第九部 D.O.の異世界
「次の停車駅はティナー・サックス、ティナーサックスです。停車時間は55時間55分55秒です。」
「なんじゃそりゃ。」
「そうか、兄貴、ゴゴゴゴゴゴだ!」
「なるほど。」
「なるほどじゃねえだろ。」
「ゴゴゴゴゴゴってことは、誰か出てくるんだな。」
「敵しか考えられないよ。」
「また困った事件が起こるのかな? 55時間ということは2日ほどあるんだね。ここはどんな星かな。何しようかな?」
「おいしいものがないかな。気持ち悪いことばっかりで、今まで食欲あまりなかったもん。お腹すいたよ。」
「うん、食堂車のメニューもあらかた食べたから、外食三昧で行こうよ。ここは現金かな? オキタ、まだ旅費は残ってるの?」
「ええ、そもそも食堂車の食事はチケットにコミコミでしたからね。」
「列車を乗り間違えてるのにチケットが有効なのは不思議ね。」
「共通切符のようです。」
「ターントリプルナインは今頃どこにいってるのかな?」
「少なくとも宇宙には行ってないと思います。」
「バイオレット・スパーガーデンか~。回転木馬乗りたかったな。」
「なんだ、ナツメも乗りたいのか?」
「え、あ、う、うん、マクベのやつに邪魔されたけどね。」
「なに言ってんだか。」
一行は駅のホームから繁華街へ向かったが、そこはまるで迷路のような街並みだった。
「こりゃ迷っちまうぞ。」
「タブレットに地図を表示しましたよ。駅の場所と目印はしっかり憶えておきましょう。駅の時計台は結構目立ちますね。ん? 今の時刻・・・あの時計止まってますね。5時55分55秒のところで。」
「なんでもゴゴゴゴゴかよ。」
「なんだ、お前たち、ここに来ていたのか?」
「後ろから突然誰かに話しかけられ、みんなは驚いて振り向いた。」
「あ、カグツチさんだ。」
「お父さん、どうしてここに?」
「これは偶然か。あの神父を追いかけて来たら、ここに着いたというわけだ。そして、ここにあのD.O.もいるはずだ。」
「ラスボスが二人? 神父は時代を改変する能力だよね。D.O.も時間を操る能力かな。例によって。というより、時間を止める能力だよね?」
「まあ、それはわからん。新たな能力を見につけた神父とD.O.が出会えばろくなことにはならんだろう。」
「それを阻止しなきゃね。」
「ああ。」
「この世界を自分の思い通りの形にしたら、そのあとどうするつもりなのかしら?」
「D.O.のやつはやっぱり太陽が苦手なのかな?」
「少なくとも、神という存在になろうとしているのは確かだ。だが、なにをもって神とするのかが疑問だがな。」
「ごくごく普通に思われていそうなのは、何でも命令、何でも手に入れる、何でも壊す、かな?」
「それってジャイアン?」
「全人類をのび太にするつもりなのかな?」
「でもおかしいよね。誰もネコドラ君にはなろうとしない。ネコドラ君にいてほしいと思っても、自分がそれになるのは遠慮するみたい。」
「ロボットにはなりたくないんだ。」
「生身の人間でいて、なおかつ不死身で、それから永遠に好きなこと、やりたいことをするってのが理想なのかな?」
「したがって、その『やりたいこと』が重要になるな。神父の動機は神父らしいといえば神父らしい願いだ。世の中からすべての間違いや憂いを強制的になくしたいのだからな。」
「理想郷ってわけ?」
「そこだな。みんなは理想郷があるとすれば、どんな世界を思い描く?」
「う~ん、よく聞くのが酒池肉林のたとえだけど、体壊す元だね。酒池肉林で体壊さないために不老不死になろうとするのかな? でも、あの神父はそんなこと考えてなさそうだね。ずっと若い女の人をかこって好きなだけ好きなことをするっていう気はさらさらないみたいだし。」
「なんでそう言い切れるのよ?」
「神父は素数聞かせてみんなの体を動かせなくしても、アルファやかぐやにセクハラしてないし。ヒスハラで痛めつけるのが趣味みたいだけど。」
「やつの動機は絶対正義と言えるだろう。何一つ罪や間違いが存在しないようにしたいのだから。神父の目的は分かりやすいと言える。」
