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 ジリアンがエリーゼの縄を解いていると侯爵が側に来て上着をかけながら優しく言った。


「エリーゼ、よく頑張ったな。ほんとうに無事で良かった」

 

 エリーゼがロイ達の事を聞くと、「大丈夫。眠らされていただけで皆無事だ」と教えてくれた侯爵は皆に礼を言うとジリアンに後を頼み、エリーゼを抱えてジャナルの屋敷に戻った。


 ジャナルの屋敷ではジャナルの妻がエリーゼの部屋を用意して待っていてくれた。

 エリーゼは念の為医者の診察を受け、手足に傷はあるがすぐに良くなると言われた。


 エリーゼの診察が終わるのを待って侯爵が警邏隊の待機所へ向かおうとした時、ロイ達からエリーゼの事を聞いたフレドリックがジャナルの屋敷を訪ねてきたところだった。


 侯爵の前に案内されたフレドリックは膝を付き、頭を下げてエリーゼを危険な目に合わせてしまった事を謝った。

 侯爵はフレドリックのせいではないと言いながら立たせると、エリーゼの所に案内した。


「エリーゼ!」

「フレドリック様」

 

 フレドリックはエリーゼを抱きしめると何度も遅くなった事を謝った。


 侯爵が2人を見て安心し、これから警邏隊の待機所へ向かう事を話すと、フレドリックが「私も連れて行ってください」と言うので一緒に行く事になった。


 警邏隊の待機所に着くまでの間、侯爵はマイケルからの手紙を受け取った時の事から説明し、エリーゼを助けた時殺されそうになっていた事を話した。

 フレドリックは何度も侯爵に御礼を言い、待機所に着いた時には既にクリシアムの騎士達も揃っていた。


 強盗団の首領は、どうせエリーゼが落ち着いたら小屋の中で聞いた事を話してしまうだろうから、今のうちに取り引きするしかないと考えていた。

 

 ジャナル隊長も取り引きしてでも情報を得たいと考えていたので、命を助ける代わりに、知っている事は全て話すように命じた。


 首領は自分達は、「本屋」と呼ばれている紹介人からクリシアム辺境伯の妻を殺すように依頼されたのだと話した。

 ジャナルが「それで?」と言うと、首領は

殺しを依頼したのは貴族の女で、依頼料金をお金でなく国宝級の宝石で払ったと「本屋」から聞いた事も話した。


 国宝級の宝石と言えば王宮から盗まれた品に違いないだろう。


 盗賊の話を聞く限りエリーゼの殺害を依頼したのは王宮から宝飾品を盗んだ貴族の女という事になる。

 王宮の職員の中に犯人がいるとなればどんな身分の人間か分からない。

 犯人を捕まえるには、今聞いた事をアルフォンスや王宮騎士団長の前で証言してもらうのが早いと判断した侯爵は、ジャナルと相談し、エリーゼと一緒に家に帰る事を諦めて盗賊達を宮殿まで連行する事にした。


 すぐに発つ事にした侯爵は、フレドリックにエリーゼを託すと、「家で待っている」と言って警邏隊の隊員とジリアン達と一緒にサイナスの町を出た。




「ロイが準備してくれた宿に行こう」


 侯爵達を見送ったフレドリックは、ジャナルとジャナルの妻や、屋敷の人達に礼を言うと、エリーゼを連れてロイが準備してくれた宿に移る事にした。


 エリーゼの無事な姿を見たロイと騎士達は、涙を浮かべてエリーゼに申し訳なかったと頭を下げた。

 それを受けてエリーゼは皆が無事で良かった、皆が無事ならそれで良いのですと言って笑顔を見せた。


 その後フレドリック達がレオの宿に様子を見に行く事を話すと、エリーゼも連れて行って欲しいと言うので、皆でレオの宿屋に行って、迷惑をかけた事を謝った。

 するとレオは


「宿屋の人間が脅されることはよくあるのですが、宿屋毎奪われるとは思っていなかったので今後は対策を考えます。今回は誰も殺されなくて良かったです。何しろマイケルから紹介された人達に何かあれば、その方が恐ろしいですからね。

これに懲りずに帰る時にも必ず連絡してください。準備してお待ちしています」


 と言って笑ってくれた。

 宿の使用人の中には軽い怪我をした者もいたが医者にもすぐに治ると言われたそうだ。


 宿の次に警邏隊の皆さんに御礼を言いたいと言うエリーゼを連れてフレドリックが待機所に行き改めて御礼を言うと、ジャナルは

 

「辺境伯夫人が無事で良かったです。妻もお役に立てて良かったと言っていました。今夜は警邏隊が宿の周りを警備しますので、皆さんでゆっくりと休んでください。エリーゼ様、実家に帰ったら侯爵によろしく伝えてください」


 と言ってくれた。



 宿に戻ると皆の前では笑顔を見せてくれたエリーゼが、時々不安そうな表情をするのが気になっていたフレドリックは、部屋で2人になると話しかけた。


「エリーゼ、わたしが『悪魔の森』から帰るのが遅くなったせいで一緒にいられなくてすまなかった。怖かっただろう? 」


 エリーゼは悲しそうに言った。

 

「怖かったです。ですが私が騙されたのが悪いのです。フレドリック様、皆が危険な目にあったのは私のせいかもしれません」


「そんなはずない。誰かがよからぬ事を企んだだけでエリーゼは何も悪くない」


 フレドリックにそう言われたエリーゼは、誰も死ななくて良かったと思うと同時に、殺されそうになった時の事を思い出し、身体が震えた。

 するとフレドリックが「大丈夫だ」と何度も言いながら、優しくエリーゼを抱きしめてくれた。


 抱きしめられて安心したエリーゼは、そのままフレドリックの腕の中でぐっすりと眠り、フレドリックもエリーゼを失っていたかも知れないと考えただけで恐ろしくなり、腕の中にいるエリーゼを包み込むようにして眠りについた。


 

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