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 男から、本屋に行って今度は「特別な本が欲しい」と言えば良いと言われたが、男に依頼を断られて何だかほっとしたビアンカは、なかなか本屋に行く気になれないでいた。


 王宮では、教師達からビアンカの妃教育が進まないので王宮に戻してくださいと言われたアルフォンスが仕方なく謹慎を解いた事で、ビアンカは迷っている内に本屋に行かないまま王宮に戻る事になった。


 王宮に戻ったビアンカは自分なりに頑張ってみたが、勉強だけでなく、歩き方や食事の作法まで注意されてばかりで息が詰まりそうな毎日を送る事になった。

 夜1人になると、婚約者にならなければ良かったと思うが、喜んでくれた父の顔を思い出すと結婚したくないとは言えないし、結婚式の準備も始まっている。


 アルフォンスはますます冷たくなり顔も見せに来なくなっていたし、あれからビアンカが王族の居住区へ立ち入る事だけでなく、ジェラルド王に近付く事さえ禁止されてしまった。


 ビアンカは、このままでは自分に幸せな未来は来ないと思い悲しくなり、やはり本屋に行けば良かったと思うようになった。



*****



 クリシアム城ではキロがつかまり立ちを始めた頃、アルフォンスとビアンカの結婚式と即位式の招待状が届いた。

 フレドリックは行きたくないと思ったが、マイケルには


「騎士団の規模を考えると、王子の結婚式に参加しなければ何かあった時に、謀反を企てているのではないかと濡れ衣を着せられる危険があるので行ってください」


 と言われた。


 エリーゼにも相談したが、アルフォンスの元婚約者ではあるが、自分は気にしないし、王都に行けば自分も家族に会えて嬉しいと言う。


 フレドリックは、出席すると書いた返信を送ると、エリーゼが王都にいる間はミルバーン侯爵家にお世話になりたいのだが良いだろうかと聞いて来た。


 エリーゼは喜び、「もちろんです。皆喜びます」と言うので、侯爵にもその旨を書いた手紙を送った。



 

*****

 

  

 「秋の祝宴」が近付いたある日、久しぶりにアルフォンスから呼ばれたビアンカが喜んで執務室に行くと、机の向こう側に怖い顔をしたアルフォンスが座り、その側には2人の側近が立っていた。


「ビアンカ、まだ家臣の顔と名前も一致しない君を褒賞の席で私の隣に立たせる事は出来ない。『秋の祝宴』には参加せず、時間を惜しんで勉強してもらう事にしたからそのつもりでいてくれ」


 アルフォンスはそれだけ言うと立ち上がり奥の部屋に行こうとする。

 慌ててビアンカが追いかけようとすると、2人の側近が通さないように前に立った。


「ビアンカ様、この奥に勝手に入る事はできません」


「私はアルフォンス様の婚約者なのよ。入れない訳ないでしょ!」


「駄目です。アルフォンス様からの話は終わりましたので部屋へお帰りください」


 アルフォンスは、ビアンカの顔も見たくないと思い「秋の祝宴」にも参加させない事にした。

 今日それをビアンカに伝えるために呼び出したのだが、伝えた後はすぐ席を立ち、後の事をアーサーとルークに任せる手筈になっていた。


 アルフォンスに腹は立ったがどうする事もできないビアンカは、私室に戻ったが、これ以上我慢できないと思い本屋に行くためにもう1度実家に帰る事にした。


 3日間食事をできるだけ我慢して悲しんでいるようすを見せると、侍女達が心配して何かあったのかと聞いてきた。


「母の形見のブローチが見つからないんです。実家に忘れて来てしまったのかも知れません」


 と話すと、それなら1度実家に戻り見てきた方が良いという事になり、ビアンカは伯爵家に3日間だけ帰ることになった。


 これが本屋に行ける最後のチャンスになると考えたビアンカは、依頼の代金を払うため、大きな衣装室の奥にある部屋から、宝石や宝飾品を適当に選んで鞄に入れると、母の形見のブローチもしっかりと持って伯爵家へ戻った。


 王宮にあるドレスも宝飾品もいずれは自分の物になると思い込んでいたビアンカは、少しくらい持ち出して売ってしまっても構わないと考えていたのだ。


 伯爵家に戻ったビアンカは、翌日、「家には見つからなかったから、行きつけのカフェに行ってみます」と言ってカフェに入り、いつも個室に入ると本屋に向かった。


 男に言われたように「特別な本が欲しい」と言うと、店主はニヤリと笑い、カウンターの奥に声を掛けると中から女の人が出て来て店主の代わりにカウンターに立ち、店主はビアンカを奥にある部屋へと案内した。


 奥の部屋に入るとビアンカに椅子を勧めた本屋の店主は、向かい側に座ると今度依頼を受けるのは自分だと話し、依頼の内容を聞いてきた。


 ビアンカがエリーゼを殺して欲しいと話すと店主は、クリシアム領地では無理だが、エリーゼが王都に来た時なら殺れると言うので、依頼する事にした。


 店主が告げた殺しの代金は高額だったが、ビアンカには王宮から持って来た物しかない。

 店主の前のテーブルに宝石や宝飾品を並べていくと、店主は1個づつ丁寧に光を当てて見た後で、指輪を1つだけビアンカの方に戻すと言った。


「これで代金はもらったが、この指輪もくれるなら俺は店を畳んで消える。もちろん頼まれた事はするし、俺が店を畳めば、もしもお前が疑われた時に証拠が見つからない事になるがどうだ?」


 ビアンカは本屋がなくなれば、確かに自分がここに来た証拠も何も残らなくなると思い、「それで良いわ」と言いながら指輪を店主の方に置いた。

 店主は嬉しそうに指輪を受け取りながらニヤリと笑い、「契約成立だな」と言った。


 その後ビアンカは、カフェから家に帰ると、しばらく部屋の奥で母の形見のブローチを探すふりをした後、護衛にも父にも見つかったと言いながらブローチを見せると、2人とも喜んでくれた。


 ビアンカはこれで邪魔なエリーゼを殺す事ができると同時に、自分を冷たくあしらい、惨めな結婚生活を送らせようとしているアルフォンスにも復讐する事ができると思い嬉しくなった。


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