第二部 銭湯潮流
「惑星かわ屋~かわ屋です。停車時間は地球時間で24時間です。」
トリプルシックスは惑星かわ屋に停車し、車掌の案内の後ドアが開いた。
「ずいぶん長く停車するんだな。」
「汽車の中にいるのも退屈だし、外に出ようよ。」
「まったく、どういう場所かもわからないよ。」
「24時間ということは明日のこの時間に発車だよな。汽車で一泊することになるのかな。止まっている意味ないんじゃないかな。」
「お腹すいたらよさそうなところで食べようよ。」
みんなは記者から降り、駅のホームに降り、改札で切符を見せてから外に出てみた。トンネルのような入り口から外に出ると、少し離れたところに奇妙な建物が建っているのが見えた。
「何これ?千と千尋って感じなんだけど。」
「もしそうなら、かなり危険だよ。」
「まあ、とりあえず行ってみようか。ただし、何も食べないことだね。」
バイオレット・スパーガーデンに行くはずが、異世界に迷い込んだようだった。
「まあ、悩んでも仕方がないからね。まずはこの24時間を楽しもう。」
そう言ったナツメだったが、建物に近づくにつれて便意を催してきた。
「い、急ごう、っていうか、先行ってるね。」
あっけにとられるみんなを後に、ナツメは一目散にかけていった。
「ま、まずい。うんこしたい~!!トイレはどこだ~!もれる~・・・」
ナツメは川の上に立っているトイレらしき建物を見つけた。
「やったぞ。間に合った。」
ナツメは急いでドアを開けてそこがトイレだと確認し、事なきを得た。
「ふ~♡助かった。」
ナツメがトイレから出てきたところにみんなもやって来た。
「何やってんだよ。社会見学の小学生かよ。」
「何を言うか。学校とか社会見学でうんこする男は勇者なんだぞ。女の子は分からんのだ。おしっことうんこのどちらも同じ場所でするからな。誰にもばれずに用を足せるじゃないか。しかし、男はそうはいかない。完全に大便とばれる。代弁できないんだぞ。それを勇気をもって挑む者こそが真の勇者となれるんだ。しかもボクは学校や社会見学の勇者を超え、宇宙の勇者となったんだ!」
「にいちゃんすごいな。」
「感心するようなことか?」
ナツメの演説を聞いていると、突然、トイレの下を流れる川から何者かが姿を現した。
「あなたが流したのは、この金のうんこですか?それともこちらの銀のうんこですか?」
「なんだ~?泉の妖精ならぬ、厠の妖精か~?」
「え~?何?そのどっちでもないよ。ボクが流したのは本物のうんこだよ。」
「あなたは正直な人ですね。その正直さゆえに、この金のうんこを差し上げましょう。」
そのものの姿をした金のオブジェをナツメは受け取った。ずっしりと重いそれを、ナツメは恐る恐るにおいをかいでみたが、金属臭だったのでとりあえずホッとした。
「それってほんとに金でできてるの?」
「そうみたいだよ。金は水の約20倍の重さだから、5キロくらいだね。」
「いやな計算してねえか。」
「それにしても、どうしようね。こんなのもらっても、どうしようもないよ。ゴールドハンターだったら喉から手が出るほどほしいだろうけど。うんこを喉から手が出るほどなんて、だね。そうだ、オキタだったら換金できるんじゃない?」
「まずは本当に金かどうか確かめないといけませんね。」
「よくある、噛んで確かめるっていうやつかい?面白い絵になるね。」
「噛みませんよ。」
どうもこうもないので、ナツメは金のうんこを背中のカバンにしまった。
「さあ、あの建物に行ってみよう。」
みんなが想像していた食べ物屋さんや何やかやはなかったが、どこかで見たやつが橋の上でたたずんでいるのが見えた。
「あ、あの黒いやつだ。ここにも来たんだ。」
そう言うと同時に、ナツメはチラッといろはの動きをうかがった。急いで射程距離外に逃れる。ナツメはその黒いのに声をかける。
「あのさ、ここって何の建物か知ってる?」
黒いのは手を出すと、その手から金のうんこを出して見せた。
「・・・余計訳が分からなくなった。」
すると出し抜けに声がした。
「ここで何をしている!」
「よかった~ハクが来てくれたよ。」
みんなが大きな期待を込めて声のするほうを見ると、まったく当てが外れてしまった。鼻はゾウ、目はサイ、尾はウシ、脚はトラの姿のおっさんがそこにいた。
「ハクならぬバクかよ。どっと疲れたよ。」
次から次へとおかしな展開に引き込まれ、みんなはしらけ気味だった。バクは一行を咎め始めた。
「ここは湯ババーバ・バーババ様が経営するかわ屋であるぞ。貴様ら、ここのかわ屋を無許可で使ったであろう。無銭排便の罪により、ここで強制労働だ。よいな。」
アルファが文句を言う。
