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第一部 ナツメ・デーツは動けない

「よ~し、駅に着いたぞ。あ、オキタといろははもう来てるね。おっはよう!」

 ナツメ、ロカト、フィグの三人は浮気駅の入り口に到着した。オキタといろはが三人に気づいて返事を返す。

 「おはよう。また一緒に旅行ね。」

 「皆さんおはようございます。ワクワクしてますね。表情で分かります。」

 三人はいろはとオキタにあいさつを交わす。

 「そう、楽しみだね。ムラムラすっぞ。なあ、いろは、変なんだけど、ボクとアルファ、なんでか結婚してないことになってるよ。」

 「そんなことわたしに言わないでよ。二人の問題でしょ。何よムラムラって。自分で言ってて恥ずかしくないの。」

 「いや~、大変なんだよ。それと第三者の介在があるような・・・」

 「にいちゃん、それはもういいじゃないの。あっちに着いてから考えたら。」

 フィグがいろはにあいさつする。

 「かぐや姉さん。今日もすてきな髪ですね。」

 「あら、ありがと。一緒に旅ができてうれしいわ。」

 ロカトはいろはの前で緊張している。

 「い、いろはさん、お久しぶりです。」

 「そんなに経ってないでしょ。先日帰還パーティーしたところだし。」

 「は、はい。・・・」

 ナツメがちゃちゃを入れる。

 「まあ、緊張するほどの美人だからね。NGワードさえ言わなければあけっぴろげに話せる人だよ。」

 「NGワードって何?」

 「それはねえ・・・」

 ナツメはいろはの鋭い視線に気が付いて言葉に詰まった。

 「と、とにかく、お世辞とかは嫌いで、正直者が好きな女性だよ。賢い人だから、ロカトと気が合うと思うよ。」

 「よ、よろしくお願いします。」

 「ナツメの態度で学んだら。そのうち慣れると思うわ。」

 いろははロカトの緊張が初々しかった。ナツメがまた余計なことを言う。

 「いろはは黄泉平坂でキュア・ドリームになったこともあるよ。」

 フィグが目を輝かせる。

 「え~、見たいなあ。」

 「変なこと言わないでよ。髪の毛ピンク色になってなかったでしょ。」

 「ほらね、ロカト、こんな感じでいろははかまってくれるから。」

 「そのうち彼は痛い目に遭うから、それもよく覚えておいてね。」

 いろははロカトに微笑んで忠告した。ロカトはずっと気になっていたことを聞いた。

 「兄貴、この駅『うわきえき』って言うの?なんだこの変な名前。兄貴にとっては危険な場所じゃね。」

 「危険てなんでだよ。ボクは浮気なんてしないぞ。それに、『うわき』じゃないよ、『ふけ』って言うんだよ。なんだこのローカルなネタは。わざわざここに使う理由がよくわからんぞ。」

