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 久しぶりに農園に行き、小麦の成長や、大きくなった農園を見て嬉しくなったエリーゼはお菓子作りを再開する事にした。


 エリーゼはキロの1歳の誕生日に果物をのせたケーキを作ってあげたくてトータスに相談すると、ちょうど良い時期に赤くて甘い実をつけるベリーがありますと言って、トータスは大きなベリーの木を何本も買って来てくれた。

 ベリーは水捌けが良くて日が長く当たった方が甘くなるそうで、農場から離れた丘の上に日当たりの良い場所を見つけたトータスがベリーの苗を植えてくれた。


 城の敷地が広大なため、城の皆は馬に乗って敷地を移動する事が多い。

 歩くには遠いベリー畑にエリーゼを案内する時、どうやって連れて行こうかとトータスは考えた。

 悩んだ末、馬には1人で乗った事しかないトータスは、万が一の事があってはならないと思い、エリーゼを馬に乗せ一緒に来てくれないかとロイに頼んだ。

 するとロイが、そんな事をすればフレドリック様に怒られてしまうと言って、フレドリックをトータスの所に連れて来てしまった。


 トータスもエリーゼもベリーを見に行くだけなのにフレドリックに来てもらい申し訳ないと思ったが、フレドリックはロイに礼を言うと、当たり前のようにエリーゼを自分の馬に乗せてトータスに案内を頼むと、一緒にベリー畑に向かった。


 その日からフレドリックは、エリーゼを誘っては2人で馬に乗るようになり、エリーゼを前に乗せ、落ちないようにと抱き寄せたフレドリックが、馬を歩かせながら愛おしそうに腕の中のエリーゼを見つめる姿を見た使用人や騎士達は、ほんとうに良かったと思いつつ、いつも厳しい顔をしているフレドリックの変わりように驚いた。


 エリーゼが1人でも馬に乗れる事を知っていたフレドリックは、他の者と一緒に乗られるくらいならと思い、エリーゼに馬をプレゼントする事にした。

 エリーゼにプレゼントされた馬は額に白い雲のような模様のある「ポップ」という名の大人しい牝馬で、エリーゼはポップに乗ってベリー畑に行く事が多かった。


 ベリー畑は夕日の見える丘の上にあり、歩いて登るには辛い坂だが、馬ならあっという間に登る事ができる。

 夕日が見える時にベリー畑の端に立つと、下に見える草原から吹き上がってくる気持ち良い風を感じながら、城壁はあるが、それでも自然が溢れる敷地の中や遠くに連なる山々を一望する事ができる。


(あの壁さえなければ、この景色がもっと美しく見えるのに……)


 エリーゼは、この丘に立つ度に、いつか必ず壁がなくても安心して暮らせる領地にしてみせると強く思った。


 

*****



 アルフォンスの卒業から1年経ち、王宮では職員達が「春の祝宴」の準備に追われていた。


 アルフォンスとの結婚が正式に発表されてからのビアンカは、自分は既に王族と同じだと勘違いしていた。


 ビアンカが初めて参加した昨年の「春の祝宴」では、父にエスコートされてジェラルド王の前で挨拶をした。



 「秋の祝宴」の時は既に王宮で暮らすようになっており、結婚する事も公表されていたにも関わらず、パーティの行われる会場までエスコートしてくれたアルフォンスはすぐにいなくなり、多くの貴族と一緒に段の上に立つアルフォンスを見ているだけだった。


 ジェラルド王に代わり、アルフォンスがその年に褒章を受ける人達を発表した後で、ルークの父が息子達を呼んだ。

 アーサーとルークがそれぞれの婚約者と並んで段のすぐ下に立ち、正式にアルフォンスの側近になる事が発表されると同時に2人の婚約者の披露も行われた。

 アーサーとルークの婚約者が紹介されると、すぐにダンスの曲が流れ始めた。

 ビアンカはすぐにアルフォンスも自分の手を取りに来てくれると信じていたが、アーサーとルークがそれぞれの婚約者とのダンスを終えたのを合図に、皆も踊り始めた。

 しばらくしてからやっと来てくれたアルフォンスは、


「申し訳ないが、まだ挨拶を受けなければならないから先に帰っていてくれ」


 と言うとまた挨拶を待つ人達の所へ行ってしまったので、護衛に促されたビアンカは仕方なく私室に戻るしかなかった。


 だがもうすぐ開催される今年の「春の祝宴」は今までとは違い、自分も段の上に座ると思い込んでいたビアンカは、祝宴で着るドレスの事が気になり、私室で紅茶を飲みながら部屋にいた女官に「春の祝宴」で着るドレスの事を尋ねた。

 すると女官は、ビアンカのドレスについては何も知らないと答えた。

 ビアンカは、自分に意見したり、生意気な事を言う侍女を片っ端からクビにしていたので、その女官がいつもいる女官とは違う事にも気付かず怒りに任せて怒鳴るように言った。


「貴女、分からないなんてそんな事が許されるはずがないでしょう? この国の王妃になる私が着るドレスの事なのよ。それなのに分からないだなんて、貴女もクビよ!

2度と私の前に顔を見せないで!!」


 女官が驚いた顔で部屋を出て行くと、ビアンカはドレスの事をアルフォンスに相談してみようと思い付き、鏡の前で化粧を直すと部屋を出て執務室に向かった。



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