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エリーゼとフレドリックはお互いの気持ちを確認してからは、できるだけ一緒に過ごすようにしていた。
フレドリックはグラムにも、ミリと離れて暮らすのは良くないと言って、一緒に城下町へ行く事を勧め、グラムはミリの実家から毎日城に通い始めた。
ローズは隣国から帰ってくると、早速フレドリックとエリーゼのところに宝石を持って来てくれて、2人の仲睦まじいようすを見て、涙を流して喜んでくれた。
フレドリックとエリーゼはそれぞれの瞳の色の小さな宝石を選ぶと、結婚指輪を作る事にして、それとは別にフレドリックはエリーゼに贈りたいと言って、エメラルドで作ったネックレスとピアスのセットをローズに注文した。
ミリのお産も無事に終わり、男の子が産まれ、キロと名付けたとグラムが報告に来てくれた。
フレドリックがグラムに、まだしばらくの間はミリの側にいてやれと言うと、グラムは嬉しそうに笑いながら
「ミリには義母が付いていてくれるから大丈夫です。それよりもそろそろ奥様に辺境伯家の財産管理を任せたいと思っているのですが、いかがでしょう?」
と言われ、了承したフレドリックとグラムから辺境伯家の帳簿を見せてもらったエリーゼは、資金の多さに驚いた。
エリーゼはこれなら大丈夫だろうと思い、フレドリックが1人で執務室にいる時に、農園に必要な経費や自分の作るお菓子の材料費を家のお金から出してもらっても良いか相談しに行った。
するとフレドリックは驚いて、今までどうやって農具やお菓子の材料を買っていたのか尋ねられ、ドレスを売った事を話した。
すると大きなため息を吐いたフレドリックは申し訳なさそうに言った。
「すまない。以前ローズから、エリーゼが侯爵家から持って来たドレスを商人に買ってもらっているようだと聞いた時、ここを出るために荷物を減らしているんじゃないかと言われて怖くて聞けないままだった。皆のために色々してくれたエリーゼにそんな苦労をさせてしまっていたなんて、私の落ち度だ。
農園や料理に使う費用はもちろん家の経費にしてくれて良いが、エリーゼが欲しい物を自由に買うためのお金の事を言い忘れていた。今まで困る事もあっただろう?
エリーゼには多額の持参金もあるし、毎月辺境伯夫人に支払われているお金もある。その事も説明していなくてすまなかった」
フレドリックがグラムを呼んで何か話すとグラムも驚いて別の帳簿を持って来てくれた。
帳簿を一緒に見ながら聞いたフレドリックの説明によると、辺境伯家の財産とは別に、エリーゼには個人財産があり、グラムの持って来てくれた帳簿はエリーゼの個人財産の帳簿だった。
エリーゼにはここに嫁いで来た時に侯爵家から持って来た持参金があり、その上この城に来てからずっと辺境伯夫人としての品格保持費、いわゆるお小遣いが毎月支払われており、使われる事がなかった個人財産は相当な金額になっていた。
「苦労させてすまなかった」
フレドリックは申し訳なさそうに言うと、エリーゼを子犬のような表情で見つめながら聞いて来た。
「このお金はエリーゼの個人財産だ。これだけあればここを出ても生涯困る事はないだろう。……私はエリーゼを傷付けたばかりでなく、大切な持ち物を売る程の苦労をさせてしまった。……もう私の事など嫌いになってしまったか?」
せつない表情を向けるフレドリックを愛おしいと感じたエリーゼは、立ち上がると向かいに座っているフレドリックの横に腰掛けて
「大好きです」
と耳元で囁くとそっと頬に口付けた。
フレドリックはエリーゼからの初めてのキスに嬉しくてたまらず、そのままエリーゼを抱きしめると熱い口付けをしようとした時、扉を叩く音と同時に「グラムです」の声が聞こえた。
慌てて離れて「どうぞ」と言った後、部屋に入ってきたグラムは2人を見て、これからは気を付けなければと思った。
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エリーゼは調べた事とジャックから聞いた話から思い付いた『悪魔の森』と『魔獣』についての考えをまとめた報告書を作ると、まずはフレドリックとロイに話す事にした。
執務室でフレドリックとロイの前に座ると、間違っているかも知れないのですがと前置きしてから次のように考えている事を伝えた。
まずは『悪魔の森』についてだが、ジャックからドラゴンの体内には毒があったと聞いている。
昔、勇者によって追い詰められたドラゴンは山の中に閉じ込められて死んでしまったが、およそ300年前に起こった地震の時に山に亀裂ができ、『悪魔の森』の中にある水場にドラゴンの毒が流れ込んだ。
その水場の水を飲んだ獣が毒により凶暴な『魔獣』になったと考えている事。
そして『魔獣』についてだが、ドラゴンの毒が混ざった水を飲んだ獣が『魔獣化』すると考えられるが『魔獣化』した鳥がいない事と、草食獣に『魔獣化』する獣が少ない事から、彼らの食べる植物の中に毒を中和する何かが含まれていると考えている事。
エリーゼはこの2つの考えは自分の憶測によるところが大きいけれど、試してみたいから協力して欲しいと頼んだ。
それを聞いたフレドリックとロイは、まずはやってみようと言うと早速騎士達と一緒にたくさんの檻を作ると討伐に行く度に『魔獣』を何匹も捕獲して、城の敷地で飼うことにした。
『魔獣』の世話をする騎士も決めて、エリーゼの指導の下、木の実や草を潰して水に混ぜ、1匹づつ檻に入れられた『魔獣』に、それぞれ違う植物を混ぜた水を飲ませた。
肉食の獣でも水に混ぜれば仕方なく飲んでくれる。
エリーゼはフレドリックや騎士達に助けてもらいながら『魔獣』の観察を続けた。




