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(エリーゼと一緒に結婚指輪を選びたい)


 そう考えたフレドリックは言った。


「ぜひお願いしたい。何しろ私は彼女の好みも分からないんだ。だからこれと思うものがあれば見せてくれないか? 私もエリーゼと一緒に結婚指輪を選びたいんだ」


 少し照れた表情のフレドリックを見たローズは、改めて聞いてみた。


「フレドリック様は、奥様の事が嫌いではないのですね?」  


 フレドリックは驚いたが、ローズはエリーゼからそう聞いたのだろうと思った。

 今まで自分は、婚姻の事実に胡座をかいて気持ちを伝える事を先延ばしにしてしまった。

 そのツケが回ってきたのだろう。


「嫌いだなんて、そんな事あるはずがない。初めて会った時から、私はエリーゼに惹かれているんだ。だが今までそれを伝えて来なかったために、エリーゼに話し掛ける事さえ難しくなってしまった。昨日、城の皆にも叱られたばかりなんだ。ローズ、私は彼女なしの人生など考えられないくらいエリーゼを愛しているんだ」


 顔を赤らめながら、それでも目を逸らさずに言うフレドリックを見たローズは、椅子に深く座り直すと安心したように大きく息を吐くと、笑顔で言った。


「フレドリック様と今日お話できてほんとうに良かったです。私は明日からしばらくの間、ガーネシア王国へ宝石の買い付けに行くのですが、奥様の事が気の毒で……。他国ならこの国の法など関係ありませんでしょう? ですから、奥様を引き受けてくださる方を探そうと考えていたところでした。

私がそう考えてしまったのは、奥様がフレドリック様について不満を言っていたとか、そういう事ではないんです。

しばらく前の事なんですが、奥様にも宝石の話をしたんです。すると奥様は、自分には宝石の必要はないだろうからと言って、話を誤魔化したんです。その時の奥様の表情が何か思い詰めているように見えたものですから。

それからはここに来る度に気を付けて見ていたのですが、奥様とフレドリック様が2人で過ごす所を見た事がありません。気になってリーシャに聞いてみたのですが、使用人も心配しているのだと教えてくれただけでした。

ですから、今日指輪の話をしたのは、フレドリック様がもしも結婚指輪も贈る気がないのなら、奥様を幸せにしてくれる方を他国で探しても良いと思っていたからなんです。でもフレドリック様は奥様を愛していると言ってくださった。私は今、嬉しくて仕方ないのです」


 そしてローズは、表情を厳しいものに変えて話を続けた。


「ですが、奥様はフレドリック様との事を誤解して、すでに諦めているように私には感じられます。自分はただ、領民のために何かしたいといつも言って、まるで時間がないと焦っているようなのです。それにフレドリック様は、奥様の部屋の荷物が、ここに来られた時より減っている事に気付いていますか? 城に出入りする商人に聞いたのですが、奥様は御実家から持って来たドレスを商人に買って欲しいと頼んできたそうです。あまりにも素晴らしいドレスなので迷ったのだそうですが、どうしてもお金が欲しいのだと言われ、買い取ったそうです。まさかとは思うのですが、奥様はここを出て行くつもりで、荷物を減らしているんじゃないでしょうか?」


 それを聞いたフレドリックは驚きのあまり持っていたティーカップから零れ落ちた紅茶が白いシャツを染めた事にも気付かなかった。

 ローズが時計を見て、帰る時間を過ぎていた事に気付くと、


「奥様の宝石は必ず準備しますから安心してください。慌ただしくて申し訳ありませんが、今日はこれで失礼します。また隣国から帰ったら挨拶に来ます」


 と言って帰って行った。


 慌てて帰るローズを見送ったグラムが応接室に来ると、フレドリックは零れた紅茶で服を汚したまま座っていた。


(エリーゼが荷物を減らして身軽になり、ここを出ていこうとしているだなんて……それに隣国で彼女の相手を見つけるだなんて、そんな事絶対にさせない)


 ローズの言葉に衝撃を受けたフレドリックはグラムに呼ばれるとやっとローズが帰った事に気付いた。


 何か行動を起こさなければ手遅れになりそうな気がしたフレドリックは、服を着替えるとエリーゼのところに行こうとしたが、昨日グラムに「奥様の作った畑にぜひ行ってみてください。きっとびっくりすると思いますよ。それに奥様との話題も増えるはずです」と言われた事を思い出し、上着を着ると畑を見に行く事にした。


 フレドリックは裏口の警備をしている騎士に場所を聞くと、畑に向かって歩き始めた。



*****


 その日エリーゼは、朝、隣国へ行くためしばらく来れなくなる事を知らせに来てくれたローズと話した後、ミリと畑に植えたひまわりの花を見に行こうと約束していた。


 ミリはお産に備え、少し早めに城下町にある実家に帰る事になっている。

 グラムは城で産んで欲しいと思ったが、いざと言う時、跳ね橋を下ろして城下町まで医者を迎えに行き、連れて来るとなると時間がかかるだろう。

 それよりも城下町にある実家にいれば安心だとミリの母親から言われたグラムは、頷くしかなかった。


 実家に帰る前に、大きく咲いたひまわりの花をミリに見てもらいたいと思ったエリーゼは、ひまわり畑の側でお昼を食べようと考えた。

 エリーゼは、サンドイッチとお茶、そしてローズからもらったお菓子を入れた籠を持ってミリを迎えに行った。

 

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