「なんだ~無銭排便だ~?湯ババーバ・バーババだ~?ここ、銭湯じゃなくて便所だろ、だったらクソババーバ・バーババだろうが。」
「貴様、なぜ湯ババーバ・バーババ様の本名を知っている!?なんてことだ、いきなり呪いの解除呪文を使われてしまった!恐るべき女だ。」
「なんだてめえー、ヌケサクかよ。」
「貴様なぜ俺様の名前を知ってるんだ!」
「やれやれだぜ。」
「あのさ、ボクらはあと23時間くらいあるから、その間働いてもいいよ。」
「何言ってやがる。あたしらを巻き込むな。」
「いいじゃないか。面白そうだし。」
しばらくアルファとナツメは言い合っていたが、いろはの一言で了承することになった。
「まあ、やってみましょう。この変な世界の謎は中に入りこまないと解けないでしょうし。」
「わかったわよ。ナツメの金のべらぼう、換金したら分け前もらうよ。」
「じゃあ、これあげるよ。」
「換金してからだ。」
「おい、ヌケサク、案内しろ!」
「いいだろう。湯ババーバ・バーババ様のところに案内しよう。」
一行はバクの案内で、湯ババーバ・バーババのオフィスへ行った。
ここでオープニングが流れる。
SAY WAAAH! バババーババーババSTAND UP・・・(割愛)
「・・・いいのかな・・・こんな展開。」
湯ババーバ・バーババは頭が金髪アフロのばあさんだった。
「ここは八百万のトイレの神様が用を足しに来るかわ屋じゃ。それをお前たちは勝手に使いおって。罰としてトイレ掃除をしてもらう。」
「なんで『たち』って括ってんだよ。クソしたのはナツメだけだろ。」
「そうはいっても、君たちだっていずれはトイレに行くんじゃないの?」
「駅ですりゃいいだろ。」
「それは結果論であって・・・」
「フフフフフ、ナツメとやら、おぬしは何かとトイレに縁があるようじゃの。」
ナツメは便器をなめさせられそうになった(はずの)屋敷お化けを思い出した。
「トイレの神様が用を足しに来るって、確かにまあ、自分で自分の中にうんこするわけにもいかないか。頭の池に飛び込んだ人の落語はあるけど」
湯ババーバ・バーババは何やら紙切れを出して来た。
「これがこの館の見取り図じゃ。厠のしるしは分かるな。」
「ていうか、部屋全部便所じゃないか。」
「トイレの神様って、どんなクソすんだろうな。」
「なにウキウキしてんのよ。」
「そういえば、最初はカマジイのとこに行くんだったはずだけど、展開が違うね。」
「各便座に温水器ついてて、ボイラー室はいらないんじゃないですか。」
湯ババーバ・バーババは騒がしい連中にイライラして叫ぶ。
「さあ、さっさと仕事しな。おい、エバ、お前がこいつらの面倒を見るんだ。」
湯バーババに呼ばれて若い女性がみんなの前に現れた。おどおどしていて、かなり湯バーババを怖れているようだった。
「エバです。し、仕事場に案内します・・・わたしについて来てください。」
エバはみんなと目を合わすのも嫌がっているようだった。早速ナツメがペラペラ話しかける。
「君はシャア・アズナブルという男を知っているかな。」
「ナツメの奴、また始まったぞ。」
「それはそうと、薄いピンクのマニキュアの女の子は恋に臆病。肝心なところで本当の恋を逃す。これは占いというより心理テストだな。恋でなくても今、何かを恐れているだろう。」
「ビビッてんのは見たらわかるだろ。なんか違う展開に引き込もうとしてやがる。」
「あ、あの、ゴム手袋するとはがれるので、マニキュアはつけてないんですよ。」
「やーい、真面目に答えてもらってやんの。」
「何を遊んでおる!さっさと仕事をしないか!」
「は、はいっ。すみません。み、みなさん、仕事場へ向かいます。」
湯ババーバにどやしつけられ、エバはあわててみんなを部屋から連れ出した。」
「ねえ、エバさん、何をそんなに怖れているんです?よかったら話してくれませんか。ここにいるみんなは頼りになりますよ。」
オキタがエバに道々話しかける。
「・・・・す、すみません。」
「い、いや、謝らなくても。」
今度はいろはが尋ねる。
「何か弱みを握られてるのね。安心してよ、今日中に解決してあげるわ。」
「お、いろはも大きく出たね。エバ、元気出してよ。彼女はサザエさんみたいって言うとマッスル・インフェルノするいろはで、こっちのミンキー・モモみたいのはアルファっていうんだ。この二人は強いよ。」
言うやいなや、ナツメは二人にマッスル・キングダムを喰らってしまった。
「ほ、ほらね・・・」
「あ、あの、早く仕事に取り掛らないと・・・」
何を言っても彼女は上の空のようだった。彼女はまず最上階へみんなを連れて行き、掃除用具入れの部屋に入った。入った途端、ナツメが素っ頓狂な声を上げる。
