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シェルリア王妃という大きな後ろ盾を失ったアルフォンスの言動を非難する者は徐々に増えていき、それは王宮の中だけに留まらず、学園に集う生徒達の態度にも現れ始めた。
王宮内で見る貴族達の冷ややかな視線を感じるだけでなく、以前は話しかければ笑顔で答えてくれた生徒達の態度も変わってくると、苛立つ事が多くなったアルフォンスを避ける生徒はますます増えていった。
側近のアーサーとルークは幼い頃から一緒に過ごしてきたアルフォンスが好きだった。
アルフォンスは2人には偉ぶることもなく、何でも3人で話し合い、分け合ってきた。
勉強は苦手かもしれないがそれは仕方のない事だし、ジェラルド王だってそうだ。
足りない所は他の者が補えば良いだけだ。
特に今は母を亡くしたばかりのアルフォンスのために何かしてあげたいと考えた2人はアルフォンスに言った。
「アルフォンス様、誰が何を言ったとしても、次の王はアルフォンス様なのですから気にする事はありません」
「そうです。それにどんな事があろうが私達はアルフォンス様の味方です」
アルフォンスは2人の言葉が嬉しかった。
「いつも2人には感謝している。ありがとう」
3人は手を握り合い、お互いを絶対に裏切らないと誓い合った。
シェルリア王妃の葬儀も無事に終わり、王宮では主だった貴族達が集まり、今後の事を話し合うために貴族会議が開かれた。
アルフォンスが学園を卒業し国王になるまでの間、ジェラルド王の3人の側近が王宮の職員達と共に王の代理を務め、オランド王国のために力を合わせて頑張ろうと決めていた。
ところが会議に集まった貴族達からは、側近達では納得できず、ジェラルド王には退位してもらい、代理の王を置く事を求める声が強く上がった。
その時、ミルバーン侯爵が代理の王を置きたがる貴族達に問いかけた。
「突然の不幸によりシェルリア王妃を失った事で不安に思う気持ちはよく分かるが、アルフォンス様が卒業するまで2年もないというのに、ジェラルド王の退位を考えるのは早過ぎるのではないか?
アルフォンス様が卒業すれば数年の内には結婚し、王太子になられるだろう。
それぐらいの間なら、側近や王宮の職員がジェラルド王を助ければ何とか出来るはずだ。足りない所は皆で力を合わせて乗り切れば良いではないか。
今代理の王を立てると、余計な火種を撒く事になる。数年の我慢よりも、この国に王座を巡る争いが起こる方を望むというのか?」
代理の王を建てるように強く主張していた貴族達も、侯爵の話を聞いて口を噤んだ。
その会議があってからはアルフォンスを非難する声も徐々に収まって行き、アルフォンスが王太子になるまでの間はジェラルド王の側近達に任せてみようという事になった。
ジェラルド王の側近達はミルバーン侯爵に感謝しつつも、心の中にある黒いモヤの様な物がまた大きくなった事を感じていた。
エリーゼは、アルフォンスからは冷たく追い払われてしまったが、婚約してからずっと王宮で顔を合わせる度に優しく声をかけてくれるジェラルド王が好きだった。
ジェラルド王が妻を亡くしたショックで部屋に閉じこもってしまったと聞いたエリーゼは、王宮を訪れる度にジェラルド王の部屋にシェルリア王妃の好きだった百合の花や、手作りのお菓子を届けに行き、色々な話をする内に、ジェラルド王は少しづつ笑顔を取り戻していった。
*****
エリーゼ達と一緒に学園に入学したウォード男爵家の長女ビアンカは、幼い頃に仲良く遊んでいた友人から男爵家の人とは遊べないと言われた事があった。
その友人は伯爵家の娘だったので、すぐにビアンカも伯爵家の娘になりたいと父に頼んだ時、父がそれは無理だが将来伯爵家の人と結婚すればビアンカも伯爵家の人になれるかも知れないよと言われ、絶対に伯爵家のお嫁さんになろうと思っていた。
オランド王国では国のために大きな働きをした平民に褒美として男爵の地位を与える事が多く、男爵家のほとんどは平民と変わらない生活を送っていた。
褒美と言っても貴族と言うだけで国に納める税金が増える事を嫌がる者もいるため、男爵位だけは返還の自由が認められていた。
貴族という地位を手に入れるために大金を寄付する平民もいれば、何代も続く男爵家でも、平民の方が良いと思えば返還できるのが男爵位の特徴だ。
ウォード家は珍しく領地を持ち、何代も続く男爵家だが、ビアンカが生まれてすぐに妻を亡くしたウォード男爵は、将来、婿を迎えてまで男爵家でいるよりもビアンカには好きな人と結婚してもらい、自分は爵位を返還して平民になっても良いと考えていた。
ウォード家には、小さくても王都に家もありそれなりの財産もある。
ウォード男爵は、領地を返還しても自分1人が暮らすのに困る事はないだろうと考えていた。
そのため娘のビアンカにも平民になっても困らないようにと思い侍女を付けないで育て、5歳になる頃から街に連れて行き、平民の生活を見せるようにしていた。
ビアンカはカフェでケーキを食べるのが大好きで、街へ行くといつも
「お父様、そろそろ疲れたでしょ? カフェでケーキを食べると美味しいのよ」
と言って誘ってくる。
男爵はそれが嬉しくて、街に連れて行ってはビアンカが美味しそうにジュースを飲みながらケーキを食べる姿を見ていた。