 「おっはよ~!」

 そこへアルファがやって来た。

 「あ、アルファだ!おっはよ~。ボクはもう我慢できないよ。」

 「朝っぱなからいかれてんのか!前の話は無しになってるみたいじゃねえか。」

 「そんなあ、あんまりだ!ラダトーム城から君を抱っこして新世界に旅立って海賊王になったじゃないか。」

 「アレフガルドの横にグランドラインなんてねえだろうが。ああ、沼地の洞窟にローラ姫を置き去りにして、一人で旅立ったこととおんなじになってんじゃないか?」

 「そんでも竜王倒したらモンスターいなくなるから、ローラ姫一人でも帰って来れるんじゃない?」

 「もしかして、ローラ姫それを怨んで怨んで、その怨念がシドーになったとか。」

 「あり得るね。」

 「あるか!」

 いろはが話に割って入る。

 「もう、そういうやりとりは汽車の中でしてよ。ここで立ってないで、改札をすまして客車に入りましょ。」

 「あ、いろは、あいうえおチョコ持ってきてる?」

 「もちろんあるわ。」

 「また言葉遊びしようよ。」

 「NGワード出したら殺すわよ。」

 「出さない、出さない、出したこともない。」

 ナツメはもみ手をしながらいろはに向かってニヤニヤした。

 「ふん、どうだか。」

 ロカトとフィグも興味津々だ。

 「言葉遊びって何?やってみたい。」

 「チョコの文字をルールに沿って並べるんだ。NGワードを出すとHP1まで削られるんだ。」

 「もう、さっさと行くわよ。」

 いろはにせかされて一行は99番線ホームへ向かった。汽車はすでに停車しておりドアも開いていた。みんなは汽車に乗り込んで切符の番号の席を目指した。

 「なんか、あれだよ。999みたいに誰も乗ってないって感じだよ。どこに坐ってもいいんじゃない?」

 「煉獄さん乗ってないかな?」

 「駅弁頼んだら分かるかも。」

 めいめいが勝手なことを話していると、『ジリリリリリ・・』と発射のベルが鳴った。

 「いよいよ出発だ!テイキング・オフの歌で行きたいね。」

 「こんなふざけた話に使わせてもらえんだろ。」

 客車の使用は999とそっくりで、4人掛けの席だった。ナツメはアルファと向かい合わせに坐った。そうしないといろはがナツメと座るような気がして、アルファはしぶしぶ了承したようだった。

 「なんでしぶしぶなのさ、夫婦じゃないか。新婚旅行ってことでいいじゃないか。」

 「うるせえよ、頭リセットしてこの話に望みな。」

 「そんなあ。まあいいか、ホワイトベースまでの辛抱だ。」

 「なんだよそれ、木馬って言いな。」

 フィグはいろはと一緒に座りたがったので隣に座り、ロカトはいろはと向かい合わせに坐ることになった。女性陣は進行方向に向かって座った。オキタは連日の疲れがあるので眠りたいというので、一人で席に座った。ロカトはかなり緊張していた。そんなロカトを見て、ナツメが声をかける。

 「そんなに緊張するなよロカト、ただ、あいうえおチョコを侮辱すると、マッスル・インフェルノ喰らうけどね。」

 やはりというか、そういうなりゆきなのか、列車には自分たち以外の乗客はいないようだった。

 「ブオ―――」

 汽車は汽笛を鳴らして出発した。しばらく平地を走った後、いよいよ宇宙空間に向けて空に向かって伸びるレールに差し掛かった。いろはがハッとして叫ぶ。

 「え、どういうこと!?この列車は宇宙になんか行かないはずよ。バイオレット・スパーガーデンは海の向こうの島のはずだわ。」

 あせるいろはに対し、ナツメは相変わらず能天気だ。

 「まあ、いいんじゃない。これからまた冒険が始まるんだ。ゾクゾクすっぞ。」

 なんて言いながらも、汽車は徐々に垂直に近づいていく勾配を登って行った。進行方向とは逆に座っているナツメとロカトは手すりにつかまらないと座っていられなくなってきた。

 「そういえば、999にこんなシーンなかったぞ。しっかり窓開けて外見てた気がするし。」

 そして汽車はレールの端に到達し、いよいよ宙に浮いて飛び立った。そしてまったくの垂直となり、ナツメとロカトは席の反対側のアルファといろはに向かって落っこちてしまった。ただ、ナツメの顔には『しめた』と書いてあった。

 「ごめ~ん、アルファ♡仕方ないかな~。」

 「てっめー、わざと落ちただろ。とにかくさっさと横行けよ。」

 一応ナツメはアルファが怪我しないように着地していたので(抱きついてきたが)、邪険にはしなかった。一方のロカトはいろはの横にフィグがいたので、よけるスペースを見つけられず、まともにいろはの上に落っこちてしまった。

