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新しい年になりしばらくするとミリが城にキロを連れて帰って来た。
城の皆でキロのお祝いをして、フレドリックとエリーゼはキロには洋服を、グラムとミリにはキロのための家具をプレゼントした。
キロがいるだけで城の中は明るくなり、皆が優しい気持ちになれる。
エリーゼもリーシャもミリができるだけキロと過ごせるようにと思い、ミリの仕事をさり気なく手伝うようにしていた。
クリシアム辺境伯領地は冬でも雪が降るほど寒くならないため、育つ野菜もある。
だが、エリーゼが忙し過ぎると判断した騎士達が農園は任せて欲しいと言ってくれて、エリーゼは毎日午前中はミリの手伝いをした後、グラムに勉強を見てもらい、午後は『魔獣』の研究を続ける事ができた。
そのうち、3種類の木の実を潰した水を与えていた『魔獣』だけが少しづつ大人しくなり、続ける内に普通に戻る獣も現れ始めた。
皆にもその事を報告し、効果が見られた3種類の木の実だけを使って、どの木の実が最も効果があるのかを調べる事にした。
1ヶ月試してみたが、3種類のどの木の実にも同じような効果があり、最も効果がある木の実を特定する事は難しかった。
そこで3種類を合わせた水を飲ませてみると、1種類の時よりも体調を崩す事が少ないまま普通の獣に戻る獣が多い事が分かった。
その事はすぐに皆に伝えられ、城の敷地の中に3種類の木を植えようという事になった。
早速フレドリックと騎士達が木を探しに行くと、今まで気が付かなかっただけで、この3種類の木は領地のあちこちにたくさん生えている事が分かったので、運び易い若木を選んで城の敷地に移植する事にした。
木の実は思っていたよりも豊富にあるし、『魔獣化』した獣を治す方法は見つかった。
次は『悪魔の森』を調べる番だと考えたエリーゼはフレドリックに自分を『悪魔の森』に連れて行って欲しいと頼んだ。
ところがフレドリックは厳しい表情で「それはできない」と言った。
「木の実を集める時も、『魔獣』に襲われる事があるので騎士達は集める係と、警戒する係に分かれて採取しているんだ。私達もまだ『悪魔の森』の中の木の実を採取して来た事はない。あの森の中の事はまだ半分くらいしか分かっていないんだ。
そんな所にエリーゼを連れて行って万が一の事があれば私はもう生きていけない……」
「……分かりました。では『悪魔の森』以外の場所で『魔獣』が減ってきたと感じられたなら許可してもらえますか?」
フレドリックはしばらく考えた後、ロイが頷いたのを見てやっと口を開いた。
「……分かった。許可するよ。ロイが騎士達からの報告を受けて明らかに『魔獣』が減って来たと判断したら、私が調べた後でエリーゼを『悪魔の森』に連れて行く事にしよう」
「ありがとうごさいます!」
エリーゼは喜んで「団子作戦」を始める事にした。
まずはリーシャに頼んで古いシーツや布を出してもらい細く切って紐を作り、次に3種類の木の実を混ぜて葉っぱに包んだ「木の実団子」を作ると、ロイの所に持って行った。
「この紐と木の実を包んで作った『木の実団子』を城壁の外に行く時、騎士達にたくさん持たせて欲しいんです。 水場を見つけたら水場の大きさに合わせて、5個、10個、必要だと思えば何個でも良いので『木の実団子』を葉っぱごと握り、木の実を潰してから水場に投げ入れてもらいたいんです。そして『木の実団子』を投げ入れた水場の周りにある木に紐を結び付けて、この水場には既に団子を投げ入れてあるという目印にしてください」
ロイは成程と感心し、まずは獣達が水を飲んでいるような所を選んでやってみますと言ってくれた。
それから皆で協力して紐と「木の実」団子を作り、城壁の外へ出る時は持っていく事になった。
ある日マイケルがエリーゼの所に相談があると言って来た。
「実は木の実団子作りを妻のケイトも手伝いたいと言ってるんだがどうだろう?
ケイトが言うには、自分の他にも手伝いたいと言っている奥さん達がいるから、まずは、自分が城に行って作り方を見てみたいと言うんだ。騎士達から聞いた者もいるようで、城下町でも、奥様が『魔獣』を普通の獣に戻す方法を見つけたらしいと噂になっている。皆、奥様の手伝いがしたいんだよ」
エリーゼは喜んでぜひ来てくださいとお願いして、夜、フレドリックにマイケルの妻が来る話を伝えた。
エリーゼは城下町の人達に手伝ってもらうなら、木の実団子10個で幾らという形で賃金を払いたいのだがどうだろうかとフレドリックに相談した。
フレドリックはエリーゼの提案を、良い考えだと言って賛成してくれて、こどものお小遣い程度の金額だが、支払う事になった。
翌日、マイケルの妻ケイトが城に来てくれた。
ケイトはとても40代には見えない程若々しく気さくな女性で、娘のエマが結婚してから時間を持て余すようになったので「木の実団子」作りをぜひやりたいと言ってくれた。
フレドリックと相談して決めた賃金を「安くて申し訳ないのですが……」と言いながら告げたエリーゼに、領地の役に立つ事でお金ももらえるなんてこんな有り難い事はないと言って喜んで引き受けてくれた。
木の実団子の作り方は簡単で、ケイトは
これならこども達にも出来そうだから孤児院でも作ってもらってはどうかと提案してくれて、ケイトが声をかけてくれる事になった。
「町の事は任せておいて! 近所の奥さんにも教えて作ってもらうからたくさん持って行くわね」
そう言いながらマイケルと一緒にたくさんの木の実と包む葉っぱを馬車に乗せてケイトは城下町に帰って行った。
木の実団子は町のこども達も喜んで作ってくれるようになり、飼育していた獣も穏やかになって、全て森に帰された頃には、グラムとの勉強も後は実際にやりながら覚えましょうという段階になり、エリーゼにも自分の時間が持てるようになった。