「ではD.O.の動機が気になるわね。どんな神を思い描いているのか。」
「もしかしたらだ、まったく俺の推測にすぎないがな。D.O.と神父は惹かれあうものがあるのだろう。惹かれあう者は反対のものに惹かれるという。そこでだ。
神父は人々からすべての苦しみを取り除こうとしている。神父版理想郷だな。一方のD.O.がその反対の性質を持っているとすれば、すべての人間にすべての苦しみを与えて苦しめ、それを見て楽しむと言ったところか。」
「つまり、サディストの変態というわけ?」
「そういうことになるな。みんなの意見を聞こう。神をどう思う? その答えがD.O.と神父を倒す答えを導き出すかもしれない。」
「わたしは優しい人かな。お日さまみたいにポカポカしてる。ひなたぼっこの精みたいにね。それと暑い夏の日の木陰のそよ風ね。あの気持ちよさは人間には作れないよ。」
「俺は真の知識と力かな。体の動きを完全に理解して理想の動きと結果を出す存在かなあ。食べ物や飲み物でも運動でも、それがどうやって体に作用するかすべて把握してるんだ。それで理想のパワーを手に入れてるんだ。」
「ん~、古いギャグで笑ってくれる存在かなあ? ああ、大事だと思うことがあるよ。神様は何でもナンバーワンだけど、宇宙で一番気配を消すのが得意な恥ずかしがり屋なんだ。人に気づかれないようにしてるんだ。だって、トイレでもお風呂でもなんか恥ずかしいことしてるときでも、神様がじっと見てるのがはっきりわかれば嫌だもん。」
「それはてめーが世界で一番恥ずかしいやつだからだろ。」
「アルファの考えが聞きたいなあ。」
「ふん、わたしは、わたしは・・・」
アルファは口ごもってしまった。
「無理に言わなくてもいいんじゃない?」
「言いたくても言えないようなことを話せる人だな・・・」
「わたしはこの気持ちを解決してほしいわ。」
いろはが沈痛な表情で言うので、ナツメは申し訳なく思った。あれは心からの願いなのだろう。そしてその願いを叶えるかもしれないのがあの神父なのだ。
「カグツチさんはどう思ってるの?」
「ずるい意見だが、みんなが言ってくれたことと同じだ。もう一つ付け加えるとすれば、全部を見る存在だと思う。一部分を切り取ってそれですべてとみなすことはなく、原因、動機、行動、経過、結果、影響まですべて把握している存在だ。
よし、行くぞ。神父のことは放っておいて構わない。倒すべきはD.O.だ。やつの居所を示す手がかりがあるはずだ。」
「たぶん、玄関に凶暴な鳥がいて、中は迷宮の幻になっていて、テレビゲームで勝負するんだ。ああ、振り向いてはいけないという落書きもあるよ。ああ、そうだ。本物のヌケサクがいるよ!」
「ヌケサクはてめーだ。」
「いろは、ここの警察のPCにアクセスして、防犯カメラの映像を出してくれ。そして神父の顔写真と照合してくれ。神父はまず宇宙船に乗って来て宇宙空港に降りたはずだ。そこからのルートを推定してみてくれ。」
「ええ、すぐ出るわ。宇宙空港での神父はこれね。あれ、スコップ持ってる人にからまれてるわ。」
「涙目のルカがいるんだ。もしかして頭にスコップぶっこまれてるかな?」
「いいえ、そのぶっこまれたのをなしにしてもらってるわ。」
「どうやって?」
「それから、イヤミみたいな髪型の人にからまれてるわ。」
「ここで『おかしいと信じる夢がある』って言うんだ。」
「まあ、神父の夢はおかしいがな。」
「今度は刑務所に行ったわ。」
「ライター持って出てきてない?」
「もう、うるさい!」
「おや、トイレに行ったわ。」
「トイレの中までカメラはないよね。」
「でも、そこから出てきてないわ。」
「では、そこがD.O.の居場所の可能性が高い。」
「え~、またトイレ~。」
「しつこいくらいそれだな。」
「いろは、場所を案内できるか?」
「ええ、ついてきて。」
一行はいろはを先頭にそのトイレに向かって急いだ。D.O.と神父が最悪な世界を創造しないように、その野望を食い止めねばならないと、みんな決意を固めた。しかし、D.O.の能力はいったいどんなものなのか?