「何だこりゃ。」
そこはとても掃除湯具入れに見えなかった。ほうきや塵取り、バケツもあったが、なぜかバールやスコップ、巨大ハンマー、ドリルやセメントなどの左官用具もあり、おまけにビームサーベルやバズーカや防具類まで置いてあった。
みんなが辺りを観察している間に、エバはいきなり服を脱ぎ始めた。
「な、何ですかー!・・・」
彼女は服の下にバトルスーツを着ていて、武器類の選択に取り掛かった。
「ひゃー、びっくりした。」
「今日はお腹を壊している方が多かったので、何かと手間取ると思います。重装備で行きましょう。」
「何の話?」
「まずはわたしが適当な道具をあつらえます。」
エバはみんなの体形に合わせてバトルスーツと武器類をチョイスしてくれた。それとは別に、小さな掃除機のようなものを手渡された。
「この掃除機のようなものはスイーパーといいます。破壊したターゲットをこれで回収します。」
しばらくして全員着替え終わったのだが、アルファがナツメに切れた。
「ナツメ、てめー、なんの冗談だこれは!」
アルファはハマーンの服を着てアッガイを従えていた。
「そう言いつつも、ポーズ決めてドヤ顔じゃないか。そもそも、選んだのボクじゃないよ。それに、ハマーン様は戦闘服を着ないし。」
「うっせーぞ。」
いろはは自分に用意された服を着て、いや~な顔をしている。ナツメはそれを見て笑い転げている。
「なによこれ。」
ナツメが笑いながら説明する。
「メガロマンだ。髪の毛振り回して攻撃するんだ。裏番組は新巨人の星だったなあ。」
早速いろはは髪の毛を振り回してナツメを薙ぎ倒した。
「うぎゃー・・・」
「皆さん、用意はいいですか?」
「エバちゃん、その服なんか、かっこいいね。綾波のコスプレみたいだよ。」
「い、いや、体の線が出て嫌なんですけど。」
「ちょっと、このメガロマンの服、嫌なんだけど。何とかならないの?」
エバは目を回しているナツメを見ながら答えた。
「す、すみません。髪の毛に合わせたんですけど・・・攻撃力は十分かと。お気に召しませんでしたか?」
「嫌よ!」
ナツメが起き上がって茶化す。
「律儀に着込んでいるところはすごいね。」
「うるさい!」
「それでは武器の種類で考えてみますか?ソードマスターがいいですか?ガンマスター?素手や蹴りのキャラもありますが。」
「ソードマスターでいいわ。」
エバは別の着替えを持ってきて見せた。
「じゃあ、長い黒髪に合わせて、無限戦士ヴァリスでいいですか?」
ナツメが早速反応する。
「いいねー!似合うと思うよ。しかも、この短いスカート、鉄芯が入ってて絶対めくれないんだよ。」
「つまんない部分を強調しないで!」
いろはが着替えるのを待って、みんなはようやく仕事に向かった。オキタは沖田艦長の服を着ていたが、腰に無重力サーベルを下げていたので、これはハーロック使用のようだった。ナツメはバンダナをまいたスケベ青年、ロカトとフィグはオーソドックスに勇者と魔法使いの恰好をしていた。
「それでは皆さん、スイーパーは持ってますね。覚悟はいいですか?ドアを通ったらすぐに閉めますので気を付けてください。」
エバはドアに付いているタッチパネルにパスコードを入力した。
「パスコードは『37564』、『皆殺し』と覚えておいてくださいね。」
「物騒だな~。」
「それでは行きますよ。」
重いドアが『プシュー』という音とともに開いていった。ドアの内側から異様な匂いが噴き出してきた。
「うえっ、トイレの匂いにいろんなのが混ざってるぞ。」
「ではドアを閉めます。まずはお客様が入っていないルームからスイープしてください。油断すると増殖や巨大化しますので、残さず吸い取ってくださいね。まずはわたしが手本を見せます。」
仕事に取り掛ったエバは、先ほどと打って変わって凛々しくなっている。エバは一番近くにあったルームのドアの前にみんなを案内した。
「このルームは使用後の状態です。それでは見ててください。」
トイレと聞いていたので、みんな便器がある狭い部屋を想像していたのだが、キラキラの大きな部屋の真ん中にプールがある光景が広がっていた。エバはビームライフルとシールドを構えてプールに近づいて行った。すると突然プールの中からミミズのような姿の巨大な生き物が飛び出してきた。
「何だ!」
エバは素早くライフルを構え、引き金を引いた。
『ズキューン!ズキューン!』
ミミズのような生き物は粉々に四散し、エバは腰に下げていたスイーパーで残骸を吸い取って行った。
「とりあえずここは1匹だけのようです。それでは皆さん、始めましょうか。スイープが終わりましたら、ドアの前に掃除完了のチェックボタンがありますので、それを押してくださいね。」
