ。」
「あれが下水処理場ね。」
「怪物が湧いて出てくるところに石があるんじゃない?」
「たぶん、あれだよ。」
下水処理場に目をやって、みんな見たことを後悔した。そこにはうじ虫の山が出来上がっていた。何百匹、いや何千匹いるだろうか。
「よし、ナツメ突っこめ!」
「無慈悲すぎる! アッガイを突入させてくれたらいいのに。」
「そんな気持ち悪いことできるか!」
「それはボクも同じだよ。」
「ナツメならできる!」
「だったら君のパンツ洗わせてくれよ!」
「二回も言うか!」
「兄貴、手伝うよ。」
「なんと勇敢な! トイレの勇者を超えたぞ。ならばボクもそれに応えねばなるまい。よし、突撃! 下水の呼吸奥義・・・」
「いくぞ、兄貴!」
「は、はい。」
ロカトが剣から渦巻きの炎を放射し、うじ虫の山に穴をあけた。あたりに香ばしいにおいが立ち込め、見た目とにおいのギャップは見て見ぬふりをして山の中央部に突進した。うじ虫はあとからあとから湧いて出ていたが、その中心部はちょうど下水の沈殿池があり、光のドームができていた。
「あそこだ、兄貴! あの池の中だ! うわっ、取り囲まれる!」
ロカトは必死で剣をふるい、体中どろどろにしながら池まで進んでいった。
「兄貴、ついて来てるかい?」
「しまった。水着持ってないぞ!」
「ごめん、兄貴。」
そう言ってロカトはナツメを持ち上げると池に放り込んだ。
「わー!」
ナツメはうじ虫の海に投げこまれ、ぶよぶよ滑りながら池に落ちた。
『ドッボーン!』
ナツメは臭くて汚い水の中を目をつぶって手足をバタバタしていたが、ついにうんこの中のうんこを探すという難事業を手の感覚だけで成し遂げた!
「これだ! この大きさ、手触り。まさにこれだ!」
ナツメはこれだと思ったうんこを握ると、うんこは如意棒のように伸びてナツメを池の外へ送り出した。そしてナツメがうんこ棒を掲げると、うじ虫を始め、寄生虫たちは姿を消した。
「やった、やったぞ! 見たか! トイレの勇者をなめんじゃねえぜ!」
「すげーぞ兄貴、汚れ役を押し付けてごめんね。」
「いや、先頭に立ってくれた勇気は感謝するよ。」
「にいちゃーん!」
「おお、フィグ。トイレの勇者は二度奇跡を起こしたぞ!」
「早くからだ洗ってよー。」
その後、みんなを面喰わせる出来事が待っていようとは思わなかった。
「なにー、下水処理場が壊れたために水道が使えないだって!? このくさいままでいろっての?」
「とりあえず、そばに寄るな、中に入るなよ。」
「あんまりだよ。」
「そうだ、ここは川に囲まれてるんだから、水はあるじゃないか。」
「ワニがいるけどね。でも、くさいから行くべきかもな。」
「それじゃあ、先に汽車に帰ってるからな。」
「ひどいよー。」
「まあまあ、みんなそう意地悪しないで。ナツメ君、超空間配達で簡易風呂を送ってもらいましたよ。服も用意してます。ロカト君もドロドロになりましたからね。二人のお手柄です。きれいさっぱりしてください。」
「さすがはオキタ、頼りになるね。ついでに何か食べ物も頼んでいい?」
「どうぞ好きなだけ。」
「やったね。ああ、それから、この石を入れる入れ物も頼んでくれないかな?」
「それにしてもますます本物になりましたね。」
「最初の金ピカからどうなってるの?」
ナツメとロカトだけでなく、みんな体を洗いたかった。予想通りナツメの順番は最後にされた。使用後は速やかに処分された。
「すまなかったな。ナツメ。こんな大騒動になるなんて。」
みんなが一休みしたあと、刑務所の食堂で食事しながら話し合うことにした。30分はとっくに過ぎていたが、この騒ぎでそれどころではなかったらしい。
「下水の池で泳ぐ日が来るなんて思わなかったですよ。それより、これからどうします? ここにいるんです?」
「君はどう思う?」
「と言うと?」
「君はこれからの未来をどう予想する?」
「え? ボクが考えるとおかしなことになるよ。」
「それを聞きたい。」
「まあ、カグツチさんの悪霊の正体はスタンドで、ディオってやつの呪いで発生したんじゃないかと。」
「そのまんまじゃないか。」
「でも、ここがミドリイルカ通りなら、敵はもう一人いることになるかな。またドロドロだよ。」
「どんな敵だよ。」
「石になって素数数えるんだ。」
「どんだけめんどくさいやつなんだよ。もしかして、この話のタイトルに無理矢理こじつけただけだろ。もうネタ擦り切れてるっぽいぞ。」
