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 エリーゼが思い出した小説のタイトルは

「国を追われた伯爵令嬢は、ドラゴンの住む村で運命の愛を見つける」というもので、物語は心の優しい伯爵令嬢アイリスが、怪我をしていた青年を助けた所から始まる。


アイリスとその青年はお互いに惹かれ合うようになるのだが、既にアイリスには婚約者がいたため青年は体力が戻るとお礼を言ってどこかへ行ってしまう。

 アイリスには親同士の決めた…たしか……シグルス?…まあ、そんな感じの名前の婚約者がいたが、シグルスは他の女性に夢中になっていく。

 シグルスの浮気相手に無実の罪を着せられたアイリスは、婚約破棄された挙句、国から追い出され、隣国の小さな村で暮らし始めた。

 ところがその村の近くの山にはドラゴンが住んでいて人々を苦しめていた。

 そこに現れた勇者はアイリスを見て、以前に自分を助けてくれた令嬢だと気付き、話をする内に、婚約破棄された事や無実の罪を着せられた事を知ってしまう。

 勇者はドラゴンを倒し、アイリスに自分が王子である事を告白すると同時にプロポーズして、2人は結婚し幸せに暮らした。

 という内容だった。


(という事は……)


 エリーゼは考えた。

 ジャックの話を聞いて、自分がどの小説の世界に生まれ変わったのかは分かったが、エリーゼが生まれたのは、小説の内容には関係なさそうな国の、それもずっと後の時代のようだ。

 小説が終わっても、その世界がずっと続いているなんて思ってもみなかったエリーゼは驚いたが、生まれ変わった以上はこの世界で生きて行くしかない。


 エリーゼが妃教育で習ったシャハール王国は、およそ300年前に建国されたオランド王国の東側の国だが国境は高い山々に阻まれて、北のタサーシャス王国か、南東にあるガーネシア王国を抜けて行くしかないため、あまり関わる事のない国だった。


 だが今最も関心のある国になったシャハール王国の事を調べてみなければとエリーゼは思った。


 数日後、エリーゼがジャックにシャハール王国が建国された時の事について話を聞いてみると、およそ300年前、まだトゥルーシャ王国だった時に起きた大きな地震をきっかけにして、それまで不満を抱えていた貴族達がシャハール侯爵を中心にして反旗を翻した。

 その後シャハール侯爵家が王家となり、シャハール王国を建国したのだと教えてくれた。


 エリーゼは300年前オランド王国でも地震による被害があったのか疑問に思い騎士達に聞いてみたが、誰も地震があった事すら聞いた事がなかった。




 フレドリック達が『悪魔の森』に行ってから1ヶ月後、伝令がフレドリックとロイがもうすぐ帰って来ると城に伝えに来てくれた。

 グラム達はそれを合図に帰ってくる2人のための準備を整えると、玄関のホールに移動して待つ事にした。


 ホールではグラムもマイケルも、『悪魔の森』から帰ったフレドリックを見たエリーゼが、この領地に住む事が怖くなり、逃げ出してしまうのではないかと恐れていた。


 エリーゼが城に来てからもフレドリックは何度も『魔獣』の討伐に出ていたが、いつもその日の内に戻ると汚れた鎧は外してから城の中に入って来るので、あまり気にならなかった。


 だが、今回のように『悪魔の森』に行った時や、討伐に行ったまま何日も帰って来なかった時は鎧の下に着ている服にも『魔獣』の血や体液がベッタリと着いているのが常だ。


 外で騎士達の声がした後扉が開くとフレドリックとロイが入って来た。

 思った通り2人の服や顔にも『魔獣』の血や体液がべっとりと着き、悪臭まで放っている。


 グラムがエリーゼに部屋に戻るように言おうとしたが、それより早くエリーゼは帰って来た2人の側に行くと声を掛けた。


「フレドリック様、ロイ、お帰りなさいませ。2人ともお疲れになったでしょう。お怪我はないですか?」


 皆がフレドリックやロイに付いている汚れを気にする様子がないエリーゼに驚いている中、エリーゼはロイの左腕に血が滲んだ布が巻き付けてあるのを見つけると、すぐに腕を取り、巻き付けてある布を外すと傷を見ながら言った。


「ロイ、怪我をしているではありませんか。血は止まっていますがすぐに傷口を綺麗にしないと化膿するかも知れません。ロイはすぐにお風呂に入ってください」


 ロイはエリーゼに言われ、すぐに風呂に入り、傷を綺麗に洗い流して着替えると自分で手当をする事にした。

 『魔獣』との戦いで怪我をする事が多いため、城にも沢山の薬や布が準備してあり、ロイ達は怪我の治療にも慣れていた。


 ところが治療しようとするロイの側にエリーゼが来て、痛くはないですか?と聞きながら、これは何の薬なの?と確認しつつ手慣れた様子で丁寧に薬を塗ると清潔な布を巻きながら言った。


「腕の治療を自分でするのは難しいでしょうから嫌でなければ治るまで私にさせてください」


 確かに片腕が使えないまま治療をするのは難しい。

 エリーゼは治療に慣れているようだし頼んでも良いだろうと考えたロイは言った。


「ありがとうございます。奥様に治療してもらえるだなんて、こんなありがたい事はありません」


 ロイはエリーゼの優しさが嬉しかった。


 

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