「何あれ?」
「お客様が用を足した時、お腹の中の蟲が排泄物と一緒に出て来るんです。それをスイープするのがわたしの仕事です。」
「聞いてないよー!スイープってゴーストスイーパーのこと~?助けて~ミカミさ~ん!」
「誰呼んでんだよ。意気地のない横島なやつめ。」
「それでは、ビーム攻撃とソード攻撃、スイープ係が二人ずつでいいんじゃないですか。」
「アルファはアッガイで、ロカトはシューティングゲームが上手いからビーム係で、いろはとオキタはサーベル係、僕とフィグがスイープ係をやるね。いろはは高く飛べるの?」
「変態め、期待したってヴァリスのスカートはめくれないんだぞ。」
「そのスカートは重力制御で、どんなポーズでも通常の位置に収まるように出来てますよ。」
「鉄芯じゃあなかったんだ。あのブーメランぶん投げる女の子や甘露寺さんやカナヲさんのスカートもそうなんだろうなあ。ああ、アニメのかごめもそうだな。足がどこから生えてるかわからなくしてるんだよなあ。昔のタツノコはよかったなあ。」
「もう、ごちゃごちゃ言ってないで、仕事するわよ。」
いろはに急かされて、彼女が指差すルームのドアを開けて中に入っていった。そこは草原のルームで、真ん中に池があった。戦い方も知らない状態でぶっつけ本番のため、みんなは固まって池に近づいて行った。ロカトにはいろはの姿がまぶしく映った。
「いろはさんって、度胸ありますね。格好いいです。」
「今回はエロかっこいいんだよね。」
「どこ見てるのよ!」
「いやあ、意識してなくても視界に入ってしまうよ。」
「仕事に集中しろ。」
「そうだよ、兄貴、いろはさんは真面目にやってるんだから。」
「メガロマンで真面目にやればよかったのでは?」
「いちいちうるさい。」
3人が騒いでいると、池の中から先ほどのミミズと似たやつが現れた。
「出たぞ。しまった。打ち合わせしてなかったよ。」
「兄貴が太ももばっかり見てるからだ。」
「もう、しょうがないわね。」
いろははサーベルを構えてミミズに走り寄る。コスチューム全体に重力制御装置がついているので、いろはは天井高くジャンプし、体勢を逆さまにして虚空を地面のように蹴って急降下し、サーベルをミミズに打ちおろした。
「兄貴、どさくさに紛れてスカート覗いていただろ。」
「見えなかったからセーフだろ。」
「そういう問題じゃないだろ。」
「何やってるのよ!細かい残骸はスイーパーで吸い取ってよ。」
二人はあわてて作業に入った。ロカトはちぎれて蠢いているミミズを剣でさらにミンチにした。手伝い不要と見たアルファはアッガイにもたれてオキタと共に傍観者を決め込んでいた。ナツメとフィグは次から次へと散らばる残骸をスイーパーで吸い取って行った。
「う~ん、気持ち悪いよ~。」
「フィグ、兄貴、その調子。」
そう言ってロカトは剣で薙ぎ払っていった。
「ふ~。ま、上手く行ったようね。次行くわよ。」
「次はわたしの手番が来るかな。」
アルファはもっと強いのに出て来て欲しいようだ。
次の便所は森のような木々が生い茂る部屋だった。森の中に泉のように見える便槽があった。
「森の中の泉ってやつかな。それこそさっきの厠の妖精の出る感じだよ。」
今回もいきなり泉の中からミミズのような生き物が飛び出してきたが、今度のは黒い色をしていて、2匹以上いるようだった。
「今回はわたしが先制するぞ。」
アルファがアッガイのガトリング砲を撃ちこんだ。
『キン、キン、キン』
なんと黒い奴は弾丸を弾き返した。ナツメが面喰ったように叫ぶ。
「ありゃりゃ、ハリガネムシかよ。こいつ固いぞ。ここでクソしたのはカマキリの神様かよ。」
アルファはなおも続けて撃ちこむが、ハリガネムシはのけぞるだけでダメージがないようだった。
いろははサーベルを抜いてハリガネムシに切りかかった。
『ガッキーン』
「硬いわねえ。オキタはどう?」
「無重力サーベルだと傷はつけられるようです。でも、とどめを刺すのは少し時間がかかりそうです。」
ロカトの剣攻撃も、ハリガネムシは風に流れる柳のようで、みんなの攻撃はハリガネムシの足止め程度にしかなっていなかった。
「どうすりゃいいんだ、こりゃ。」
みんながジリジリしていると、フィグが自分の職業を思い出した。
「そういやわたし、魔法使いだ。何か魔法が使えるのかな?」
「ハリガネムシの駆除にはフェロモンを使うらしいぞ。」
ナツメが妙なことを言うので、フィグが混乱してしまった。
「フェロモンの魔法って、叶姉妹でも呼び出せたらいいけど。」
「ナツメをカマキリに変えて腹の中に戻したらどうだ?」
「そりゃないよ~。」
フィグはエバのアドバイスを思い出した。