「ここよ、このトイレよ。」
「男子のほうだね。」
「よし、中に入るぞ。」
みんなは忍び足でトイレに入った。小さな汚いトイレだった。
「まさか便器が入り口なのかな?」
「それだけはやめてよね。」
「ジッパーで開くようになってるのかな?」
「ねえ、これじゃない?」
「どれだい、フィグ?」
「ここ見て。」
フィグが指さしたのは突き当りの壁だった。そこには『土土土土土土土土土土・・・』の模様が四角くあしらわれていた。人によってはクロスタッチに見えたかもしれないが、フィグにはそう見えたのだ。
「これ、ドドドドドドドドドドだよ!」
「ずいぶんわかりやすい目印だな。」
「そう思うのはてめーだけだ。」
「ドアになってるのか?」
カグツチが壁を調べてみた。
「合言葉があるのか?」
いろはが四角く区切られた『土』の部分を縦横で数えてみた。
「上下に10マス、100マスね。」
「もしかして・・・神父の癖を考えると、1から100までのマス目のうち、素数の位置が関係してるんじゃねえか?」
「その場所を押すのかな?」
「やってみよう。」
カグツチが左上を起点に2、3、5、7、11、13,17、19番目のマス目・・・というように順番に押していった。そして97の位置を押したところ、どこかできしむような音がした。
「よし、どこかで入り口が開いたようだ。」
「もう、またこのパターンよ。いい加減にしてよね。」
トイレ内を調べたところ、ポルポの財産があった小便器の方ではなく、大便器の方で入り口が開いていた。便器の横に地下に続く階段が現れていたのだ。
「仕方がない、行こう。」
ナツメ以外はうんざりしながら階段を下りていった。
「もう、くさいわね。」
「わざわざ言わなくても十分わかってるわよ。」
するといきなり階段が揺れ、一行はいろはとロカトにオキタと、アルファとフィグとカグツチ、そしてナツメ一人の三つに分かれてしまった。
「あちゃー、どっちかがテレビゲームでどっちかが『振り向いたら死ぬ』だよ。でももう一つはどこだ?」
というナツメの声をみんなが聞いた。
いろはたちはものの見事にテレビゲーム会場にいた。
「これで勝負ってわけか。おい、出て来い。相手を待ってたんだろ。」
「あれ、今回はナツメちゃんこっちに来なかったんだ。別ルートとは残念。」
「???」
「その声は、レイミなの?」
現れたのは黄泉平坂にいたレイミだった。
「またゲームで勝負ね、いろはちゃん。今度は負けないわよ。」
「なによあなた、D.O.の手先なわけ?」
「ううん、あの神父が勝手に作り出した場所に縛られてるのよ。まったく、困ったわ。ここを抜けたければまずわたしに勝つ以外ないのよね。」
「あなたが兄貴の話していたレイミさんですか? 俺、ロカトっていいます。」
「{さん}(・・)なんてつけなくていいわよ。ロカトちゃん。」
「は、はい・・・」
「じゃあ、ルールを説明するね。勝負はUNOで。」
「テレビゲーム関係ないのでは?」
「アルファちゃんがいないからね。UNOでいいんじゃない? 彼女が聞いたらブチ切れるでしょうけど。」
みんなはしばらくUNOをして遊んだ。何回もやったので勝ち負けがわからなくなってしまった。
「あ~面白かった。こっちのルートはゆるゆるでしょ。オキタさん、UNO言うの忘れ過ぎ。ここを抜けるためにはアルファちゃんたちの踏ん張りに寄るわね。」
そう話したとき、どこかでマシンガンのような音が聞こえてきた。
アルファたちは迷宮のような場所に来ていた。
「クソッ、こういう時はナツメがいる方がいいんだがな。」
アルファがぼやいた。
「にいちゃん、変なこと言ってたよ、『振り向いたら死ぬ』なんて物騒なこと。」
「ああ、気をつけろ。何があるかわからん。」
一行が壁に手をついて手探りで進んでいくと、アルファがふと目をやった壁に落書きがしてあった。
『この落書きを見て振り向いた者は死ぬ・・・』
「なにー! まさか、何かいるのか?」
「どうした、アルファ?」
カグツチが声をかけた。
「ああ、死の危険とは信じたくないけど。」
アルファはいやな汗をかき始めた。
『どうする?』
こんな時にナツメがいればと考えてしまうアルファだった。
「あいつならどうする? ていうか、あいつ、前にも振り向いたことあったな。振り向くのは勇気なのか自暴自棄なのか・・・」
「これしかねえ。アッガイ召喚!」
