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フレドリックとマイケルの同意を確認してグラムは話を続けた。
「ところでフレドリック様が最近の奥様の事をどれくらいご存知なのか確認させてください。
フレドリック様、最近トータスの作る料理が少し変わったと思いませんか?」
「……変わった?……トータスの作る料理が変わった……」
「分かりませんか? 野菜料理が増えたでしょう? それも新鮮な野菜を使った料理です」
それを聞いてマイケルが言った。
「それは凄いな。この領地で新鮮な野菜を食べられるなんて、さすがは領主様だ」
「買っているわけではないんです。奥様が騎士達と一緒に城の敷地に畑を作って野菜を育てているおかげで、新鮮な野菜料理が食べられるようになったんです」
フレドリックもマイケルも驚いた。
「エリーゼが野菜を作っているのか?」
「ミルバーン侯爵家の令嬢が?」
「そうです。それだけではありません。奥様は領地に住んでいる獣や植物の事も調べています。特に植物について詳しく調べているようで、騎士達も協力して植物を持ち帰って奥様に届けています。
それにトータスに聞いて私も確認したのですが、寮に住んでいる騎士達が奥様の畑仕事を手伝っています。奥様は手伝ってくれたお礼にと、手作りのお菓子を渡しているのですが、そのお菓子が美味しいと評判になり、手伝う騎士が増えて今では立派な農園が広がっていますよ。
私もミリと一緒にお菓子を頂いた事があるのですが、奥様の作るお菓子はクリームが挟んであったり、フワフワしていたり、どれもとても美味しかったです」
「そう言えば先日奥様から領地の地図を見ながら鳥の事を聞かれた時にお菓子を頂いたが、あれは奥様の手作りだったのか!てっきりトータスが作ったお菓子だと思って食べたが、とても美味しかった」
マイケルまでエリーゼのお菓子を食べた事があると聞いてフレドリックは悔しくなった。
「私もエリーゼの手伝いをしてお菓子をもらう事にするよ」
「そうです。フレドリック様も奥様の手伝いをするのも良いかもしれませんね。少しの間くらい領地の仕事はマイケルが何とかしてくれるはずです」
マイケルはエリーゼがいなくなってしまった時のフレドリックの落ち込んだ姿など見たくないが、落ち込むのはここにいる皆も同じだろうと思った。
エリーゼはもうこの城になくてはならない大事な人間なのだ。
「大丈夫だ。グラムもロイもいる。何かあれば言うから、それまでは奥様との事を優先してくれ」
マイケルにそう言われたフレドリックは、夕食の席でエリーゼに話し掛けようとしたが、エリーゼはお腹の大きくなったミリを気遣い、忙しそうにしていて話し掛けるきっかけが掴めなかった。
翌日のお昼前、ローズが応接室で待っているとフレドリックが来て言った。
「ローズ、久しぶりだな。いつもエリーゼのために城に来てくれてありがとう」
ローズも挨拶を終えるとすぐに話し始めた。
「ところで、フレドリック様は、奥様の事をどう思われているのですか?」
「どうと言われても、妻と思っているが……ローズ、言いたい事があるなら言ってくれ。私はそういう事が苦手で言ってくれないと分からないと思うんだ」
「奥様の指輪の事です。奥様は結婚指輪もしていないようですが、なぜなんでしょう?」
フレドリックは、初めて自分が何ひとつエリーゼにプレゼントを贈った事がない事に気付いた。
「私が……エリーゼに結婚指輪を贈っていないからだ。情けない話だが、今ローズに言われるまで、その事にさえ全く気付いていなかった」
それを聞いたローズは身を乗り出すようにして話し始めた。
「実は今、ふだんよりも上等な宝石が欲しいというお客さんが増えているんです。理由は、この国の王子の結婚です。アルフォンス王子の結婚式が2年後に決まってからというもの、上等な物しか身に付けない高位貴族の方達からの注文も増えているんです。宝石も上等な物になれば、原石から準備します。そろそろどんなものが欲しいか考えて、良い石があればすぐに買わなければ間に合いません。特に粒を揃えなければならないネックレスを作ろうとすれば、もう間に合うかどうかギリギリになってきます。
フレドリック様、結婚指輪だけでなく、そろそろ奥様の宝飾品を揃えた方が良いと思うのですが、どうでしょう?」
フレドリックは、
(なるほど、結婚式か……私は婚約指輪だけでなく、エリーゼとの結婚式の事も考えていなかったな)
なんてダメな夫なんだろうかとフレドリックは自分が情けなくて仕方なかった。




