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第三部 進撃の巨人の星

 「次の星は進撃の巨人の星、進撃の巨人の星です。停車時間は15時間です。」

 「今度はなんだ? どっちのネタだ。巨人倒すの? 野球すんの?」

 汽車が高度を下げるにつれ、星の名の通り、巨人がうようよいた。

 「なにこれ、降りた途端に食われてしまうよ。」

 やがて汽車は駅に着いた。車掌がアナウンスを始めた。

 「汽車を下りられる方はもれなく調査球団に入ってもらいます。ユニフォームは支給されます。」

 「調査球団? なにそれ?」

 「駅の前には球場があります。そこで毛野茂の巨人が待ち構えています。この星の住民は彼の球を打てないために苦しんでいます。住民だけでなくこの星に来た乗客も一人として打つことができなかったのです。今や入団する人もいなくなりました。」

 「ケノモの巨人? リヴァイ兵長に任せておけば?」

 「リヴァイじゃなくて、コボイ兵長がいます。」

 「コボイ? 誰それ?」

 「入団されるなら紹介します。」

 「みんなどうする?」

 「面白そうね。」

 「侍ジャイアンツの番場蛮と弓月やオズマとの対戦みたいなものですね。」

 「で、そいつのボールを打ったらどうなるの?」

 「放送終了となります。」

 「アニメ版か。よかった。原作は死んじゃうんだよなあ。」

 「え、そうなの? にいちゃん?」

 「あしたのジョーの力石といい、死ぬまでやっちゃうんだよ。」

 「毛野茂の巨人はそのつもりですよ。」

 「死ぬんじゃなくて、相手を全滅させる方ですが。」

 「仕留めるのは俺だ、てめえらは的になれ。」

 そう言ってやって来たのはコボイ兵長だった。

 「なるほどね。」

 ナツメがそう言ったのでコボイが怪訝な顔をした。

 「なるほどってなんだよ。」

 「いや、髪型がコボちゃんだったから。」

 「どっちもいっしょだろ。てめーらは入団希望者だな。さっさと着替えろ。」

 コボイに連れられてみんなは着替え室に行き、調査球団の団服に着替えた。そして毛野茂の巨人の待つ球場へと向かった。

 「ゲームが始まったらあいつは無数の石を投げてくる。それを打ち返すかキャッチするのがてめーらの役割だ。俺が奴の最後の石を仕留めるまで続けるんだ。なお、石を打ち損ねたら汽車に当たるからな。」

 「なにそれ、罰ゲーム? 死刑?」

 「打ち返せ、それだけだ。」

 離れたところからいきなり大声が聞こえてきた。

 「プレイボール!」

 「ほら、始まったぞ!」

 直後に風切り音が聞こえてきて石つぶてが飛んで来た。

 アルファはアッガイのバルカン砲で応戦し、いろはとロカトが剣で応戦した。フィグは魔法で記者全体を覆うバリアを張ってあっさり防いでしまった。

 「フフフフフ、それではファールにしかならんな。泥仕合だよ。」

 声の主は石を投げている巨人だった。毛の模様がドジャースになっている。

 「さあ、本番だ。」

 大きく振りかぶり、体をひねって毛野茂の巨人の投げる石がフォークになった。いろはとロカトは空振りを始め、アッガイのバルカン砲も当たらなくなった。フィグのバリアが無ければトリプルシックスに当たるところだった。みんなのように魔法の道具を持っていないナツメはフィグのバリアの後ろでぼんやりしていた。

 「にいちゃん、エバさんからもらったうんこを使えば?」

 ナツメはかばんからうんこを取り出した。

 「何の役にも立ちそうもないけどな。」

 「賢者の石なんでしょ。それ。願い事がかなうんじゃない? 賢者の石だから、人間の都合には合わせてくれないと思うけど。欲しいものを言っても答えてくれないと思うよ。欲しいものじゃなくて必要なものって願うんじゃないかな?」

 「フィグは魔法使いじゃなくて、まさに賢者じゃないの?」

 ナツメはうんこを持って必要なものを考えてみた。

 「なんだっけ? あの巨人、みんながやってるのはファールにしかならんと言ってたな。もしかして、ホームラン打たなきゃならんのかな? 石を砕いたり止めたりしてるだけでは永遠に終わらないってわけか。15時間過ぎちゃったら負ける上にこの星に閉じこめられてしまうというわけか。壁の中の人類だな、こりゃ。うーん、ホームラン打つしかないのか。」

 そう考えた途端、うんこがバットの形に変化した。いや、長くなったうんこだった。

 「やはり、ホームランを打てというわけか。よし、やってやるぜ!」

 ナツメはうんこバットを持ってバリアの前に出た。そして飛んでくるフォークを打とうとしたが当たりそうもなかった。

 「おい、てめー、15時間以内にバッティングをマスターするんだ。」

 コボイに言われてうんこバットを振るが、当たる気配がない。それが2時間ほど続いただろうか。ほかのみんなはルールを理解してバリアの後ろに行き、観客を決め込んでいた。

 「応援くらいしてくれよ!」

 巨人は疲れる気配もなく、投げるのが楽しくて仕方がないようだった。いつの間にやら石でははなく野球ボールに変わっていた。

 「ルールを理解した者に最大限の礼儀だよ。打てればいいがね。」

 巨人は余裕だった。自分のピッチングに絶対の自信を持っているようだった。確かにかすりもしなかった。

 「なんだあの余裕。それにしても、急に野球っぽくなったな。消耗戦には違いないがな。」

 さらに2時間が経過した。

 「フフフフフ、大したものだな。4時間もバットを振り続けるとは。ここまでやったのは君が初めてだよ。君のバット、ボールを打てるようにはしてくれないが、スイングする体力は供給してくれるらしいね。何とすがすがしいバットなんだ。努力あるのみ、と言いたげだね。」