アルファはアッガイを呼び出し、思い切って後ろを向いた。そこには異形の物体がいた。目の部分と口の部分にぽっかり黒い闇があった。
「なんだ、こいつわ!」
そこには両手にアイスを持った埴輪がいた。
「ハニワアイス・・・ふざけんな!」
怒り狂ったアルファはアッガイのバルカン砲で攻撃した。ところがマヌケな姿からは想像もできないスピードでハニワアイスは攻撃をかわし、アイスを振り回してしずくを飛ばしてきた。
「何だこれ! アイスかと思ったらセメントじゃねえか!」
アルファは間合いを詰めて爪で捕らえようとするが、ハニワアイスは素早くかわしてしまう。そのうちに体に着いたセメントが渇き、体の動きが鈍ってきた。
「何やってんだよカグツチ、立って見てるだけかよ。」
そう言われてもカグツチは動かなかった。
「アルファ姉ちゃん、助けるよ。」
そう言ってフィグは魔法の杖でアルファだけ有効になる自在空間を作りだした。かわや星のトイレでいろはが着ていた無重力スーツの性能を具現化したものだ。アルファは宇宙空間でバーニア制御するように部屋内を動いて攻撃を始めた。
「こりゃいいな。常に自分中心で動ける。けど、このフィールド、ハニワアイスにもかけてくれよ。」
「え、なんで?」
「同じ条件でぶっつぶしてやる。ハンデはなしだ。」
「うん、わかった。」
ハニワアイスは重力制御ができると気づき、空中に浮かんで攻撃してきた。
「へっ、この空間の中じゃ、セメントの縛りはあまり意味がねえぜ。」
調子が乗ってきたアルファはハニワアイスに爪とバルカン砲を見舞い始めた。焼き物でできているハニワアイスはあちこちを欠けさせ始めた。
「とどめだ!」
アルファは爪でハニワアイスを貫いたあと、ボコボコになぐりつけた。ハニワアイスは崩れて瓦礫となった。
「やったぜ!」
アルファは勝ち誇ったが、それもつかの間だった。ハニワアイスの砕けた破片が破片のままハニワアイスの形となり、再び襲いかかってきた。今度はバルカン砲もすり抜けてしまうし、爪も手ごたえがなかった。
「クッ、またこのパターンかよ。」
「アルファ姉ちゃん、なんかアイデアない? 何でもできるけど、わたしじゃ思いつかないよ。」
「そうだな、あいつを固められないか?」
「うん、固める材料・・・アルファ姉ちゃん、また同じだ・・・どうしよう・・・」
「どうした? いいから言ってみろ!」
「固める材料を出してもいい?」
「急げ! この際気にしてられない。言い訳は後で聞く!」
それを聞いてフィグは粘土のようなものを空中に出現させた。それをフィグはハニワアイスにこびりつかせた。ドロドロになったハニワアイスをアッガイは壁に塗りたくった。
「よし、もう攻撃してこねえな。」
「ごめんね、アルファ姉ちゃん。」
「く、くっせー! この粘土、もしかして・・・」
「うん、このトイレの下水・・・」
「嫌なダジャレだな。」
ハニワアイスを倒したことで、レイミのところにいたメンバーが合流した。
「あとはナツメだな。どこ行った?」
ナツメはまっすぐにD.O.のところに招き寄せられていた。D.O.の部屋に向かう廊下で神父に出くわした。
「あれ、神父だ。」
「また会ったな。小僧。」
「あんたがそこにいるってことは、ヌケサクのポジションだ! おい、ヌケサク、D.O.のところに案内しろ!」
「ずいぶんでかい口を叩くじゃあないか。この恥の固まりめ。貴様のような存在がこの世を穢すのだ。この世界からゴミを排除してやる。」
「それはゴミの処分の仕方を考えてないやつの言い方だよ。この世からモノってのは消えてなくならないんだ。排除なんて、見て見ぬふりをするのと同じだよ。あんたたちがゴミ以下と考えてるものが最強だっておしえてやるぞ!」
ナツメはカバンからべちょべちょの賢者の石を取り出すと、それは再びバットの形になった。
「これを受ける度量があんたにあるかな?」
ナツメはバットを横に振ると、バットは餅(ある意味うんち)のように伸び、神父に巻きつかせた。
「お、おのれ!」
「ボクはこれ以上何もしないよ。あとはあんたの気持ち次第だ。賢者の石は触れたものを金に変える。もしくは、菌かもね。」
神父は動かなくなった。
「これで勝ったと思うなよ。わたしには歴史を変える力があるということを憶えておけ。」
神父をその場に残してナツメは先を進んだ。そして長い長い階段の下に来た。何段か登ると階段の上に人影が見えた。
