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 アルフォンスの婚約者として認められたかっただけなのに、謹慎させられる事になったビアンカは、このままでは、この先結婚しても、正妃に迎えられるのはエリーゼで、自分は冷遇され、もしかしたら殺されてしまうかも知れないと思うようになった。


(こうなったら、殺される前に殺さなくちゃ)

 

 何でもしてくれる男にエリーゼを殺してもらおうと考えたが、王宮にいては依頼をしに行く事もできない。

 ビアンカは実家に帰るためにアルフォンスにしばらくの間実家に戻り、今までの事を考えたいと話した。

 するとアルフォンスもそれも良いかもしれないと言って、ビアンカに王宮の護衛を1人付けると、実家に戻る事を許可してくれた。


 ビアンカは、荷物をまとめると、侍女達にしばらく実家に戻る事を告げて、護衛を伴い伯爵家となった実家に帰って行った。

 ビアンカの実家は男爵家だったが、王族と親戚になる事から領地は増えないままで、伯爵家へと陞爵していた。


 幼い頃に母親を亡くしたビアンカを男手ひとつで大切に育てた伯爵は、娘が王子の婚約者になった事は何よりの自慢だったが、その事でお金に困るようになってしまった。

 王家に嫁ぐ時は持参金の必要もなく、準備は全て王室の予算で賄う事になっているので伯爵家の負担はなかった。

 だが普通に暮らすだけでも男爵家の時よりはお金が必要になってしまった上に、ビアンカが「王子の婚約者なのだから」と言っては新しいドレスや宝飾品を欲しがり、買ってきてしまう。

 その度に請求される金額を見て、伯爵は頭を抱えていた。

 だが、ビアンカがアルフォンスと結婚して王太子妃になれば、王太子妃の実家として、毎年相応の金額を受け取る事ができる。

 伯爵は後2年の我慢だと思い、数人しかいなかった使用人に頭を下げて、新しい勤め先を紹介すると、どうしても残ると言ってくれた執事の他は、必要な時だけ日雇いで来てもらうことにして、ビアンカのためにした借金を返していく事にした。


 平民になる事を考えて育てられたビアンカは、男爵令嬢としての教育しか受けていなかった。

 必要な教育を受けるための時間が足りない事から、ビアンカは王宮内で暮らす事になったと聞いた時、伯爵はこれでビアンカは浪費出来なくなると喜んで送り出した。


 そのビアンカが、王宮での花嫁修業の最中に実家に戻るとすぐに自室に入ってしまった。

 伯爵は何があったのかと心配でたまらず、ビアンカの好きなお菓子を揃えるとお茶に誘う事にした。


 伯爵家に帰ったビアンカには実家にある物全てがガラクタのように見えた。

 建物そのものもそうだが、王宮内は全て最高の物が使われており、何もかもが素晴らしかった。

 特に王族の居住区は王宮内よりももっと素晴らしくて、見た事のない物で溢れていた。


(それに比べてこの家はなんてみすぼらしいのかしら。私には相応しくないわ)


 自分に相応しい場所に帰るには邪魔者を何とかするしかない。

 ビアンカは、エリーゼさえいなければ全部上手くいくのにと思い、自分が苦労しなければならないのも全部エリーゼのせいだと思うようになっていた。

 男に頼むにはどうすれば良いか思い出していると、執事が部屋の扉を叩いて言った。


「お嬢様、当主様が一緒にお茶を飲もうと仰っています」


 自分に甘い父の事だ、お菓子もたくさん準備して待っているだろう。


「すぐ行くわ」


 ビアンカは久しぶりに父とお茶が飲めると喜んで居間に向かった。


 思った通り、居間のテーブルの上にはビアンカの好きなお菓子が並んでいる。

 ビアンカは、優しそうに微笑む伯爵の前に座ると


「お父様、急に帰ってきてごめんなさい」


 と謝った。


「ここはビアンカの家なんだからいつ帰ってきても良いが、何かあったのなら話して欲しい」


 父の優しい言葉を聞いてビアンカは、手にしたティーカップを置くと悲しそうな顔をして話し始めた。


「実は、王様とのお茶会に行った時、王様の気に触る事をしてしまってアルフォンス様から謹慎を命じられてしまったの。でも王宮には私を大事にしてくれる人はいない。私を大事にしてくれるのは御父様だけなのよ。だから私、実家に帰って反省しますから帰してくださいってお願いしたの。そうしたら、アルフォンス様が帰る事を許してくださったのよ」


「そうだったのか。それは大変だったね」


「そうなの、やっぱりお父様は分かってくれるのね。王宮内はどこへ行っても私の味方はいないわ。私がエリーゼ様からアルフォンス様を奪ったと思ってるのよ!」


「だが、アルフォンス様が選んだのはエリーゼ様ではなく、ビアンカなのだから、気にする事はないだろう?」


「そうなの。エリーゼ様を嫌って私を婚約者にしたのはアルフォンス様なのよ。それなのに最近はアルフォンス様も私に冷たいのよ」


「ビアンカ、王太子になる前はやらなければならない事がたくさんあるはずだ。アルフォンス様は忙しいだけだよ。来年結婚する事は決まっているのだから何も心配する事はない。

ビアンカも王宮では気を使って大変だろう。せっかく実家に帰ってきたのだから、ゆっくりと休めば良いよ」


「そうよね。御父様ありがとう。そうさせてもらうわね」


 今年の「春の祝宴」は謹慎中に終わってしまい、参加出来なかったが、「秋の祝宴」と来年の「春の祝宴」が終われば次は結婚式だ。

 ビアンカはできるだけ早く男に依頼しなければと考えた。

   

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