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 弟のレオナルドが大怪我をしたという手紙を受け取ったエリーゼは、ロイや騎士達に守られながらやっとサイナスの町に着き、すぐにレオの宿屋に向かった。


 宿屋に着いたエリーゼ達はレオに挨拶しようとしたが、主は親戚に不幸があり、遠くの町にある奥さんの実家に行っているのだと使用人が話してくれた


 それならば仕方ない。使用人に部屋に案内されたエリーゼ達は、準備してもらった夕飯を食べて眠ることにした。


 翌日の朝、外の騒がしさで目を覚ましたロイ達が廊下に出ると「どうなっているんだ」と言いながら怒っている客がいる。

 聞けば「宿屋の人がいなくなっていて、朝食も食べられない」と言うのだ。

 

 (しまった!!)


 エリーゼの無事を確認するために、部屋の扉を叩いたが返事がない。

 急いで扉を開けてみると、既にエリーゼはいなくなっていた。


 ロイがすぐに騎士の1人に警邏隊を呼びに行かせると残った者で宿の中を捜索しようとした時、警邏隊が宿に入って来た


 警邏隊と一緒に来たジリアンがロイに事情を説明し、エリーゼの無事も伝えている間に、宿の地下室に閉じ込められていたレオや使用人達は助け出された。  


 


*****



 一方、マイケルからの手紙を受け取ったミルバーン侯爵は驚いた。

 この春から学園に通い始めたレオナルドは今朝も元気に朝食を食べていた。


 侯爵はこれはエリーゼに危害を加えようとする奴の企みだと考え、秘書のセバスに家の事を頼むと、侯爵家の護衛隊長ジリアンを呼んで隊員を集めてもらい、エリーゼに合流するためにサイナスの町に向かった。


 王都の各町には治安を守るために警邏隊が置かれている。

 サイナスの警邏隊の隊長はジャナルという名で、学園に通っていた頃からの侯爵の友人だ。

 侯爵はサイナスに着くと馬を預けてまずはジャナルの顔を見るついでに何か変わった事はないか聞いてみる事にした。

 王宮で貴重な宝飾品が盗まれる事件があった事は侯爵も聞いていたので、サイナスでも警戒を強めているはずだ。


 ジャナルは久しぶりに会う侯爵を見て喜んでくれたが、エリーゼの話をするととても心配してくれた。

 

 そして侯爵が、早ければ明日にでもエリーゼはこの町のレオという男が営む宿屋に泊まるはずだからそこで合流する事になっていると言うと、ジャナルはレオの宿屋ならよく知っているからと案内してくれた。


 レオの宿屋は町の広場から少し離れた静かな通りに面した宿で、ジャナルが入って行くと警邏隊の服に驚いた使用人が対応してきた。

 その使用人を見たジャナルが後ろにいた侯爵に指で「✕」の合図を送って来た。

 それは学生の時に決めていた何かあった時の合図だったので侯爵も少し後ろにさがり、ジリアン達にも下がる様に伝えた。


 ジャナルが「主はいるか?」と聞くと、親戚に不幸があって奥さんの実家に行ったのでしばらく帰って来れないのだと言う。

 ジャナルはそれならまた来ると言ってそのまま宿を出た。


 無言のジャナルの後について待機所に戻ってきた侯爵にジャナルは難しい顔をして言った。


「ゼノ、どうやらレオの宿は既に乗っ取られているようだ。普通の強盗とは違う。人数も揃えているし、はっきりとした目的を持って計画的にやったとしか思えない。頭の良い奴が仕切っているんだろう。レオ達が無事だと良いが、普通に客がいたし、何の証拠もないので今の段階では乗り込むことが難しいと判断した」


「それは間違いないのか?」


 侯爵が聞くとジャナルは言った。


「間違いない。あそこの使用人とは顔なじみなんだ。それにレオの奥さんの実家はこの町だ。エリーゼ嬢が明日にでも到着すると言ったが間違いないか?」


「間違いない。エリーゼの夫クリシアム辺境伯の秘書はマイケルと言う男で元は商人をしていたから旅の行程には詳しいはずだ。それにエリーゼの事だ、レオナルドが心配で無理をするだろうから、明日は無理でも明後日にはこの町に着くはずだ」


 それなら協力してあの宿を見張るしかないと言う事になり、侯爵達はジャナルの屋敷に泊めてもらい、この町の警邏隊長ジャナルの指示に従うことになった。

 


 翌日の夕方、宿の前に停まった馬車から降りるエリーゼを見つけたのはジリアンだった。

 エリーゼが護衛に守られながらレオの宿に入って行くのを見たジリアンは、ジャナルと侯爵に報告するとそのまま警邏隊の隊員と一緒に宿を見張る事にした。




 夜中過ぎた頃、10人を越える男達が宿から出てきて、その内の1人が毛布で包んだ何かを担いでいるのが見えた。


 (エリーゼ様!)


 エリーゼと同じ黄金色の髪が毛布から零れているのを見たジリアンが横に居る隊員に合図を送ると、隊員も仲間に合図を送った。

 ジリアン達が見つからないように気を付けながら強盗達の後をつけて行くと、男達は離れた所にある小屋に入って行った。

 

 


 エリーゼは運ばれている間に目を覚まし、小屋の中で床に転がされた時には手足が縛られていて、自分が誘拐されたのだと気付いた。

 だが目を覚ました事がばれたらすぐに殺されるかもしれないと考え、そのまま眠ったふりをする事にした。


「今回の本屋の仕事は色々面倒だったが報酬がでかいからな」

「確かに準備は面倒だったが、女が来てからは眠り薬を食事に混ぜるだけだったな」

「だが本屋の仕事は今回で終わりだ。あいつは遠い国でしか捌けないような貴重な品を安く手に入れたから店仕舞いするそうだ」

「俺も聞いたよ。お宝を持って来たのは物の価値も分からない貴族の女だったと言っていたが、どんな品なのかは教えてくれなかった……」


 男達が話していると、それを制するように「早く殺してここを出ましょう」と言う女性の声が聞こえたのでエリーゼは女性もいるのかと思い、驚いて目を開けると、その女性は夕飯の時に食事を運んで来てくれた人だった。


「「起きていたのか!」」


 目を覚ましたエリーゼを見た強盗達は喋り過ぎたと思ったが、すぐに殺すのだから心配はない。

 1人がエリーゼを抑え、もう1人がエリーゼに短刀を突き立てようと近付いた時、扉が壊れる大きな音と共に警邏隊が突入してきた。

 驚いた強盗達は逃げようとしたがすぐに捕らえられて尋問を受けるために警邏隊の待機所に連行されて行った。


 

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