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キロの1歳の誕生日が来て、エリーゼは、フレドリックと育てたベリーを使ったケーキを作った。
トータスもキロが食べやすい料理を用意してくれて、ミリの両親やローズも城に招き、誕生日を賑やかにお祝いする事ができた。
たくさん採れたベリーはリーシャがジャムにしてくれるそうだ。
気が付けばクリシアム領地の町や街道で『魔獣』を見る事はほとんどなくなっていた。
鉱山には土壁に守られた宿舎はあるが、騎士達が常に目を光らせていても、どうしても襲われる事が多いのだが、鉱山でも『魔獣』を見かけなくなったと聞いて、ロイはフレドリックに「魔獣」が減った事を報告した。
それを聞いたフレドリックは、エリーゼを連れて行く前に、自分が行ってようすを見たいと言って、ロイと相談し「悪魔の森」の調査に行く事にした。
フレドリックはエリーゼに「悪魔の森」の調査に行くから2ヶ月は戻れないだろうと話した。
エリーゼは驚いたが、ロイからは、「悪魔の森」の入り口の近くには周りを土壁で囲んだ中に家を建ててあり、そこにいれば夜間でも安全だと聞いていた。
それに森の中にも幾つかの避難所が作られているそうだ。
だが2ヶ月は長い。
「そんなに長くかかるのですか?」
思わず聞いてしまったエリーゼに、フレドリックは優しく微笑みながら答えた。
「寂しいと思ってくれるんだね。私もエリーゼと離れたくはないが、街道でも鉱山でも『魔獣』は減ってきた。後は『悪魔の森』の中のようすを見てこなければ君を連れて行けるかどうかの判断ができないんだ。それに、他の所と同じように『悪魔の森』の中の『魔獣』も減っていたら、今まで行く事の出来なかった奥まで行って、造れそうなら避難所を造りたいと考えているんだ。君を連れて行った時にその方が安心だからね。『悪魔の森』から帰ったら、私も早くエリーゼの両親や弟のレオナルドに会いたいので早めに準備して王都に行くことにしよう」
数日後、フレドリックは副団長のライルと騎士達を連れて「悪魔の森」に向かった。
エリーゼは寂しかったが、『悪魔の森』の調査が終われば実家に帰ることができる。
両親やレオナルドに会えると思うと寂しさも薄らいでいき、歩くようになったキロと遊んだりベリー畑や農園に通っていると、毎日があっという間に過ぎていった。
フレドリック達が家を出てからもうすぐ2ヶ月になる頃、城に早馬で手紙が届けられた。
その手紙は侯爵家からエリーゼに宛てたもので、「レオナルドが馬から落ちて大怪我をしたので、すぐに帰って来て欲しい」と震える字で書かれていた。
驚いたエリーゼはすぐにグラムに手紙を見せて、帰る準備を始めようとしたが、顔色も悪く、足元がふらついている。
グラムは言った。
「奥様、3日後、いや2日後にはここを発てるように準備しますので全て任せてください」
その後エリーゼに休んでもらったグリムは、マイケルとロイを呼んで王都にある侯爵家までエリーゼを送るための準備を始めた。
フレドリックが帰ってきたら侯爵家に行くことは決まっていたので、長旅のための馬車は用意してある。
グラム、ミリ、トータス、リーシャは食料や、エリーゼのための着替え等、物品の準備を担当し、マイケルとロイで、護衛の人数や、旅の行程を決める事にした。
マイケルには王都にあるサイナスという町で宿屋を営んでいるレオという名の友人がいて、商人をしていた頃には王都に行く度に泊まらせてもらい、宿を部下達と連絡を取るための拠点にさせてもらっていた。
今回もレオの宿を何かあった時のため、拠点にさせてもらおうと考えたマイケルは、レオとミルバーン侯爵に事情を書いた手紙を書き、自分が信頼している男に手紙を託すと、フレドリックには早く帰るようにと手紙を書いて騎士に届けさせた。
エリーゼも顔色が戻ると、できるだけ早く実家に帰る事とサイナスの町にあるレオの宿屋に着いたらまた連絡しますと書いた手紙を侯爵家に送った。
皆が協力してくれたおかげで、侯爵家からの手紙を受け取った2日後には王都に向けて旅立つ事になった。
その頃フレドリック達は、『悪魔の森』の中で『魔獣』を討伐しつつ、水場を見つけると木の実団子を潰して投げていった。
確かに『魔獣』の数は減っていて今まで来た事がない奥まで進む事ができたが、何だか嫌な臭いがする。
フレドリック達が臭いの方へ行くと、『魔獣』の数が増えてきたので、臭いの元が、大きな沼だということを突き止め、木の実団子を投げ入れるとすぐに後退して『魔獣』の少ない場所まで戻った。
フレドリック達は避難所が作れそうな場所を探したが、なかなか良い所が見つからないまま森の入口にある家まで戻ると、城からの手紙を持った騎士が待っていた。
手紙を読んだフレドリックは後の事を副団長のライルに頼むと馬に乗ってすぐに城に戻る事にした。