 「ご、ごめんなさい。こんなことになるなんて。わざとじゃないです。怪我は無いですか?」

 「いいわよ。予想外だったわ、こんなの。とりあえず宇宙空間で無重力になるまで待つしかないわね。・・・いえ、どこかに重力制御装置のスイッチがないかしら?」

 ナツメはいろはがそう言う前に、すでにスイッチを探していて、座席の横にあったボタンを見つけた。

 「あ、これだ、これだ。」

 ナツメはコンセントなどが一緒になっていた盤面の制御スイッチを押した。いろはとロカトは重力の向きが変わったので二人してよろめいた。

 「すみません。今すぐ座りなおしますので・・・」

 この時になって、ロカトは自分の体に起こった異変に気が付いた。ロカトがいろはに謝り続けている。

 「す、すみません。か、体がくっついて離れないんです。どうなってんのかな?」

 「ほっほ~、ロカトは積極的だねえ。」

 「兄貴、冗談はやめてくれよ。なんか変だよ。」

 ナツメはスイッチを押して席に戻ろうとした途端、吸い寄せられるようにアルファに倒れ込んでしまった。二人でじゃれ合う形になり、アルファが怒鳴り散らしている。

 「ナツメ、何のつもりだ、てめー!ベタベタすんな。」

 「い、いや、わざとじゃないよ。嘘じゃないよ。嘘じゃないのは嬉しいって気持ちだけ・・・」

 「何だとこらー!」

 「ほら見てよ、ロカトも同じことになってるんだよ。何かおかしいよ。」

 「兄貴、これって、足がグンバツの女のスタンドだよ!」

 「でも攻撃のきっかけなんてなかったぞ・・・あ、制御スイッチの横にコンセントがあった。ちょっとビリッとしたな、そういえば・・・」

 いろはが疑問をはさむ。

 「でもロカトは関係ないじゃない?」

 「・・・俺も触っちゃったよ。スーパー・ギャラクシアンのアダプターを差し込む時、ビリッと来たよ・・・」

 「なぜにレトロゲーム・・・とにかく、足がグンバツの女がどっかにいるんだ。だれか動ける人いないかい?オキタは寝てるか。フィグ、本体を探すんだ。」

 「にいちゃん、わたし無理だよ。スタンド使いじゃないし。」

 「まあ、無理に探さなくてもいいけどね。至福の時間だから。」

 「ぶっ殺されてーのか、てめー。フィグ、まずはトイレに誰か入ってないか確認するだけでもいいから、行くんだ。」

 「トイレにはきっと足がグンバツのお婆さんがいるぞ。」

 「いろはさん、ほんとにごめんなさい。」

 「いいから、解決の方法を考えなきゃ。」

 「そういえば、人とはくっつくけど、バステト女神みたいに何でもくっついてしまうわけじゃないんだね。まあ、まわりにくっつくものは何もないけど。」

 いろはは座席の手すりにしがみついて離れようとしたが無理だとあきらめ、ロカトの背中にじりじりと体を滑らせ、おんぶの形にまで何とか体を移動させた。くっつき方は磁石のようで、接着剤のようについているわけではなかった。ロカトは目を白黒させて恥ずかしがっていた。

 「これで動きやすくなったんじゃない。」

 ロカトは嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやら。

 「そっちの二人はどうなの?まだ身動き取れないの?」

 「いろは、うまくやったね。じゃあボクらも同じ手を使うか。」

 ナツメとアルファはいろはたちと同じように向かい合わせだったが、どさくさに紛れてナツメがアルファの背中に手を回しており、これがくっついて一筋縄ではいかなかった。ナツメが手を移動させようとするのだが、アルファの服まで引っ張ることになった。

 「てめー、なに服脱がそうとしてんだよ!ド変態め。」

 こうしてひどく怒られるので動きようがないのだった。

 「ねえ、アルファ、しっかりくっついてくれた方が動きやすい気がするんだけど。足をあげて後ろに回してくんないかな?他意はないんだよ。断じて。」

 「そのセクハラ行為に他意はないだと。じゃあ、動かんでいい。」

 「そうはいかないよ。早いとこ恩人、いや敵本体を見つけなきゃ。」

 「今てめー恩人って言っただろ。本心丸分かりだろうが。」

 「もう、二人はほんとあてにならないんだから。アルファもちょっと我慢しなさいよ。」

 「ボクも必死で我慢してるよ。」

 「てめーの我慢は意味がまるで違うだろ。」

 「だって、アルファがガードしたままくっついたから、肘が肋骨に、ひざがお腹に押し付けられて悶絶してるんだよ。」

 確かに二人は妙な体勢だった。アルファの両手は二人の顔の間にあり、前もよく見えないのだった。どう見ても、セクハラをしようとして拒否されたオヤジの姿だった。実のところ、ナツメはあまり楽しくないのだった。