そういやエバ姉ちゃんが『魔法使いは想像力がカギを握っています。アイデアを具現化できるのがフィグさんの魔法使いコスチュームの特質です。』って言ってたわ。」
「フィグ、これは勝ったも同然じゃねえか?」
「そうだ! 変換魔法って思いついちゃった。ハリガネムシを柔らかくしちゃお。にいちゃん、なんか名前考えて。」
「よし来た。ハリガネラーメンってどうだ!」
「フィグ、ナツメにそれをかけてやれ!」
「いやああ・・・」
「じゃあ、ハリガネソーメンで。」
「どうでもいいから速く魔法を発動してよ!」
「ラーメン、ソーメン、ぼくキシメン!」
そう言ってフィグがステッキを振ると淡い光がハリガネムシに放たれた。とたんにありファのガトリングガンでハリガネムシはバラバラになり、いろはとオキタのサーベルでもスパスパ切れ始めた。
「よし、回収回収。」
スイーパーを持ったナツメは掃除のあんちゃんにしか見えなかった。
「フィグ、お手柄だねえ。」
一行が部屋から出ると、エバが両手をついてうずくまり、肩で息をしていた。体のあちこちに傷もあるようだった。エバはみんなに気づいて顔を上げた。
「皆さん、戦いに慣れてらっしゃるようですね。次は相当な難敵です。こんなのは今まで経験したことがありません。今何とか逃げてきたところです。」
「え~?!君がこんな目に遭う敵ってどんなだよ。」
「面白そうじゃないの。」
アルファは俄然やる気満々だ。
「わたしもまだ消化不良だし。」
いろはも戦闘モード全開になっている。
「一体どんな敵なのやら。」
一行はエバが退散してしまったその部屋のドアを開けた。エバもみんなの姿を見て勇気を得たのか、立ち上がってついてきた。
『ブオーオー、ブオーオー』
「何だ?法螺貝か?」
「あれはサナダムシの軍勢です。サナダムシが真田丸という砦を築いて待ち構えているんです。あらゆる攻撃を跳ね返してしまうんです。」
「何だそりゃ。悪趣味なダジャレだな。」
「あの砦は背後が壁で、盛り土をして前面を塀で囲んでいます。塀に近づくと上から粘液を落としてきます。重力制御スーツで上空から攻撃しようとすると、ひものような体を巻きつけて来て、動きを止められるんです。」
「うえ~、サナダムシに巻きつかれるなんて、麺類を食べられなくなるぞ。」
「しかもサナダムシはかなり硬いんです。」
「コシの強いきしめんだね。」
「気分悪くなるからやめろ!」
「ようやくわたしの出番のようね。オイ、どけ。」
アルファがアッガイとともに不敵な笑みを浮かべた自信満々の顔で、わざわざナツメの顔を押しのけて進み出た。そんなナツメはチャンスとばかりにセリフを言う。
「この感じ、シャア・アズナブルか?」
「言うと思った。出撃!」
アルファはアッガイの背中に乗って飛び上がり、真田丸に向かっていった。大勢のサナダムシがアルファとアッガイに向かって飛びかかってきた。アッガイは六連バルカン砲を発射してサナダムシを蹴散らし、城壁の内部に飛び下りていった。いろはが慌てて真田丸に向かって走っていった。
「もう、無謀なんだから。背中に乗ってるだけなんだから、後ろから狙われたら一たまりもないじゃないの。」
いろはに続いてナツメやロカトたちも駆け出した。いろはが心配したとおり、アッガイが着陸した途端、サナダムシはアッガイの脚に巻きついて動きを止め、上に乗っているアルファを縛り上げようと狙いを定めた。アルファはアッガイのビーム法を撃ちまくって防いだが、なにせ数が数だ。
「アルファ、今助けるぞ。『よかった、強い子に会えて』なんて遺言しちゃだめだぞ。」
「うるさい、俗物!」
いろはが一足早く壁際に到着し、高く跳躍して城壁の内部に入り込み、サーベルでサナダムシを蹴散らし始めた。ナツメたちは城壁に来てからそこを登る手立てを持っていないことに気づくというへまをやらかした。
「しまった! 徳川軍と同じ失敗をしてしまうとは! 調査兵団の装備にしておくんだった!」
フィグは魔法で壁を透視して隠し通路を見つけた。
「にいちゃん、隠し扉を見つけたよ。中に階段で上に登れるみたいだよ。」
「でかした、フィグ。よし、突撃!」
ナツメ、ロカト、フィグ、エバは急いで階段を登っていった。階段は城壁の中の{櫓}(やぐら)の下に通じていた。みんなは敵のど真ん中に出た。
「うわっ! サナダムシがうじゃじゃいるぞ!」
「一匹残らず駆逐してやる。フィグ、魔法で焼き払えないか?『焼き払え! 薙ぎ払え! どうした、それでも最も邪悪な者の末裔か?』ってやるんだぜ。」
ナツメが待ってましたとばかりにドヤ顔で宣言した。
全員体力のかぎりにサナダムシを駆除し、スイーパーで残骸を吸い取った。ここで苦労したのはサナダムシが造った真田丸の解体だった。
