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一方王宮では、アルフォンスがいよいよ学園を卒業し、次の王として相応しい姿を見せるべき卒業パーティーの最中に、婚約破棄を宣言したと聞いたジェラルドの側近達は、驚いてこれからどうしようかと話し合った。
「アルフォンス様がエリーゼ様に婚約破棄を言い渡したそうだ」
「あの馬鹿王子! 大勢の貴族の前でそんな事をすれば王としての資質が疑われる事が分からないのか!息子達は何をしていたんだ?!」
「まあまあ、既にアルフォンス様の悪評は知れ渡っていますから今更でしょう。アルフォンス様がこうと決めたらアーサーとルークではどうする事もできません。それに私達にとっては僥倖かも知れませんよ」
「そうだな。アルフォンス様にはこのまま王になってもらい、ジェラルド王の側近である私達と息子達とで国を動かして行けば済む話だ」
「ただこうなれば、アルフォンス様を王にする事を反対する者が現れるかも知れない。他に王位継承権を持つ者と言えば、公爵になられたジェラルド様の叔父上と、腹違いの弟だけだな。
公爵は高齢だし、こどもはいないが養子は取らず、爵位は死亡後に返還する予定だと聞いている。後は義弟のクリシアム辺境伯だけという事か」
「クリシアム辺境伯は王座への興味はないでしょう。それにクリシアム辺境伯を王にすれば、誰かがあの領地の面倒をみなくてはならないでしょう?
あの領地を欲しがる者などいませんよ。だからこそ、アルフォンス様の悪評を知っていても皆黙っているのです」
「それでも、担ごうとする奴はいるだろう?
そのためにもエリーゼ様にはクリシアム辺境伯の元に嫁いでもらってはどうだ?
王族から婚約破棄された令嬢を娶ったとなれば、ほとぼりが冷めるまでは担ぎにくいはず。こっちはアルフォンス様を王太子にするまでの時間さえ稼げれば良いんだ」
「それは良い考えですね。それで行きましょう」
*****
エリーゼが婚約破棄を受け入れて退場した後の会場では、御祝いの場で非常識な事をしたアルフォンスに眉をひそめた貴族達がミルバーン侯爵家に賛同する様に次々と退場して行き、熱気を取り戻す事はなかったが、パーティは例年通りに幕を閉じた。
アルフォンスがこれからの事を考えながら王宮に戻って来ると、王の側近達が話をしたいと言って部屋を訪ねて来た。
「王子、ミルバーン侯爵令嬢との婚約を破棄されたと聞きましたが、本当ですか?」
「本当だ。あんな可愛げのない女など、最初から気に入らなかったんだ」
「そうですか。では、王子に相応しい令嬢を…」
「心配するな。私にはもう新しい婚約者がいる。ウォード男爵の長女、ビアンカだ。
エリーゼは身分を笠に着て、随分とビアンカを虐めたようだ。私はそれを許す事が出来なくて婚約を破棄する事にしたんだ」
それを聞いた側近達は驚いたが、それならそれで良いと思い直すとアルフォンスに聞いた。
「それでは、エリーゼ様には何かしらの処分が下されるという事でしょうか?」
アルフォンスは何とかしてエリーゼにビアンカを虐めた事を認めさせたいと思い、証拠を集めようとしたが、何も見つからなかった。
「実はエリーゼがビアンカを虐めた証拠を集めようとしたのだが、何も見つける事ができなかった。だが私はどうしてもエリーゼを許す事ができないんだ。何か証拠を見つける方法を知らないか?」
側近達が言った。
「どんなに探しても証拠など見つからないでしょう。エリーゼ様はミルバーン侯爵の娘です。あの侯爵が娘のために証拠を消したのなら、もう見つかるはずがありません」
「ビアンカ様の事を思い、エリーゼ様を何とかしたいとお思いになるのならば、攻め方を変えた方が良いと思います」
アルフォンスは聞いた。
「何か良い考えがあるのか?」
側近達が答えた。
「新しく婚約者になられるビアンカ様の妃教育はこれからです。アルフォンス様との婚姻は妃教育をやりながらの準備となると、3年はかかるでしょう。ジェラルド王が国政に戻る気配が無いのを良い事に、次の王の座を狙う者が出てこないとは限りません」
「可能性があるのはクリシアム辺境伯でしょう。現在、クリシアム辺境伯になられたフレドリック様にはその気はないようですが、担ぎ上げようとする者は今でもいます」
「王子からの婚約破棄を受けた事で、エリーゼ様は貴族の間では、傷物になり、嫁ぎ先を探すのも難しくなるはずです。そこで、傷物になった令嬢を哀れんだ王が、婚姻先を紹介してやるというのは如何でしょう?」
それを聞いたアルフォンスは苦笑いして、首を振りながら言った。
「いや、エリーゼとフレドリック叔父を婚姻させろというのか? そんな事をすればミルバーン侯爵家の後ろ盾を得て、フレドリック叔父の力が強まるだけだろう。私がフレドリック叔父を見たのは、母上が亡くなった時に父上に弔意を伝えるために来てくれた時の1度だけだが、叔父があまりにも美丈夫で驚いたくらいだ。それなのに誰とも婚約しないのは女嫌いのせいだと聞いていたが、他に理由があるのか?」
側近達はアルフォンスが何も知らない事に驚いたが、今更だ。
仕方ないから改めてクリシアム領について教える事にした。