 「仕方ないわね。わたしたちだけでなんとかするしかないわ。そうだ、オキタを忘れてた。」

 「そうだ、不寝子、オキタを起こすんだ。」

 「はいはい・・・」

 フィグはオキタを揺り動かして呼びかけた。

 「オキタ、大変よ。助けて。」

 「ん~~・・・どうかしましたか・・・」

 「大変なのよ。にいちゃんたちが引っ付いて取れないのよ。」

 「意味がさっぱり・・・」

 「とにかく起きて見てよ。」

 オキタは寝ぼけ眼をこすりながら、フィグに引っ張られて立ち上がり、事件の現場を見た。

 「よもやよもやだ。」

 誤解を招いていると察したいろはが手短に説明する。

 「変な想像しないでよね。スタンド攻撃を受けてるのよ。敵本体を見つけなきゃ。オキタ、フィグと一緒に探して。」

 そう言っていろはロカトを促すと、ロカトはいろはを背中にくっつけて歩き出した。オキタもすぐに後部車両に向かう。

 「敵本体か。エンムみたいに車両全体が本体だと厄介だな。煉獄さん乗ってたらいいのに。不寝子、いやフィグ、一緒に行こう。」

 オキタは不慣れなギャグを飛ばし、二人はすぐに最後尾の車両に到着したが、車掌室はなく、最後のドアを開けて遠ざかる青い地球を見ることになった。

 「見とれている余裕がありませんね。」

 二人は今来た通路を戻って行き、再びナツメたちのところに戻った。

 「後部車両まで誰も乗ってなかったです。」

 「誰も乗ってないって、まったく999だよ。でも停車駅によっては大勢の人が降りてるシーンもあるんだよな。漫画ではそういえば密航者がいたよな。車外に放り出されてたような気が・・・」

 オキタとフィグは今度は先頭車両に向かって進んでいった。何両か過ぎると、前方の車両を繫ぐドアの窓の向こうに、帽子をかぶった何者かの姿が見えた。二人はドアの陰から様子をうかがう。

 「車掌さんのようですね。」

 「あ、でも本体はあの車掌さんだよ。きっとそうだよ。にいちゃんだってそう思うはずだよ。早く戻ろう。車掌さんはこのままこっちへ来るし。」

 フィグに促されて二人は急いでナツメたちの元へ戻った。

 「にいちゃん、見つけたよ、本体だよ。車掌さんが本体だよ。」

 「何、ほんとか。どうしてわかったんだ?」

 「あの車掌さん、足がグンバツだったんだよ!足がグンバツの男になるけどね。もうすぐこっちに来るよ!」

 「車掌さんの足がグンバツ?変だね。」

 「変だけど、見ればわかるよ。」

 全員緊張しながら前方のドアが開くのを待った。しばらくしてドアが開いて車掌が入ってきた。ナツメは驚きの声を上げる。

 「ほんとだ!足がグンバツだ!」

 「でしょ!」

 「確かに車掌が本体のようだぞ。まさかまさかだ。車掌さんの足がドムのホバークラフトになっている!」

 アルファがつっこむ。

 「それって、鉄拳の漫画に出てくるドムの車掌さんだろうが!」

 「きっとドムドムの実を食べたんだよ。」

 騒ぐ全員に車掌が話しかける。

 「切符を拝見します。」

 ナツメが警戒を緩めない。

 「切符を切ったときに眠りに落ちるぞ。」

 車掌はナツメの言葉など意に介さず、話を始める。

 「おや、くっついておられるようですね。」

 「あんたスタンド使いだろ。」

 「行かんぞ歯科医?」

 「それ、本気でそう言った?」

 「ポッポポッポハトポッポー?」

 「なんだこの人?Tボーンステーキ食えなくなった爺さんかよ。」

 「とにかく、大変そうですね。どうされました?」

 「どうって、あんたのスタンド攻撃だろうが。」

 「もしかして、スイッチを押しましたか?」

 「ああ、そうだよ、おかげで楽しい時間を過ごせたよ。」

 「もう一度スイッチを押せば元に戻りますよ。」

 「なぬ?」

 汽車は地球の引力から脱し、宇宙空間飛行になっていたので地上での走行と同じ状態に戻っていた。ナツメトロカトはスイッチをもう一度押し、ようやくくっつきから解放された。

 「ふう、慌てることもなかったわけね。」

 「いろはさん、ほんとにすみませんでした。」

 「謝ることないわよ。」

 「脇腹いてえ。」

 「まったく、変なところに力が入ったぞ。体操がいるぜ。」

 みんなめいめいつぶやいていたが、席に戻って落ち着いた。

 「次の停車駅はかわ屋、かわ屋です。」

 「なんだそれ?便所かよ。」


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