「どわー、これは疲れたね。エバちゃん、ぼくたちがいなけりゃ、これ一人でやらなきゃいけなかったの?」
「無理だったと思います。皆さんが来ていただいたのは、まさに奇跡です。」
「あれまあ、最高級の褒め言葉で。」
一行は次々と仕事をこなしていき、ようやくすべての部屋を掃除した。
「みなさん、ありがとうございました。今日の分は完了しました。何とお礼を言っていいのか・・・」
「ああ、楽しかったよ。」
「それでは皆さん、入浴と着替えに行きましょう。」
エバはみんなを休憩室へ案内した。着替え終わるとエバが食事を持ってきた。
「ゆっくり休んでください。」
食事をしながらいろはが言った
「まだ仕事は終わってないわ。」
「え?」
「あなたの問題を解決しなきゃね。」
「で、でも・・・」
「あの湯ババーバに名前を奪われて、記憶もなくしてるみたいね。」
「わ、わたし、実を言えば、思い出したくないんだと思います。」
「『思い出したくないものだな、若さゆえの過ちというものを』って感じだね。このままだとずっとローププレイが続いちゃうよ。」
「変な例えはやめろ。」
「とにかく、エバさんのエバってのがヒントだよね。名前をビンゴすればいいんじゃないでしょうか?」
ロカトが何とか助けになりたいという顔をして言った。
「ハクの場合はハクの前後をコとヌシではさまれてたよね。エバの前後の文字を連想してみようよ。」
「なるほど、兄貴、さすがだ。」
「どうせ変なの思いつくぞ。試しに言ってみなよ。」
「わたしにも古い名前があってね、エバータ。アスワンツエツエバエ・・・」
「どうしてそれを・・・」
「おい、嘘だろ。」
「あ、いえ、気のせいでした。」
「それが正解だったら思い出したくないのは当然だけど。」
「惜しかったみたいだよ、にいちゃん。」
「どこかだよ。」
「そうだな、この調子だ。みんなも連想ゲームだぜ。エとバに何かはさまるんだったら難しいぞ。プリプリエビバーガーとか。」
「エバさん、見た目綾波みたいだから、エバンゲリオンでいいんじゃないですか? もしくはエバーガーデンなんてそれっぽいですが。戦ってるときはミカサみたいでしたし。」
「エババーバ・バーババってことはないよね。」
「エバン・・・」
「あ、やっぱりエバンゲリオンが近いんだよ。」
しかし、エバは頭をかかえて嫌がってるようだった。
「エバン・・・その先は聞きたくない。」
「エバ、思い出したくないものでも、真実と向き合うべきだと思うわ。たとえ残酷な事実でも。」
「もしかしたら、残酷なことというより、恥ずかしいことじゃないかな。」
ナツメのその言葉にエバは激しく反応した。
「ああ、ああ、やめて・・・」
「え、え、もしかして・・・」
「やめてください、お願いします。」
「にいちゃん、何を思いついたの。」
「エバちゃん、そういうときは『野郎、なんてことを思いつくんだ』って言うんだよ。」
「そうそう、エバ、ナイフをしこたまナツメに投げつけるんだ。」
「わかりました。」
「いやー、本気にしないで。」
「よほど触れられたくない過去なのね。記憶がなくても心底嫌悪してることなのね。」
「ごめん、その触れられたくない過去はわかっちゃったよ。」
ナツメの言葉にみんなは驚き、エバは泣き出した。
「エバちゃん、『真実はいつももひとつ』なんだよ。うーん、励ましになるかどうかわからないけど、アルファの恥ずかしいことよりましだと思うよ。エバちゃんは鉄格子が好きかな・・・」
「それ以上言うんじゃねえ。」
間髪入れずにアルファの膝蹴りがナツメをとらえた。
「いたたたた、いいじゃないか、君の歴史が人助けになるんだから。」
「アルファねえちゃん、鉄格子が好きなの?」
「ナツメが余計なこと言うからややこしくなっただろうが。」
「めぞん残酷にはあるかもしれませんよ。」
「ロカトも黙れ。」
「す、すみません。」
「もう、人が悩んでるんだから。エバ、湯ババーバはあなたの弱みを利用してウハウハが止まらないのよ。悪しき流れを断ち切る必要があると思うわ。真実を知って前を向いて進まなきゃね。あなたのことを苦しい思いで探してる家族もいると思うわ。それでも、あなた自身が決断しなきゃならないけどね。どう、真実を知る勇気があなたにあるかしら?」
「・・・・・」
「兄貴、ここは兄貴の奇跡を起こす力の見せ所だよ。」
「そんな大層な・・・エバちゃん、名前だけでもビンゴしていいかな?」
「・・・わかりました。名前を思い出すのを嫌がるのはやめます。」
「ようし、みんな、恥ずかしそうな名前を片っ端から思いつこう!」
「なんだその悪質な罰ゲームみたいなのは。」
「あ。」
