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 フレドリックとマイケルが話していると、扉を叩く音がしてグラムが入って来た。


「フレドリック様、ローズが明日の朝奥様のところに挨拶に来るのですが、その後でフレドリック様にお話したい事があるそうです」


「分かった。しかし、ローズが話をしたいだなんて何かあったのかな」


「多分、奥様の事でしょうね。私達でさえイライラするのですから、世話好きのローズの事です。フレドリック様に色々と言いたい事がたまり、我慢できなくなったのでしょう。

ところでフレドリック様はいつまでこの隣の部屋で寝るつもりなんですか? そろそろ隣りの部屋に鍵を掛けようかとミリも言っています。何で素直になれないんでしょうね?」


 それを聞いてマイケルも言った。


「やはりグラムは知っていたんだな。それにしてもここの隣で寝泊まりしていたとは呆れた話だ。

フレドリック、この城の常識は普通の貴族には通用しない事ばかりだと言っただろう?

特に奥様には何もかもが大変な事ばかりだっただろうに笑顔で受け入れてくれている。それがどんなに凄い事なのか分からないのか?

このままの状態が続けば奥様はこの城を出て行ってしまうかも知れないぞ」


「私もそう思います。奥様のように素晴らしい方は2度と現れないでしょう。でも奥様はフレドリック様に嫌われていると思い込んでいるようですし、マイケルの言う通り、この城から出ていく日も近いかも知れません」


 それを聞いてフレドリックは驚いた。


「なぜだ?なぜ私に嫌われているだなんて思えるんだ?」


「本当に分からないのですか?

ここに来て何ヶ月も経つというのに夫婦の部屋で1人で過ごされている奥様が、どうやったら部屋にも来ない夫が本当は自分にベタ惚れしているだなんて気付く事ができるんですか?

自分を嫌っているから来ないのだと思うに決まっていますよね。それにフレドリック様は奥様が昼間どのようにして過ごされているかご存知ですか?

用がなければ話しかけて来ないし、知ろうともしない。奥様が嫌われていると勘違いしても仕方ないと思いますよ。幼馴染みの私でさえフレドリック様がここまでヘタレな奴だったとは思ってもいませんでした」


 フレドリックが愕然としたまま何も言えない様子を見たグラムは、小さくため息を吐くとミリから聞いた話をする事にした。


「実は……奥様はここに来られてから1度も寝室を使っていません。どうやら自分の部屋のソファーで寝ているそうです。ミリがその事に気付いて、寝室で休むように勧めたそうなんですが、奥様は『自分にはその資格がないから』と言いながら思い詰めた顔をしていたそうなんです」


 それを聞いたマイケルが驚いて言った。


「資格がないだなんてそんな訳はないだろう。フレドリックと奥様は既に婚姻の手続きも済んでいるし、あの部屋は領主夫妻の部屋だ。例えフレドリックが来なくても辺境伯夫人の奥様が寝室を使うのは当然の事だろう。

グラム、確かに奥様がフレドリックの気持ちを誤解してしまったのは仕方ないとしても、資格がないとまでは思わないだろう。どうして奥様がそんな事を思っているのか奥様の気持ちをミリに聞いてもらう事は出来ないだろうか?」


「う〜ん、そうですね…。ミリに頼んでみるのは構いませんが、そこまで思い詰めている奥様がそう簡単に話してくれるとは思えませんが……」


 グラムは目を閉じたまま右手の人差し指で額をトントンと叩きながら言った。

 これは真剣に何か考えている時にしてしまうグラムの癖だ。


 その様子を見ていたフレドリックが言った。


「いや、エリーゼの気持ちは私が直接聞くことにするよ。そうすべきだし、そうしたいんだ」


「そうか、確かにフレドリックが、直接聞くべき事かも知れないな」


 マイケルがそう言うとグラムは額に当てた指を離しながらフレドリックの方を見て言った。


「自分でなんとかしようとするのは大事な事だと思うのですが、フレドリック様は奥様に何と言って聞くつもりなんですか?」


「つっ、そ、それはこれから考えるつもりだ」


 動揺するフレドリックを見たマイケルが言った。


「そうだな、今までろくに話し掛けても来なかったフレドリックからいきなり『寝室で寝る資格がないと言うのはどういう意味なんだ』と聞かれても奥様も困るだろうからな」


 するとグラムが


「私が思うに、フレドリック様と奥様はまだ知り合ったばかりの状態から1歩も進んでいません。まずは2人で過ごす時間を作っていただいて、親しくなる事から始めてください。最初から寝室の話をするなんて絶対に駄目です。まずは親しくなる事から始めるべきだと思うのですが、御二人はどう思われますか?」


「「その通りだと思う」」

 

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