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 アルフォンス達が四阿から離れて行ってからも、しばらくの間動く事もできない程のショックを受けたビアンカは、やっと茂みの中から立ち上がると、私室へ戻って行った。

 アルフォンスは結婚した後で自分を冷遇しようとしているだけでなく、他の男に嫁いでいるエリーゼを正妃として迎えたいと言っていた。


 ビアンカは寝室に鍵をかけると、泣きながら何でこんな事になったのだろうと思い、必死で考えた。

 「春の祝宴」ではアルフォンスの横がビアンカの席になると言っていた。

 その時までには無理でも「秋の祝宴」までにアルフォンスの婚約者として皆に認められれば、結婚した後も必要とされて大事にしてくれるかもしれない。

 

 ビアンカは考えた末、王宮内での評判が良かったエリーゼの真似をする事にした。

 そこで王宮内でエリーゼが何をして評判を上げたのか調べようとしたが、既にビアンカと親しく話をしてくれる者は誰もいない。


 ビアンカは仕方なく王宮の女官長と、侍女長に頼んで来てもらい、今までの事を謝り、新たな侍女を付けてもらった。


「私、これからはエリーゼ様を見習っていこうと思っているのよ。だから教えてちょうだい。王宮でエリーゼ様はどんな事をしていたの?」


「そう言われましても……エリーゼ様はここに来ると私達に挨拶をして、授業を受けられた後はよく図書館へ行かれていました」


「後は庭園を散歩されたり……」


 挨拶も授業も自分と同じだと思ったビアンカは、他にも何かあるだろうと侍女達を問い詰めた。

 すると思い出した侍女が話してくれた。


「そう言えば、エリーゼ様は時々王妃様から呼ばれて一緒にお茶を飲んでいました」


「王妃様が亡くなってからは?」


「王妃様が御亡くなりになってからは、王様の所によく行かれていました」


(それだわ!!エリーゼ様は王様や王妃に気に入られて評判をあげたんだわ。それなら私にもできる)


 ビアンカは嬉しくなって、笑顔で侍女達に礼を言うと、今度はジェラルド王に会いに行くにはどうすれば良いのか聞いてみた。

 侍女からはアルフォンスにお願いすれば良いのではないかと言われたが、アルフォンスには内緒で王と親しくなったところを見せてびっくりさせたいのだと言うと、それなら仲の良い女官に頼んでみますと言ってくれた。


 宮殿は大きく4つの棟に分かれていて、正面中央にあるのが王宮と呼ばれている最も大きな棟で、王宮の左側には騎士の棟、右側には内務の棟がある。

 そして王宮の奥にも棟があり、この棟が王族の居住区になっている。


 ビアンカが婚約者になってから1度もジェラルド王に挨拶をしていない事が気になっていた居住棟の女官長は、ビアンカが王に挨拶したいと言っている事を聞いて、それなら会わせてみようと思いジェラルド王とビアンカのためにお茶会を開く事にした。

 


 お茶会当日になると、ビアンカの侍女が居住区に繋がる廊下まで案内し、そこからは居住区の女官が案内する事になっている。

 王族の護衛にあたる近衛兵が守る門を2つ通り、居住区に入った途端、敷いてある絨毯がふんわりとした物に変わり、廊下の装飾や照明も全て王宮で使われている物とは格が違う事を感じさせた。


「ビアンカ様、本日は中庭にお茶の用意をしております」


 女官に案内されて中庭に用意されたテーブルに行くと、既にジェラルド王は座って待っていた。


「アルフォンス様の婚約者ビアンカと申します……」


 ビアンカの挨拶にジェラルド王は笑顔で「よく来てくれたね」と言ってくれた。


 お茶会が始まった。


 ビアンカが話しかけるとジェラルド王は笑顔で頷いてくれる。

 これなら大丈夫と思ったビアンカは、


「私もエリーゼ様のように王様の部屋に行っても良いでしょうか?」


 と聞いてみた。

 するとジェラルド王はビアンカに何も言わず、控えている女官に、絵を見せて欲しいと頼んだ。

 女官は側に置いてある入れ物から絵の書いてある紙を取り出すと、ジェラルド王に「どうぞ」と言いながら差し出した。

 それは便箋くらいの大きさの紙で、真ん中と周りを囲むように男女の顔と、優しい色を使った花が描かれていた。


 絵を受け取ったジェラルド王は、しばらく黙ったまま嬉しそうに絵を見ていた。


「エリーゼは今度いつ来てくれるのか知っているのかい?」


 ビアンカの話を聞いていなかったのか、ジェラルド王は、急にエリーゼの事を尋ねてきた。

 ビアンカは、ここでもエリーゼかと思うと腹が立って我慢できなかった。 


「知りません! エリーゼ様の事より、私の話を聞いてください。そんな下手な絵ばかり見ていないで、私の事をちゃんと見てください!」


 そう言いながらビアンカは、王がテーブルに置いた絵をサッと取ると思わずグシャリと握ってしまった。


「「「駄目です!!」」」


 見守っていたジェラルド王の侍女や女官達が叫ぶと同時にビアンカは近衛兵に取り押さえられた。

 侍女がビアンカから絵を取り上げて丁寧に皺を伸ばしたが、もう絵は元には戻ることはなかった。


 ジェラルド王は目を見開いてビアンカを見ていたが、受け取った絵を悲しそうに見ながら


「後の事はアルフォンスに任せる。私は部屋に戻らせてくれ」


 と言って部屋へ戻って行った。


 ビアンカはそのまま見た事のない部屋に連れて行かれ、粗末な椅子に座らされたままアルフォンスを待った。

 近衛兵から話を聞いたアルフォンスは、アーサーとルークを連れて、ビアンカが捕らえられている部屋に向かった。


「アルフォンス様!助けてください」


 アルフォンスを見たビアンカは思わずそう言ったが、アルフォンスは何も答えない。


「なぜ王の大切にしている絵を取り上げたのですか?」


 ルークにそう言われて初めて大切な絵だったのだと気付いたビアンカは、


「大切な絵だとは思わなかったのです。ただ、王様に私の話を聞いてもらいたくて、それで……」


「それで父上がエリーゼと一緒に描いた大切な絵を取り上げ、握り潰したというのか?」


「エリーゼ様と……」


 アルフォンスにエリーゼの名前を出されたビアンカは、それ以上何も言えなくなってしまった。


 

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