「どうしたの、にいちゃん?」
「この流れで行くと、名前までそのネタがらみかも。」
「どういうことよ。」
「名前と恥ずかしいことがコラボってるんじゃないかと思うんだよ。」
「結局はエバの気持ち次第ってことね。エバ、自分の過去と向き合う覚悟がいるようよ。どうかしら。」
「ローラ姫と宿に泊まって宿屋の主人にのぞき見される勇者の覚悟だよ。それが世界を、いや、今回は君を救うんだ。」
「にいちゃんすごいね。」
「感心するな。」
「わかりました。わたしも覚悟を決めます。自分が何者かを知るのは確かに怖いです。でも、きっと家族はわたしと会いたくてたまらないと思います。わたしも会いたい。会いたいわ。」
「そうね。わたしも生き別れたお父さんを探しているわ。何をしてるのかはわかってるんだけど、その場所がわからないの。」
「そうか、ラジオを聞いてジャンプ読んでるんだったね。しかもまだ千代の富士が現役なんだよ。」
「いちいちうるさい!」
「じゃあ、エバちゃん、まず名前を聞く勇気があるかい? 家族に会いたい気持ちを強く持とうよ。」
「ど、どうぞ。」
「兄貴、一体どんな・・・」
「じゃあ、言うよ。君の名はゲリピー、エバンゲリピーだ。」
「いや、それ、恥ずかしいというより、エバンゲリオンファンに殺される方が問題だろ。」
「でも、まだ半分だと思うよ。それ苗字だから。ということで、話の流れと殺される流れで行くと、名前も想像がつくよ。もともとバイオレット・スパーガーデンに行く予定だったから、バイオレットがらみだね。なので、君の本当の名は、バイオレンス・エバンゲリピーだね!」
「もう、そのネタやめた方がよかったんじゃない?」
「わ、わたし・・・」
エバはボロボロ泣き出した。と、そのとき、遠くから奇妙な叫び声が聞こえてきた。
「グオオオオオー、あの名前を言い当てる奴がいるとは! まさか、そんなことが、ま、まさか、伝説の勇者が実在したとは・・・・」
「ナツメさん、あなたが伝説の勇者だったとは・・・」
「やっぱりにいちゃんはすごいね。」
遠くからエバを呼ぶ声が聞こえてきた。
「バイオレンス、バイオレンス、どこにいるの?」
「お父さん、お母さん、ここよ、ここにいるよ。」
エバは休憩室から飛び出し、みんなもあとに続いた。
「あ、あれは・・・」
まだ変化が解けていなかったのだが、こちらへ向かってかけてくるのはバクと厠の妖精だった。それぞれエバの父と母だった。
「お父さん、お母さん!」
「バイオレンス!」
三人は駆け寄って抱き合い、うれし泣きに泣いた。
「よかった、よかった。」
「みなさん、ありがとうございます。元に戻れる日が来るなんて、夢のようです。湯ババーバ、いや、クソババーバ・バーババの呪いをとく伝説の勇者が実在したなんて、奇跡の中の奇跡です。」
「一体、どうなってんのよ!?」
エバはナツメの方を見た。ナツメはニコニコしていたが、それ以上語らなかった。エバはホッとしたようだった。しかし、心の中に決意を固めていた。そしてみんなに話し始めた
「みなさん、改めてお礼を申し上げます。わたしはこの国の王女で、両親は王と王妃なんです。ぜひとも皆さんに感謝を贈らせていただきたいです。なぜこんなことになったのか、その顛末もお話ししたいので、準備ができ次第王宮にお招きします。いいですよね、お父さん、お母さん。」
「ああ、もちろんだよ。わたしたちからも心からのお礼をしたい。」
「でも、わたしたち、明日の昼には汽車に乗らないといけないんです。」
「はい。承知しています。急いで用意します。」
「あのヌケサクが国王だったとは・・・」
「お礼ってでも、元に戻ったばかりで無理しなくてもいいのにな。」
翌日、一行は王宮の広間に案内された。そこは湯ババーバのオフィスだったところだった。
「湯ババーバはどこへいったんだろう?」
広間には三つの玉座が並んでいて、国王、王妃、そして王女のエバが腰かけていた。どうやら従業員はもともと家臣や兵士であったようで、みんな整列していた。エバが立ち上がり、一行の前に進み出た。
「皆さん、この国をお救いくださり、ありがとうございます。湯ババーバの呪いによってこの国は乗っ取られ、国民は惨めな思いを強いられました。それもこれも、みんなわたしのささいなこと、いや、わたしにとっては人生を左右する重大なことのために、この災いを招いてしまったのです。
わたしに勇気があれば、そう、ナツメさんという偉大な勇者のように振る舞えれば、こんなことにはならなかったのです。わたしにもナツメさんのような勇気が一握りでもあれば・・・
だから、わたしは勇気を振り絞って自分を変えようと思います。その第一歩として、何が起こったのか、一同の前で告白します。それがわたしの勤めであり、勇気の印だと思います。
