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「辺境伯の治めるクリシアム領には『悪魔の森』と呼ばれている森があり、そこに住む獣達の中には凶暴で『魔獣』と呼ばれている獣がいるのです。『魔獣』は放っておくと数を増やして人を襲うようになります。

クリシアム領はおよそ300年前に『魔獣』を討伐させるために作られた領地で、当時の王弟殿下が臣籍降下されて初代クリシアム辺境伯となられています」


「最近では5年前にクリシアム領内の村が『魔獣』に襲われた時、前クリシアム辺境伯ガリウス様が戦いの中で命を落とし、フレドリック様が跡を継いで新しく辺境伯になられました」


「この時の騒ぎで領を離れた者も多いという噂もあります」


「クリシアム領に行くには王都から馬車で1ヶ月かかります。

それに『悪魔の森』から生まれる凶暴な『魔獣』と常に戦わなければならないのが辺境伯の家に課せられた義務なのです。

どんなにフレドリック様が美丈夫でも、そんな所に大事な娘を嫁がせたいと思う親はいません」


 側近達の話を聞いたアルフォンスはニヤリと笑って言った。


「そうか、それならばエリーゼとフレドリック叔父との婚姻の話を進めてくれ。ビアンカを虐めた罪を暴けないのは残念だが、それだけ遠くに行かせればビアンカも納得してくれるだろう」


「畏まりました。すぐに準備を整えて、ミルバーン侯爵家と、クリシアム辺境伯に使者を送ります」


 ミルバーン侯爵も『魔獣』の住む領地を治める辺境伯の元に娘を嫁がせるなど考えた事もないだろう。

 これでミルバーン侯爵に苦い思いをさせる事もできるし、以前から評判も悪く、公の場で有り得ない事をしたアルフォンスならば、お飾りの王にする事を反対する貴族はいないはずだ。


 アルフォンスの執務室を出たジェラルドの側近達はお互いに目を合わせて喜び合った。



*****



 フレドリック・クリシアム辺境伯は前の王、ジェラルドの父と側室との間に生まれた王子だったが、母はフレドリックを産むとすぐに亡くなってしまった。


 王妃が息子ジェラルドを無理矢理次の王にしようとしていた時、側室が第2王子となる男の子を産んだ事によって、王宮内には嫌な雰囲気が漂い始めた。


 そんな時、既に妻を亡くし、養子を探していたガリウス・クリシアム辺境伯が国王と側室の間に産まれた男の子が母を亡くしたと聞いて、養子にしたいと願い出た。

 王からの許しはすぐに降り、初めてその子を抱いたガリウスは自分でも驚く程の喜びを感じ、フレドリックと名付けた。

 ガリウスの養子となったフレドリックは、クリシアム城の皆に温かく迎えられ 、大切に育てられた。


 クリシアム辺境伯は『魔獣』を討伐するために、国には属さない騎士団を持っていて、クリシアム騎士団と呼ばれている。

 クリシアム騎士団の騎士達には、生まれによる身分の差はない。

 実力で入団できるため、国じゅうから腕に自信のある平民も集まり、騎士団の規模も今では1000人を超えるまでになり、その強さは王国最強と言われていた。


 最初にクリシアム領がつくられた時、城と町は同じ城壁と堀で囲われていたが、領民が増えていくと町を跳ね橋を渡った先に移し、城下町を作った。

 そして城下町の周りも高い城壁で囲み、南に頑丈な落とし格子の門と見張りのために塔を建て、騎士を置いて領民を『魔獣』から守ってきた。


 その後鉱山が次々に発見されるに連れて領民の数もどんどん増えていき、城下町を中心に東と西と南にも町を造り、代々のクリシアム領主が長い時間を掛けて、それぞれの町も城壁で囲み、守ってきたのだ。

 だが、領民の中には町に住むことを嫌がり、城壁の外に家を建てて村を作り、そこに住む人達が後を絶たなかった。

 ガリウスは城壁のない小さな村に住む領民達を、東町、西町、南町の3つの町のどれかに移住するように説得していた。


 そんな5年前の事だ。

 大雨が続いた事を心配したガリウスが騎士達を連れて見回りをしていた時、『魔獣』に襲われている村を見つけた。

 すぐにガリウスは騎士と共に『魔獣』を倒していったが、戦いの最中に飛び出して来た村人を守ろうとしてそのまま帰らぬ人となってしまった。

 フレドリックは、犠牲となった村人や騎士達と共に義父の弔いを済ませると、自分を大切に育ててくれた義父の跡を継いでクリシアム辺境伯になった。

 それから2年後、フレドリックはやっと義父の墓に領民の移住が全て終わりましたと報告する事ができた。



 『魔獣』から領民を守るためには必要な城壁も、農地を広げるには障害になる。

 そのためクリシアム領には農地が足りず、食料のほとんどを近隣の領地から買う必要があった。

 だが、クリシアム領には埋蔵量の豊富な鉱山が幾つもあり、鉱山から採れる鉱石や原石を使った宝飾品を加工する技術に優れた者が多く集まり住んでいた。

 そのため、原石だけでなく、クリシアム領で作られた宝飾品はどれも素晴らしく、オランド王国だけでなく、他国の貴族達からの注文も途切れる事はなかった。

 

 貴族の子なら15歳になると学園に通う決まりになっているが、クリシアム辺境伯の後継ぎにはその義務が免除されていた。

 必要な学問はこの地でも学べるが『悪魔の森』のあるこの地でしか学べない事の方が多い。


 フレドリックは義父や家庭教師から色々な事を学び、身体を鍛え、『魔獣』との戦い方を学んでいった。


 

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