「屋敷お化け再登場かもね。」
「三つしか覚えられずにおしっこ飲むことになるかもよ。」
「このうんこにシール貼ってはがすと破壊が起こるぞ。」
「やめろ! しびんよりひでえぞ。」
「よし、神父を問い詰めよう!」
「この三日のうちにくるかな?」
「教誨師が来るのは明日だ。」
「じゃあ、いったん汽車に戻ろうよ。ここにいても何にもないし。」
カグツチも刑務所から出ることにした。刑務所側も出ていって欲しかったらしい。
「ようし、今度はディオを探すぞ。いよいよラスボスって感じ。」
「もう骨だけになっているとか。」
「緑色の赤ちゃんが生まれたら嫌だなあ。」
そんなこんなでトリプルシックスの車内で一晩を過ごし、翌日また刑務所を訪れた。下水は復旧したらしかった。
「教誨師に会いたいんです。」
「懺悔でもなさるんですか。」
「懺悔させに行くんですよ。」
「ナツメはだまってて。」
「はい。囚人の更生のお役にたちたいもので。」
「それは素晴らしい心がけですね。こちらに必要事項を記入の上、指示に従ってください。」
「わかりました。」
「それにしても、あの神父に会いたいなんて変わってますね。ここの囚人は神父の話を聞くくらいなら、まじめに更生するほどですよ。」
アポイントメントがなかったが、神父の話を聞く囚人は一人もいなかったので、すぐに面会してもらえることになった。そして神父が面会室に現れた。
「2、3、5、7、11、13、17、19・・・」
「もう素数数えてるけど。」
「21、23、29、31、37・・・」
神父の素数数えは終わりそうもなかった。
「どうしたものかな?」
「もう帰ろうよ。」
「そうだな。」
みんながしらけて帰ろうとしたが、そこで異変に気づいた。
「おい、体が動かないぞ。」
「なんてことだ。すでに攻撃されている!」
神父はみんなの動揺をよそに、素数を数え続けている。
「しまった! ほんとにドクター・ストーン・オーシャンだ! カグツチさん、あんたのスタンドで何とかしてよ!」
「もう体が動かなくなってきた。」
「41、43、47、53,59・・・」
「全員が動けなくなるまで数え続けるつもりかしら?」
「61,67,71、73,79・・・」
みんなはついに口を動かすことができなくなってきた。しかし、なぜかナツメだけは動きが鈍くなったとはいえ、動けなくはなかった。
「みんな、しっかりしろ!」
「・・・・・」
みんなの返事はなく、目線も一点を見つめたままになってしまった。
「89、97・・・なぜだ? なぜおまえは動ける?」
神父は急に素数を数えるのを止め、ナツメに問いかけた。
「なぜって言われてもね。それより、あんたの目的はなんだよ? なんのつもりだ?」
「お前たちも同じ目的ではなかったのか? いろはカグツチに会いに来ているではないか。」
「ここに来たのはたまたまだよ。偶然立ち寄ったこの星にたまたま彼がいたってことだよ。」
「信じられんな。」
「だったら本人に聞いてみなよ。」
「まあよい。わたしの目的はカグツチの能力だ。おまえ一人でどうにかできるわけもないからな。」
「能力? スタンドのこと?」
「まあ、そう思うならそう思えばいい。カグツチの能力は時間操作、言い換えれば、歴史を操作する力だ。」
「そんなこと言ってなかったけど。」
「まだ彼は自分の能力に気づいていないのだろう。それではいただくとするか。」
すると出しぬけにカグツチがしゃべった。
「なるほど。俺にそんな能力が憑りついていたとはな。D.O.の影響か。」
「カグツチ、動けるのか?」
「貴様の目的が知りたかったからな。行動を起こすタイミングを待っていたんだ。だがな、貴様が欲しいって言うなら、この面倒な悪霊を連れてけよ。」
「ふふふふふ、お前がそんなことを言うとはな。事の重大さがわかっていないようだな。」
「能書きはいい。さっさとやれ。」
「いいんですか? なんか、こいつ、たくらんでますけど?」
「ああ。構わない。おい、神父、わかってねえのは貴様の方だ。俺の能力を手に入れて世界が手に入ると思ったら大間違いだぜ。貴様は試されることになるぞ。それがどんなにめんどくさいことか、思い知るがいい。」
「ずいぶんでかい口を叩くもんだな。だが、それはお前が無知だからだ。世界はわたしに感謝するのだ。まさに神としてわたしをあがめるのだ。」
ナツメはその能力とやらがディスクの形で取られると思っていたが、神父は何やら得体のしれない能力で吸い取ったようだった。