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侯爵達が強盗団を連れて宮殿に向かっていると、ジャナルから連絡を受けた王宮騎士が罪人を移送するための馬車を用意して来てくれたので、サイナスの警邏隊は町に戻り、侯爵達は王宮騎士と一緒に宮殿に向かう事になった。
サイナスから宮殿までは、無理をして馬を飛ばせば1日で行けるが、今回は人数も多く、護送用の馬車も一緒なので1泊する事になる。
侯爵と王宮騎士の隊長だけが宿に泊まり、強盗達を町の警邏隊待機所の牢に入れると、他の者は宿舎に泊めてもらう事にした。
夕飯も終わり、侯爵が部屋で休んでいると、隊長が話したい事があると言って部屋に来た。
隊長は、侯爵も知っている通り、王宮では宝飾品が失くなるという事件が起きたのだが、宮殿を封鎖して調べ、女官や侍女達にも話を聞いたが誰も怪しい所はなかったのだと話してくれた。
今回捕まえた強盗が宝飾品についての情報を持っているかも知れないとサイナスの警邏隊長からの手紙には書いてあったが侯爵はどう思うかと聞かれた。
侯爵は、隊長に強盗達から聞いた事を話した後、自分は被害者の家族なので王宮騎士団に全て任せたいと考えている事を話した。
すると隊長は、王宮で盗難事件が起こった事は自分達の責任でもあると騎士団全員が重く受け止めている事を話し、必ずエリーゼを殺害する事を依頼した犯人を突き止めて、罪を償わせてみせると約束してくれた。
翌朝侯爵は盗賊達を騎士隊長に任せると、ジリアン達を連れて侯爵家へ帰って行った。
王宮騎士達が宮殿に着き強盗達を地下牢に入れた後、騎士隊長は騎士団長の元へ向かった。
隊長の報告を聞いた騎士団長は、宝石を盗んだ人間がエリーゼ殺害を依頼するために国宝の宝石を使ったと聞いて驚き、すぐに王の側近に報告して会議を開く事になった。
会議には騎士団長、強盗団を連行した隊長、王の側近、アルフォンスと2人の側近が参加し、隊長が経緯を話した後で、団長が犯人を見つけるために強盗団を囮に使うことを提案した。
サイナスで捕まえた強盗団がエリーゼを襲っただけでなく、王宮から盗まれた宝石を持っていたという噂を流して、犯人に揺さぶりをかける。
そうすれば宝石を盗んだ人は宮殿から逃げようとするか、強盗団に接触しようとするだろうから、そこを捕らえるという作戦だ。
エリーゼが襲われた事を聞いてアルフォンスがどんな手を使っても良いと団長に賛成し、この件は団長とアルフォンスが協力して進めることになった。
エリーゼ殺害未遂で地下牢に捕らえられている強盗団が宝石を持っていたという噂は宮殿の隅々まで、あっという間に広がっていった。
ビアンカのもとに強盗の噂話が届いたのは、会議が行われた2日後、午後の紅茶を飲んでいる時だった。
「ビアンカ様、先日捕らえられた強盗団はエリーゼ様を殺そうとしただけでなく、王宮から盗まれた宝石を持っていたそうですよ」
「えっ!……」
ビアンカは息が止まりそうになり、手が震えてティーカップを落としてしまった。
侍女は強盗の話をしてビアンカを怖がらせてしまったと思い、謝りながら片付けていたが、ビアンカに
「少し驚いただけよ。詳しく教えてちょうだい。できるだけ詳しく知りたいの」
と言われ、それなら王宮騎士の中に学園の頃からの友人がいますので聞いて来ますと言ったが、ビアンカがどうしても直接聞きたいと言うので、頼んでみる事にした。
侍女の友人、王宮騎士のエイバンは強盗団をサイナスに迎えに行った隊長の部下で、噂話を流した騎士の1人だった。
「エイバン、ビアンカ様が強盗団の事を詳しく知りたいそうなの。エメラルドのネックレスが見つからなかった事から盗難が発覚したでしょ? あのネックレス、ビアンカ様が着けるはずだったのよ。だから気になるんじゃないかしら? 仕事が終わった後で良いからビアンカ様の質問に答えてあげてくれないかしら?」
エイバンは友人の頼みを快く引き受けた後、ビアンカが強盗団に興味を持った事を隊長に報告した。
翌日、ビアンカは侍女と一緒にエイバンと中庭で話をする事になった。
ビアンカは強盗が持っていた宝石や、何を話したのか等細かい事を知りたがり、地下牢の場所まで聞いてきた。
エイバンは、具体的な事は言えないが、確かに王宮から盗まれた宝石を持っていて、まだ尋問の最中だと答えた。
そして地下牢は騎士の棟と王宮の2カ所しかない扉から入り、通路を行った先にあるのだと教えた。
エイバンは言った。
「ビアンカ様、色々と御心配でしょうが安心してください。明日からは騎士団長が直接尋問する事になっていますから、強盗もすぐに白状するしかありません」
「騎士団長が?」
「そうです。団長の手に掛かって白状しなかった罪人はいませんから」
笑顔でそう言うとエイバンは帰って行った。
侍女から「そろそろ部屋に戻りましょう」と言われ部屋に戻ったビアンカは、明日からの厳しい尋問により強盗が何を話し始めるか分からないと思うと恐ろしくなった。
(今夜逃げるしかない)
もう逃げる事しか考えられなくなったビアンカは平民の服に着替えると、夜中を待って使用人が出入りする門から宮殿を出ようとした。