 ナツメはバットの機能に相当鍛えられたらしく、筋力や動体視力がアップし、ボールをとららえられるようになってきた。

 「ようし、自信がついて来たぞ。よし、見切った!」

 そう言ってナツメはついにボールを芯でとらえ、ホームランを放った。

 「わあ、ホームランってこんな気持ちいいもんなんだ!」

 「本番はこれからだよ。君はホームランを打つことはできたね。長時間の訓練と体力供給の賜物だよ。あのバットでしか実現できなかったことだよ。だが、ほかのメンバーはどうかな? 彼と同じような訓練を経ないとわたしのボールをとらえるのは不可能だろう。それにはそのバットの機能が必要だ。さて、それを持てる人間がいるかね?」

 バットは見れば見るほどうんこだった。ぬめりといい、てかりといい、温度といい、湯気といい、においといい、まさにそのものだった。誰も手に取ろうとも近寄ろうともしないと思われた。しかし、そこはきょうだいである。ロカトがまず手に取った。

 「確かにうんこのだ。」

 「よく持ったな、ロカト、勇者2号の称号を贈ろう。」

 アルファが気味悪そうに言った。

 「よし、来い、毛野茂の巨人!」

 ロカトは2時間ほどでボールをとらえ、スタンドへ運んだ。続いてフィグは3時間かかった。

 「上出来、上出来。あとは3人だな。さあ、どうする? あと5時間だ。」

 オキタ、アルファ、いろははとても無理そうだった。そこでオキタは手袋をして持って見たが、そうするとまったく効力が発揮されず、ボールをとらえる前に普通にばててしまった。

 「必要なのは開き直ることのようですよ。」

 オキタは意を決してうんこを握り、やがてボールをとらえることに成功した。

 「よし、あとは女二人だ。」

 「まずてめーがやれよ!」

 「俺は最後だ。そう決まってる。」

 アルファはいつまでも手を洗い、においを嗅いでいるロカト、フィグ、オキタをながめていた。

 ナツメがいらぬ応援をする。

 「君に必要なのは一かけらの勇気だ!」

 「やかましい。それを勇気とは言わん。変態と言うんだ。」

 「じゃあ、変態になるのを恐れるな!」

 アルファはとりあえず頭の中で未来を思い描いてみた。ここでうんこを持たなかったらこの星で囚われの身になるのは確定だ。『なんでこんなのに首を突っこんでしまったのか』とは思わないことにした。『あの時そうしておけば』という言葉を使いたくなかった。

 うんこは80パーセントは水分だと言い聞かせようともした。残りが食べかすと腸内細菌の死骸とナツメの腸粘膜だ。いや、そもそも金だったじゃないか。なんで金からうんこに変わってんだ? 賢者の石? ただの嫌がらせじゃねえか。許さねえ! 賢者ってのはうんこ博士のことかよ。」

 怒りで目覚めたアルファは、うんこを握って巨人のボールを一発で仕留めた。

 「あとはいろは、あんただよ。」

 「わかってるわよ。」

 そう言っていろはもうんこを持った。嫌な感触だったが、流されそうになる自分を必死で抑えていた。粘土遊びを思い出し、思い出にひたろうとする自分に気づいて怒りでいっぱいになった。いろはもまた巨人のボールを一発で仕留めた。

 「すばらしい! ナイスゲーム! さあ、コボイ、ついにゲームセットになるのか?」

 きれい好きだろうと推定されるコボイ兵長が果たしてうんこにさわるのか、みんなが注目した。

 「チッ、こんな形でこの日を迎えるとはな。」

 コボイはハンカチでうんこを包んで持った。

 「それでは打てないことを目の前で見ただろう?」

 「ふん、能書きはいいからさっさと投げろ。」

 巨人は大きく振りかぶってボールを投げ込んできた。誰もが無理だと思っていたが、コボイはみごとに一発で仕留めた。

 「なぜだー?」

 「ふん、アルファといろはといったか、てめーらも素手で持つ必要はなかったんだ。十分身体能力があったからな。このバットは必要な能力を身に着けるまで訓練をサポートしてくれるものだったんだ。

 それと、テメーらの持ち物のうち、あいつのボールを跳ね返す強度を持つバットはそれしかなかったというのもある。俺が欲していたのはその強度だけ。打ち返す力も技術もすでにあったからな。でなかったら、ハンカチ越しでもこんなもの持つかよ。」

 「おめでとう諸君、ゲームセットだ。」

 「みんな見てるか、これが俺たちの未来だ。」

 「ホームランって気持ちいいな。もう一回打ちたいな。」

 「じゃあ、投げてやるよ。」

 「ホームランを打つまで、何度でも放つ。ボールを打つのは道具でも技術でもない、王女にもらったお前自身のうんこだ。」

 「この変態め。今日は食事抜きだ。」

 ナツメをのぞいてみんなはとにかく早く風呂に入りたかった。

 「時間がねえぞ、急いで体を洗うぞ!」

 一行は進撃の巨人の星を後にした。

 「そして彼らはその星から巨人軍(?)を駆逐した。」

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