ナツメさんがこの星に来て最初に駆け込んだのが厠でした。」
「ああ、あれね。そこで妖精が出てきたんだけど、まさか女王さまだったとは・・・」
「兄貴、静かに!」
「正直に言います・・・その厠、お化けが出ると言う噂のトイレでした。わたしの知る限り、誰も入った者はいませんでした。しかし、わたしはどうしても入らなきゃいけなくなったのです。どうしても間に合わなかったです。ちょうど社会見学のときでした。そこでまさかあんなことになろうとは・・・
現れたのです、妖精が。その妖精とは、湯ババーバ・バーババ、いや、クソババーバ・バーババだったのです。彼女は『おまえのしたのはこの金のうんこか、それとも銀のうんこか?』と聞いてきました。わたしは正直に言えなかった。恥ずかしくてどうしても言えなかった。そこでわたしは『銀の方』と言ってしまったのです。
湯バーババは『正直に言わなかったね。その呪いとしてわたしがこの国とお前の名前をもらうぞ』と言いました。そして父である国王はバクに姿を変えられ、母は湯ババーバがやっていた厠の妖精にさせられ、わたしはトイレ掃除人となりました。実はわたしは自分の名前も好きではなかったのです。その名前を忘れることができるのなら構わないとも思ってしまいました。
あれからどのくらいたったでしょうか。そこへ伝説の勇者、ナツメさんが来てくださったのです。そして堂々と厠に入り、堂々と自分のしたありのままの事実を妖精つまりわたしの母に告げたのです。なんと勇気のある方でしょう。そしてその勇気と知恵は、わたしの閉ざされた心を開いてくれました。わたしに事実を受け入れ、告白する勇気をくれたのです。
ここでわたしは告白します。わたしの名前はバイオレンス・エバンゲリピーです。あの日、わたしは厠でうんこをしました。本物のうんこをしたのに、銀のうんこと答えてしまいました。どうしても本当のことが言えなかった。わたしがしたのは本物のうんこです。
やっと言えました。ああ、この日が来るなんて。なんとすばらしい日でしょう。どうか厠の勇者たち、そしてうんこの勇者たちに栄光あれ!」
「{たち}(・・)って、いっしょにすんじゃねえよ。うんこ野郎はナツメ一人だろうが。」
「やっぱりにいちゃんはすごいね。」
「さすがだ、兄貴。」
「ああ、そうだ、あのときもらった金のうんこなんだけど、お返しします。もしかして、この国の宝物じゃないですか?」
「どうか受け取ってください。金のうんこはあなたが持つにふさわしい。」
「いや、いいですよ。たしかに自分のとそっくりですけどね。」
「・・・・・」
なぜかそこでエバは黙ってしまった。
「どうしたんですか。」
「いえ、わたしのも同じなので・・・」
「・・・・・」
「何だあの二人。」
そうこうするうちに、汽車の発車時刻が近づいてきた。
「行ってしまわれるの?」
「ああ、怖い車掌さんが待ってるからね。」
「わたしも行きたい! 古いギャグはまだわからないけど、きっと覚えます。いっしょに行きたい!」
そういってエバはナツメに抱きついた。ナツメはかわいいエバに抱きつかれて気持ちよくなり、髪の毛が逆立ってゾワゾワした。
「ご、ごめん、先にいっちゃっ・・・」
「クソかてめーは!」
ナツメが言い終わる前にアルファが飛び蹴りを入れた。
「さ、汽車に乗るわよ。」
いろはがみんなを促した。
「バイオレンスちゃん・・・」
まるでセリフのなかったオキタがようやく口を開いた。
「ま、周りはブドウ畑ということにしておきましょう。」
「エバちゃん、また会えるといいね。楽しかったよ。」
「ありがとう。たくさんの勇気をくれて。」
「単に恥知らずだと思うけどなあ。」
「この魔法使いの服、もらってもいいかな?」
「どうぞ、魔法の効力は星を出ても有効ですよ。どうぞ活用してください。」
「でもこのスケベ青年の服は使い道がないなあ。」
「ナツメさんには金のうんこがあります。きっと役に立ちますよ。ただの金でもうんこでもありません。賢者の石なんですよ。」
「これが? 世界の誰もが探し求めてる?」
「そうです。」
「磨いてみてください。もっとよくわかります。」
そこでナツメはうんこをこすってみた。するとみるみるうちに本物のうんこの色になった。
「それは心を映す鏡になっているんです。ナツメさんは湯ババーバに『本物』と答えたので、あなたの美しい正直な心が形になったのです。まさに賢者の石です。」
「やーい、うんこ野郎。」
「その通りです、アルファさん、それこそ最高の褒め言葉です。まさにナツメさんにふさわしい称号です。」
「・・・・・」
「勇者うんこに栄光あれ!」