表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/49

37

 ビアンカが追い出した女官は、トリシアという名の伯爵家の令嬢で、頼りない息子のために父親が選び抜いたアーサーの婚約者だった。

 ビアンカはトリシアがジェラルド王の女官だという事は知らなかったが、「秋の祝宴」で紹介されたにも関わらず、アーサーの婚約者だという事に気が付かなかった。


 トリシアはアーサーより3つ歳上で、13歳の時から王宮に上がり、シェルリア王妃付きの見習い侍女として勤め始め、学園には王宮から通い、卒業してからは王妃付きの女官になったので、エリーゼの事はよく知っていた。


 シェルリア王妃が亡くなった時、エリーゼと一緒にアルフォンスを探した女官の中にトリシアもいて、エリーゼに酷い言葉を投げたアルフォンスを見ていた。


 その後ジェラルド王の女官になったトリシアは、王妃を亡くして落ち込むジェラルド王の部屋を何度も訪れては優しく話しかけ、時には王妃の話をしながら王と一緒に泣いたり、笑ったりしていたエリーゼと、少しづつ笑顔を取り戻していくジェラルド王の姿を見ていた。

 トリシアは、ジェラルド王の部屋でエリーゼと何度も話す機会があり、常に他の人のためにできる事をやってみようと考えるエリーゼを尊敬し、エリーゼ以外の王妃は考えられないと思っていた。


 ところが、アルフォンスはそんなエリーゼを捨てて男爵令嬢を選んでしまった。

 トリシアはアルフォンスに失望し、アルフォンスの側にいるアーサーとルークの事も気に入らなかったが、親同士は勝手にトリシアをアーサーの婚約者にしてしまった。

 仕方なくアーサーとの顔合わせに行ったトリシアは、爽やかな笑顔で話し、トリシアにも周りにも気を配るアーサーを見て、思っていた程悪い人ではないのかも知れないと感じた。


 既にルークにもナタリアという婚約者が決まっていて、アルフォンスの提案で、アーサーとルークとそれぞれの婚約者の5人でお茶会を開いた時、自分達の愚かさを反省し、国のために努力しようとしている3人を見て、トリシアは嬉しくなった。


 その頃のアルフォンスはビアンカに騙されていたと知り、エリーゼを大切にすれば良かったと後悔する毎日を送っていた。

 アーサーとルークには婚約者を大切にするようにと話し、2人もそんなアルフォンスから学んだ事は大きかった。


「私のようになるなよ」


 アルフォンスが寂しそうに言うのを聞いていたアーサーとルークは、それぞれの婚約者を大切に扱い、2人で幸せになろうと優しく話しかけた。

 トリシアもナタリアも最初は親同士の決めた婚約者なのだから形だけの夫婦になっても仕方ないと思っていたが、アーサーとルークは「幸せな家族を作っていこう」と言ってくれた。

 貴族にとって結婚は契約と同じだ。

 だが、良い人と結ばれて幸せになれるならこんな素敵な事はない。

 トリシアはアーサーを、ナタリアはルークを大切にして、幸せになろうと努力するようになり、2組のようすを見たアルフォンスもエリーゼを取り戻したいという気持ちがますます大きくなるばかりだった。

 

 トリシアは「春の祝宴」が終われば、王宮勤めを辞めて実家に戻り結婚の準備に入る事になっている。

 仕事を引き継いで余裕のあるトリシアに、ビアンカを担当する女官が手伝って欲しいと頼んで来た。

 教育のために王宮で暮らしているビアンカは、世話をしてくれている侍女や女官に感謝するどころか、気に入らない事があると「クビだ」と言って部屋から追い払ってしまうので、困っているのだと言う。


 トリシアは早速ビアンカに紅茶を出してきてくれと頼まれて、ビアンカの部屋へ向かった。

 

 初めてビアンカの私室に行ったトリシアは名前を言って挨拶をしたが、ビアンカはトリシアの方を見ようともせずに、ただ「そう、よろしくね」と言っただけだった。

 トリシアは噂通り礼儀を知らない方だと思ったが、仕事だと割り切ることにして、紅茶をテーブルに置くと後ろに控える事にした。


「ねえ、『春の祝宴』で着る私のドレスはどんな色なのかしら?」


 紅茶を飲んでいたビアンカが突然尋ねてきたが、トリシアは何も分からなかったので


 「私には分かりません」と答えた。


 するとビアンカはトリシアの方を向くと、呆れたように言った。


「分からないだなんて、そんな事が許されるはずがないでしょう? 将来この国の王妃になる私が着るドレスの事なのに分からないだなんて貴女もクビよ!2度と私の前に顔を見せないで!」


 トリシアは驚いたが、こんな感じで他の侍女達もクビにされたのかと思いながら部屋を出て歩き始めた。


 すると向こうから、アルフォンスと側近の2人が歩いて来て、トリシアが礼をすると、アルフォンスが「4人で紅茶でも飲まないか?」と声を掛けてきた。

 「喜んで」と答えたトリシアの手を取り、アーサーがエスコートしながら4人は中庭にある四阿でお茶を飲む事にした。


 トリシアを追い出したビアンカが、ドレスの事を相談するためにアルフォンスの執務室に向かって廊下を歩いていると、遠くにアルフォンスが側近達と一緒にいるのが見えたので急いで近付こうとした。

 すると、いつの間にか女官を加えた4人になり、中庭にある四阿の方に向かっていくのが見えた。

 ビアンカは4人で何を話すのだろうと思いながら後をを追いかけて四阿に近付いた時、隠れて話を聞いてやろうと思い、茂みの中に潜ると聞き耳を立てた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