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エピローグ ファースト・カメムシ

 「あの、かぐや、もう一つ言いたいことがあるんだ。」


 「なに?」


 「君が兄貴の言葉で取り乱してたでしょ。その姿、とってもキュートだったよ。」


 「もう、やーね。」


 ドムだと思ったらグフの車掌に助け上げられ、二人は食堂車に行った。するとマンモーニがいろはを見つけて文句を言ってきた。


 「ピチピチ・ボーイをどこへやったんだ!」


 「ごめん、外に落としちゃった。」


 「拾って来いよ!」


 「あれってスタンドじゃないの? また出せないの?」


 「出せるか! おれはマンモーニなんだ。兄貴がいないと何にもできないんだ。」


 そこへ車掌がやって来た。


 「この釣竿はあなたのですか?」


 「お、おう。そうだ。」


 「車掌さん、どうやって回収したの?」


 「まあ、ドダイがありますんで。ああ、それから、次はバイオレット・スパーガーデンに止まりますよ。」


 二人は顔を見合わせた。


 思いっきり絶交宣言したはずのいろはだが、ロカトから詳しい事情を聞き、しばらくごめんなさいを連発していた。そして、そんなに日が経っていないのにみんなと、特にナツメとバイオレット・スパーガーデンで会うと思うと気が気でなかった。


 「兄貴は気にしないよ。かぐやとまた会って話せるのを大喜びするよ。まあ、しばらくカメムシネタで騒ぐだろうけど。」


 「それは嫌だなあ。でも笑って聞いとくかな。それに、本物見られても動じない精神を身に着けなきゃね。」


 バイオレット・スパーガーデンの駅のホームに再びトリプルシックスとターントリプルナインが並んで止まった。そしてスパーガーデンの入り口の前でみんなは再会した。いろはが開口一番ナツメに謝った。


 「ごめんね。ひどいこと言って。わたしともう口をきいてくれないと思ったわ。」


 「ああ、いいんだよ。トイレの勇者だからね。いろはが元のようにかっこよくいてくれたら嬉しいよ。」


 「ありがとう。でも、正直、本物を見たかったの?」


 「わー、それは禁止ワードだよ。」


 「別にもう気にしないわよ。」


 「君が気にしなくても、自動追尾かかと落とし弾が待ってるんだよ。」


 「ほっほっほ、みんな元通り仲良くなったようだの。どうじゃ、記憶に振り回される人生はつらいものかの?」


 「その通りよ。」


 「じゃが、なぜ恥ずかしい経験や自分の選びの結果生じた不具合をいつまでも忘れられないと思うかの?」


 「わからないよ。苦しくて何もかも投げ出したくなることもあるよ。」


 「なぜそう思う?」


 「なぜと言われても・・・」


 「それはな、生きておるからじゃ。あの時ああしなければ、ああしておけばと思うのは生きていてこそ言えるものじゃ。たとえばじゃ、振り向いてはいけない場所で振り向いたり、見てはいけないものを見てしまったら、振り向かなければよかったとか、見なきゃよかった、とか言えないじゃろ。」