「ドドドドドドドド・・・」
としゃべっているD.O.がいた。
「あんたがD.O.か。」
『パチパチパチパチ』
D.O.が手をたたいている。
「よく素数の暗号が分かったな。褒めてやる。そこでだ、今その階段を降りれば仲間にしてやろう。ヌケサクのポジションくらいは用意してやる。」
「ボクの666の髪型を見ろよ。誰かさんの息子と同じだぞ。ヌケサクなんぞなるもんか。」
そう言ってナツメは階段を登り始めた。すると自分が思っていた以上に登っていた。
「どうなっているんだ。」
ナツメはもう一度階段を登ったが、またもっと登っていた。
「おのれ、勝負だ。D.O.!」
ナツメは一気に階段を駆け上った。
『ボッカーン!』
急に近くの壁が崩れて合流したみんなが姿を現わした。
「安楽死するんじゃ、ナツメ!」
「いや、安心するんじゃ、でしょ・・・それより、みんな聞いてくれ、今D.O.の能力を少しだけ味わったよ。自分が何を言ってるのか分からないだろうが、今ボクは階段を登ったら登っていた。」
「ほんとに何を言ってるのかわからんわ。登ったから上ったんだろうが!」
「いや、だから登ったと思ったら上っていたんだよ。」
「だから登ったら上るだろうが。」
「頭がどうかしたと思うかもしれないけど、本当なんだ。」
「頭がどうかしたのが本当だな。」
「やれやれ、困った連中だ。頭のいかれた貴様らにタネ明かしをしてやろう。この階段、エスカレーターのスイッチをナツメとやらが登るときに入り切りしただけだ。」
「な~んだ。びっくりしたよ。」
「てめーの情けなさにびっくりするぜ。」
「全員がそろったところでだ。思い知るがいい、我が能力、異世界の真の能力を。」
「ん、何が起こったんだ? 何も起きないぞ。5秒間だけ時を止めるにしたって、気がつかないよね?」
「フフフフ、5秒と気づいたのは褒めてやる。だが、止めるのは時ではない。我が異世界の能力は、5秒間だけ時計を止めることができるのだ!」
「どんだけどうでもいい能力なんだよ!」
「おい女、貴様は分かっていない。ドーハの悲劇のときに審判の時計を5秒間止めたのはこのわたしだ!」
「このクソ野郎め!」
「この時代、時計を止めれば何でも止まってしまうぞ。髪の長い女、貴様のタブレットを見てみろ。」
「何よ。」
いろはがタブレットを見ると、バグって動かなくなっていた。
「覚えているか、2000年問題というつまらん騒ぎがあったのを。PCが誤作動を起こして世界中が大混乱に陥ると言われていた問題だ。結局大したことは起こらなかったがな。
だが、わたしの能力は2000年問題で起こると言われていた現象を引き起こすことができるのだ。5秒間時計を止めるだけでな。水道が止まり、企業活動は停止し、銀行はストップする。ネットで注文した品はややこしいことになるぞ。貴様らが大好きな下水も止まる。これが一番こたえるのではないかね。」
「大好きってなんだ! どいつもこいつもナツメと一緒にするな。」
「なるほど、うんこできないって拷問だね。あんたはどうするのさ。あんただってうんこできないぞ。」
「だから神父を呼んだのだ。奴の力でなかったことに出来る。」
「いや、全然意味わかんないし。うんこほど楽しい時間はないのに。」
「てめーはしゃべるな!」
「あれ、もしかして、トイレに行きたくないから神になろうとしてるの? ボクは神様のトイレを掃除したよ。面白かったよ。あれ、もしかしたら、あんたは神父の力に縛られちゃうんじゃないかな。さっき神父をうんこで縛ってきたから、うんこが好きにならないかぎり逃げられないんだよ。太陽の神様、すなわちフンコロガシにあこがれなければ太陽も克服できないし、神にもなれないよ。そして、このままでは二人ともトイレ行けないよ。時計は止めないことをお勧めするよ。」
「神父が縛られてるだと。ナツメ、なぜ貴様がここまで来れたのかを分かっていなかった。貴様、よくも・・・」
「まあ、いいんじゃない? 神様になるのは簡単だよ。神父を縛ってるうんこを食べればいいんだから。」
カグツチが最後にD.O.に宣言した。
「さあ、どうする、このままトイレを我慢するか、漏らすか。どっちにしても、俺たちには関係ないがな。」
「こ、このD.O.が気分が悪いだと!」
「そりゃ、気分悪いよね。トイレに行けないんだから。」