夏の終わりの一夜物語
季節は夏
しかし、暑さの盛りは過ぎて秋の気配を漂わせている。
私は朝早くに心地よい気持ちで目を覚ました。
「う〜〜ん
やっぱり早く寝ると目覚めが気持ちいいね〜」
「22時から2時までが睡眠の
ゴールデンタイムって言うけど私にはあうね」
ゆっくりと起き上がり、窓を開けて日差しを浴びる。
今日は私にとって大切な日になる。
数週間前、海外住みの息子から手紙が届いた。
◯月◯日に帰ってくると書かれていた。
息子は私が興した会社を継がずに、
自ら事業を興し、海外展開まで広げた。
私はぐるりと部屋を見回す。
新聞も取っていなければ、TVも固定電話もない部屋。
殺風景と言えばそうだがごちゃごちゃが嫌いで、
ミニマリストの部分がある私には心地のいい部屋だ。
「さ〜て、帰ってくるのは夜だし
それまですること終わらせるか」
早速洗濯機を回し、終わるまでの間に掃除機をかける。
今日は一日晴れの予報なので洗濯物を干すと、
ウォーキングがてらすこし遠くの
スーパーまで買い物に出掛けた。
普段使いのスーパー店内。
買い物かご片手にリサーチを兼ねて食材を見て回る。
「お、ゴーヤーね。しかも地元産のゴーヤーか〜」
「夏は終わろうとしてるけど、まだ旬だしね。
今日のメインはゴーヤーにしよう」
「息子がゴーヤー好きなんだよね。
苦くなければゴーヤーの価値はないなんて言って」
「ま、私もゴーヤーの苦みは好きだし、賛成だけどね」
まずはゴーヤーをかごに入れる。
「さて、ゴーヤーと言えばチャンプルーが
思いつくけど、今回は違うんだよね」
そう思い、あるコーナーで足を止める。
「厚揚げ……チャンプルーを厚揚げで
作ることもあるけど、今回は油揚げ!」
きちんと原材料を確認して、無添加のものに決める。
「あとは卵と鰹節は家にあるし……お酒」
「イメージとしてはビールがあうんだろうけど、
私は炭酸が嫌いなので赤ワイン」
ワインコーナーで普段から愛飲している、
赤ワインを2本かごに入れる。
「他の常備菜や味噌汁は作ってあるし……
息子の分のお酒は自分で持ってくるって
手紙に書いてあったから……買い物終わり!」
私はセルフレジで会計を済ませて、
ポイントもきちんと獲得して帰路についた。
自宅のキッチン
私はエプロンをして、まな板の前に立つ。
「まずはゴーヤーを3〜4等分に切って、
さらに縦に切る」
「スプーンなどで種を取り除き、横に切っていく」
「それをさらに縦に切って一口大にしていく」
大きさに関しては人それぞれだと思うが、
私はチャンプルーのときでもこう切っている。
「油揚げも横に切っていき、さらに縦に切る」
これも大きさは人それぞれだ。
ちなみに今回購入した油揚げは油抜き不要だ。
「ゴーヤーと油揚げを油をしいたフライパンで炒めて、
そこに鰹節を加えて炒める」
炒めても鰹節の旨味や香りはしっかり味わえる。
「そこに溶き卵を加えて、
具材と絡ませながらさらに炒める」
「そして塩胡椒と醤油を加えて炒めたら完成」
フライパンに蓋をして予熱で味をなじませる。
簡単に洗い物をしていると、
ポーーン……とインターフォンが鳴り響いた……
「ただいま」
「おかえり」
数ヶ月ぶりに再会した息子は白い肌は変わらずだが、
肌がしっとりツヤツヤで綺麗になり、
髪の毛もサラサラで天使の輪が美しい。
さらに若返ったように見える。
クレンジングや洗顔料、シャンプーは
海外に行ってからもずっとうちの会社の商品を
使い続けてくれているらしい。
「じゃ、すぐに用意するね」
「ありがとう。俺も荷物少し広げるね」
そう言ってお互いするべきことを済ませる。
晩餐の用意ができたので向かい合って座る。
自身のグラスに自身が酒を注いで、
お互いグラスを当てずに乾杯する。
ちなみに息子が持ってきたのは
海外の赤ワインと白ワインである。
「いただきます」
「いただきます」
息子は赤ワインを一口飲んで、ゴーヤーを口にする。
「うん、しっかり苦みもあるし、食感もいい。
油揚げも出汁が効いててゴーヤーとあう」
「けど、色が普通のゴーヤーより薄いね」
「そう、薄緑よね。地元産のゴーヤーで、
大きさも普通のより1.5倍くらい大きかったの」
「へぇ、いい買い物したね。
地元産の食材は使いたくなるしね」
「そうそう、この間スーパーでリサーチをかねて、
買い物してたら見知らぬお婆さんから声かけられて」
「クッキー安いよって勧められた」
「そうなんだ。いいお婆さんね」
「まぁ、その時はクッキーをどうこうする予定は
なかったから断ったけど……いい出会いだった」
「やっぱり人との出会いが大切だね」
「そう! 出会いや人間関係は全ての基本よね」
「私も営業で1軒1軒まわってたときに、
飴玉やチョコレートなどのお菓子頂いたな〜」
それから私達は事業展開や経営などの仕事のこと、
恋愛や海外生活など様々なことを話し合った。
お金の話は抵抗がある人もいるだろうが、
うちではなんの遠慮もなく話題にする。
日本ではお金に関する教育がほとんど行われていない。
そのため、お金の話は汚いと思われている。
しかし、お金のことを知らなければ、
浪費や散財、投資で知らず知らずに失うこととなり、
お金に苦しめられる毎日を過ごすこととなる。
お金に限らず、食や体のことなど
全ての事柄において同じことが言える。
何かを疎かにする者はその何かによって身を滅ぼす
「このゴーヤー料理、作り方教えて。
自分でも作るから」
早速ノートを取り出して記録しようとする。
「うん、もちろん。
お互いに作って食べ比べてみようか」
「お! いいね。
バッチリ美味しく作ってみるから」
「楽しみにしとく。
それならしっかり味を覚えとかないとね」
私は作り方を教えながらも、
息子の学習意欲に嬉しくなり微笑む。
息子と過ごすこの一日を大切にしよう。
我が子の成長に歓びを噛み締めながら、
私は赤ワインを一口飲んだ。