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 アルフォンスの父、オランド王国の国王ジェラルドは、生まれてから3歳を過ぎても言葉がなかなか出てこなかった。

 他のこどもよりゆっくりと成長し、優しい少年だったジェラルドは、王になっても優し過ぎて国を治めるには向いておらず、実際に国を動かしているのは王妃のシェルリアだった。


 ジェラルドの母である前の王妃も、ジェラルドが国王としての勤めを果たすのは難しいと分かっていたが、何としてでも自分の息子であるジェラルドを王にしたいと考えた。

 そのために王妃はジェラルドが幼い時から自分に逆らわない者で周りを固め、王の力が足りない処は他の者が補うのが当然だと主張した。

 そして多くの令嬢の中からジェラルドの代わりを務めさせるために選ばれたのが伯爵家の長女シェルリアだった。


 ジェラルドはすぐにシェルリアが大好きになり、母に言われた通り、何事においてもシェルリアの指示に従うようになった。

 シェルリアも少し頼りないが純粋で思いやりのあるジェラルドの事を好きになっていき、2人の間に生まれた王子にアルフォンスという名前を付けて大切に育てた。


 アルフォンスが10歳の時だった。

 その日、シェルリアは隣国との貿易について意見を聞くためにミルバーン侯爵を王宮に招いていた。


 シェルリアが少し遅れて侯爵の待つ応接室に行くと、そこには侯爵だけでなく、娘のエリーゼが待っていた。

 侯爵は、シェルリアにエリーゼを紹介すると


「娘が王宮図書館で本を読みたいと言うので連れてきたのです。話し合いの邪魔はしませんのでお許しください」


 と言って、挨拶を済ませたエリーゼを図書館に行かせた。


 帰り際に挨拶に来たエリーゼにシェルリアが、どんな本を読んだのかと尋ねると、エリーゼは地図を見たり、歴史の本を読んでいた。


 アルフォンスの反抗に疲れていたシェルリアは、エリーゼならば必ずアルフォンスの力になれると思い、すぐにエリーゼの事を調べさせた。

 すると、賢いだけでなく、使用人にも偉そうに振る舞う事がないエリーゼを気に入ったシェルリアは、ミルバーン侯爵家にエリーゼとアルフォンスとの婚約を申し入れた。


 侯爵は申し入れを断ろうとしていたが、それを察したシェルリアは侯爵を自室に招いてまでエリーゼが欲しいと頼み込んだ。

 結局、王妃からの頼みを断る事が出来なくて、侯爵はエリーゼとアルフォンス王子との婚約を承諾したのだった。


 ジェラルド王には幼い時に母が選んだ側近が3人いた。

 3人共ジェラルドを馬鹿にせず、思いやりのある所を見込んで選ばれたお友達だった。

 だが成長するに連れてそれぞれの家の思惑を継ぎ、ジェラルドが王になった時には自分達が思うままに国を動かせると思い込んでいた。


 ところが実際にジェラルドが王になると、後から来て王妃となったシェルリアが全ての権力を握り、自分達の立場が変わる事はなかった。


 シェルリアが妊娠したと知った時は、3人共同じ歳の子を作り、今度こそ権力を握ろうと考えた。

 3人の内2人の妻は妊娠し、アルフォンスと同じ年に生まれたが、2人とも男の子だったため、王妃に頼み込んでアルフォンスの友人にしてもらい、これで望みが繋がったと喜んだ。


 シェルリアは困った時、ジェラルドの側近達よりもミルバーン侯爵を頼りにする事が多かった。

 確かに家柄も良く、財力もあるミルバーン侯爵の力は強かったが、国王の側近である自分達よりも重用される侯爵の事を不満に思っていた側近達は、結局、シェルリアのひと言でアルフォンスの婚約者がエリーゼに決まった事で、ますます侯爵を疎ましく感じるようになっていた。




 アルフォンスが学園に入学し、2年生の時、シェルリア王妃の乗った馬車が激しい雨の中、川に転落し、王妃はそのまま帰らぬ人となってしまった。

 愛する妻を突然失ったジェラルドは、泣いてばかりで私室から出られなくなってしまった。


 名ばかりの婚約者でも、突然母を失ったアルフォンスの為に何かしたいと考えたエリーゼが父と共に王宮に駆け付けると、広間にはシェルリア王妃が亡くなった事を聞いて不安を感じた貴族達が集まり始めていた。

 すぐに父は、王宮に来た貴族達に対応するジェラルド王の側近の手伝いを始めた。

 それを見たエリーゼが自分も何かしなければと思っていると、王宮に来た時にいつも世話をしてくれる女官が近付いてきて、一緒にアルフォンスを探してくれないかと頼んで来た。


 多くの貴族達がこれからの事を不安に思い宮殿に集まる中、王子であるアルフォンスが威厳を持った姿を見せる事が重要だ。

 誰もがそう思う中、普段は許可された者しか入れない王族専用の庭で側近2人と話しているアルフォンスを見つけたエリーゼと女官達は、すぐに皆の所に行ってくださいと強く頼んだ。

 ところが、エリーゼの口調が自分を叱る時の母の様だと感じたアルフォンスは、やはりエリーゼは自分をお飾りの王にして実権を握りたいだけの生意気な女だと思い込んだ。


「お前がいるなら戻らない。お前の顔など見たくもない。下がれ」


 アルフォンスはそう言いながらエリーゼを睨み付けた。

 エリーゼは、そこまで嫌われていたのかとショックを受けたが、下がれと言われればそうするしかない。

 後ろで控えている女官に父への伝言を頼むとそのまま侯爵家に帰るしかなかった。


 

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