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 15歳になり学園に入学したビアンカは、結婚するなら平民でも金持ちなら良いと考えるようになっていたが、貴族と結婚するなら伯爵家、できればそれより高位の家の嫡男と決めていた。

 だが、学園に入学してみると、高位貴族の嫡男には全員婚約者がいた。

 男爵令嬢の自分にはもとから高位貴族からの縁談が来る事はない。

 だったら婚約者がいたとしても相手が自分を好きになれば話は別だ。

 本人が望んでいない婚約なら奪い取っても構わないとビアンカは思っていた。


 (まずは自分を知ってもらう事から始めよう)


 アルフォンスと親しくなれば自然と高位貴族の男性と知り合いになれると考えたビアンカは、話し掛ける機会を狙うと同時に、婚約者のいる男子生徒にも積極的に話し掛けていった。

 だが食堂で親しくなろうとする生徒達を冷たくあしらうアルフォンスの姿を見てからは、アルフォンスと親しくなる事を諦めていた。


(それならそれで仕方ないわ。お父様の言う通り面倒な事の多い貴族に嫁ぐよりも、お金のある商人に嫁ぐ方が良いかも知れないわね。だったらどの商会の商人が良いか情報を集めなくちゃ)


 そう考えたビアンカは、王都の街に出かける事が増えていった。 



 5歳になった頃だろうか、父が初めてカフェに連れていってくれた時、ビアンカはカフェの香りや賑やかなようすに興奮していた。

 父の向かいに座り、注文したケーキを待つ間にも、周りの席に座る人達が上品に紅茶を飲みながら食べているケーキを見ながら、「あれにすれば良かった」と思っていた。

 いつものようにビアンカが父と一緒にカフェで飲めるようになったばかりの紅茶を飲みながらケーキを食べていた時、隣の席で上品に笑っていた女性が豹変し、顔を歪めて他人の噂話を始めた姿を見て面白いと感じたのがきっかけで、ビアンカはカフェで噂話を聞くのが楽しみになった。


 学園に通うようになるとビアンカは、お小遣いを貯めて買ったウィッグを被り、変装してはひとりでカフェに通うようになった。

 紅茶を飲みながら本を読む振りをしていれば顔を見られる心配もないし、実際、隣の席に同学年の生徒がいてもビアンカに気付く事はなかった。


 カフェは噂話で溢れていて、聞いているだけでも楽しかったが、聞いた話を利用して、欲しい物を手に入れた事もあるし、どんな事でもやってくれると言う男の話を聞いたのもカフェだった。


 カフェ巡りをする内に、噂話を楽しむカフェや、知人と行くカフェ等、カフェの雰囲気で使い分けるようになり、お気に入りのカフェも見つけていた。

 ビアンカが気に入ったカフェは、他の店よりも値段は高かったが、席の間隔を少し広く取ってあるだけでなく、丁度良い所に壁が造られていたり、植物が置かれていて、他の席の客と視線が合わないように工夫されており、奥に個室もあるようで、貴族からの人気が高いお店だった。



 2年生の終わり頃、教室に忘れ物を取りに戻ったビアンカは、教室の前でぼんやりと外を眺めているアルフォンスを見つけて話し掛けた。


 その頃アルフォンスに近付く者は限られた生徒だけになっていて、そんな時に躊躇いもなく話しかけてきたビアンカの笑顔がアルフォンスにはとても眩しく見えた。

 その翌日はアルフォンスからビアンカに話し掛け、2人はあっという間に親しくなっていった。



 3年生になると2人が一緒にいる姿を見る事が増えていき、そのうちアルフォンスの側にはいつもビアンカがいるのが当たり前になっていった。


(ただの友達なんかで終わるつもりなんてないわ。アルフォンス様はエリーゼ様のことが嫌いで、好きなのはビアンカだけだと言ってくれた。それなら私がアルフォンス様の婚約者になるべきよね)


 そう考えたビアンカだったが、エリーゼはアルフォンスの亡くなった母である王妃が決めた婚約者、そしてミルバーン侯爵家の令嬢だ。

 アルフォンスがいくらエリーゼを嫌ったとしても、ただ待っているだけではビアンカにアルフォンスの婚約者の座が転がり込んでくる事はなかった。

 ビアンカは、いつもよりも思い切った手を打たなければアルフォンスを手に入れる事は出来ないと思うようになった。


 2人の婚約を破棄させるためにはどうしたら良いのかと考えたビアンカは、エリーゼの悪い噂を流して評判を落とせば良いのだと思い付いた。

 まずはエリーゼに近付いて、噂になりそうな事を探そうとしたが、エリーゼは評判が良い上に、1人になる事もない。

 短い時間でエリーゼから悪い噂になりそうな事を見つけるのは難しいと感じたビアンカは、仕方なく誰かに虐められているような細工をしては、可哀想な姿をアルフォンスに見せるようになった。


 自分で自分の持ち物を壊し、床に投げ捨てその場に座り込んでいると、アルフォンスが来て、誰にやられたのかと優しく尋ねてくれる。

 そこで悲しそうな顔をして「私が悪いのです」と言いながら、エリーゼにやられたのだと仄めかすだけでアルフォンスはビアンカの思い通りに動いてくれた。


 

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