 「てめーは振り向いただろ。なんで生きてんだよ。」


 「いや、フィグに聞いたけど、君も振り向いたじゃないか。」


 「まれにみる二人じゃの。お似合いじゃ。」


 「いっしょにすんな!」


 「そうじゃ、見てはいけないものを見てしまった話は有名じゃの。」


 「浦島太郎ね。」


 「ナツメ、あの話をどう思う?」


 「う~ん、何で見てしまったのかな? あー! わかったぞ。あの箱の中身・・・」


 ナツメはえぐり取るような殺意の視線を感じた。しかし、ナツメはこう宣言した。


 「ボクは学んだぞ。トイレの勇者は真の勇気を持つ者なんだ。だから勇気を持って言うぞ。玉手箱の中身は乙姫のうんこだったんだ。だから白い煙が出て・・・」


 ナツメはかかと落としで気を失った。


 いろははカグツチに化けた卑弥呼のにおいを思い出して言った。


 「ねえ、ヒミコ様、なんで青リンゴのにおいをさせてたの? そんな香水あるの?」


 「ふふふ、なぜじゃと思う?」


 そこでちょうどナツメが目を覚ました。


 「ん? 青リンゴのにおいがどうしたの? ヒミコ様のにおいの正体? いろははそのにおいが嫌い?」


 「青リンゴのにおいは好きよ。ヒミコ様にしては詰めが甘いんじゃないの? 簡単にばれてしまうじゃない。」


 「どうじゃ、ナツメ、何か言うことはないか?」


 「まさか!」


 「どうしたの、にいちゃん?」


 「キバラヘリカメムシ!」


 「なにそれ? カメムシってどういうこと?」


 「キバラヘリカメムシっていうカメムシは、青リンゴのにおいの屁をするんだよ。」


 「それって・・・」


 「ヒミコ様のおなら・・・!」


 「浦島太郎は何を助けたと言われているかの?」


 「そりゃ、亀だよ。ってまさかカメムシを助けたって言いたいの?」


 「そのほうが合理的に説明できるじゃろ。ゴキブリみたいに気持ち悪いという理由だけで殺されてしまうのは、何とも無慈悲で残酷ではないか。


 一方カメムシは殺すとくさいからという理由で助かっている。しかし、最初に死んだカメムシがいたから今のカメムシは死なずに済むのじゃ。人は最初のカメムシにだけはなりたくないものじゃ。いくら後に続く者がそのおかげで生きられるとしてもじゃ。初めのくさいものを甘んじて受けるものが未来の礎となってくれる。


 乙姫はいわばファースト・カメムシじゃ。別の物語では玉手箱の中身は人魚の肉となっておる。人魚の肉は永遠の命を授けるもの。まさに太陽の象徴であるフンコロガシの糞と同じじゃて。


 そして消し去りたい過去の記憶は、自分自身の魂のファースト・カメムシなんじゃ。過去の自分がファースト・カメムシになって死んでくれたおかげで、さらによい未来へ命をつないでくれてるのじゃ。じゃから、つらい過去の自分を褒めてやってくれぬかの。」


 「ファースト・カメムシねえ。いろはのしのはこにキバラヘリカメムシが入ってたら、真相を聞いてもカメムシのうんこをする女性だと言い張ったかもね。ファースト・カメムシの称号はいろはのものさ。」


 「やっぱり絶交しちゃおうかな。」


 「冗談だよ! まさにブラックボックスだ。」


 「また謎かけをしてやるかの。『あんなことしなければよかった、言わなければよかった』は真実なのかどうかじゃ。人は過去のその瞬間だけで人生が決まるものではないからの。人生は取り返しがつかないと思わせて、自分の側へ引き寄せようとしたのがあの神父じゃったの。じゃから次の者たちの『じゃなければよかった』を聞いたら、何と言ってあげるかの。


 さあ、行くぞよ。」


 『海賊王に、俺はなるんじゃなかった。』


 「あんだけ長期連載しておいて、最後にそりゃないよ。」


 『悪名だろうがなんだろうが、俺の名を世界に轟かせてやるんじゃなかった。』


 「ルフィに続いてゾロまでネガティブキャンペーンですか?」


 『俺は火影になるんじゃなかったってばよ。』


 「勝者の憂鬱ですか?」


 『だが、断らなければよかった。』


 「『岸辺露伴は断らない』ってタイトルにしないと。」


 『その日、人類は思い出すんじゃなかった。』


 「まあ、壁の中の人類の真の望みかもね。」


 『一匹残らず駆逐するんじゃなかった。』


 「あんだけやっといて、最後にそれかよ!」


 「さあ、どうじゃ、人生失敗ばかりで悩みは尽きんが、『じゃなかった』と言う言葉は必要ないじゃろ。まあ、そう言ってしまうのが人生じゃが。とりあえず、今日はみんなで楽しく遊んでくるがよいぞよ。」


 「さあ、遊びに行こうぜ。」


 「よーし、アルファ、早速回転木馬に行こう。」


 「なんだよその張り切り方は? 気持ち悪いな。」


 「真相を聞きたい?」


 「ナツメ、いきまーす、とか言うんじゃないだろうな。」


 「ゲッ!」


 「かぐや、めぞん残酷に行かない?」


 「やだー、お化け屋敷は怖いわ。」


 「嘘だろ? 普通に化け物退治してるのに。」


 「それとこれとは別なの!」


 アルファとナツメは回転木馬の列に並び、順番を待った。やがて自分たちの番が来た。ナツメはウキウキしまくっていた。大勢の人がいるのに。やがてナツメたちの番が回ってきた。そしてスタッフが案内を始めた。


 「回転木馬の搭乗者の方、回転木馬の搭乗者の方、回転木馬へようこそお越しくださいました。ガイドを務めます真久部と申します。搭乗前にいくつかのお願いがあります。


 搭乗中はくれぐれもふざけたまねをしないよう、お願いいたします。なお、不謹慎な行為が見られましたら、容赦なくキャノン砲で撃ち抜きますのでご注意ください。」


 「なんでここにマクベがいるんだよー!」




 おしまい

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