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 ジャックの父が家族を連れてシャハール王国から逃げた頃、国を治めていた王は、息子を亡くし憔悴していたところを寄り添い優しくしてくれた女官に心を奪われ側妃に迎え、寵愛していた。

 側妃のための宮殿を造ったり、言うがままに贅沢をさせたために国の金庫が空になりかけ、それを補うために領主に重税をかけ、倹約する事を強いたのだ。

 その国王の孫にあたる今のシャハール王が側室を調べたところ国王に怪しい薬を飲ませていた事が分かり、ギリギリのところで側妃を糾弾し、その仲間と共に処罰した。

 側妃達を捕まえた時、薬を飲まされていた王は衰弱し、既に孫の顔さえ分からなくなっていたそうだ。

 今の王国は、その事を国民に隠す事なく話し、謝罪した。

 そしてこれからは皆のための国を目指すと約束してくれて、税を下げ、むしろ王族や貴族が贅沢をする事を禁止する法律を作った。


 ジャックがその事を知ったのは、シャハール王国の南にあるガーネシア王国で両親が亡くなり、数年経った頃だった。

 シャハール王国が変わった事を知った弟は国に帰り、ジャックは1人になったのを機に、幼い頃からの夢だった剣を習い始めた。

 ジャックに剣を教えていた老人は、若い頃クリシアム騎士団にいた騎士だった。

 老人はジャックに剣の才能があることを見抜き、クリシアム騎士団の事を教えた。

 ジャックは剣の師匠から自分の故郷の町から山を超えた所がちょうどクリシアム辺境伯領で、そこなら平民でも騎士になれると聞いて師匠に礼を言うと試験を受けに来た。


「合格して騎士になってからも、畑を耕していた頃が忘れられなくて1人で畑を作っていたのですが、今では仲間も増えてこんな立派な農園を作る事ができました。全部奥様のおかげです。ほんとうにありがとうございます」


 エリーゼは自分こそジャックにお礼を言わなければならないと言い、お互いにお礼を言い、笑い合った。

 ジャックは嬉しそうに話し始めた。


「そういえば、『悪魔の森』の奥の山の上には、昔ドラゴンが住んでいたという言い伝えがあるんです。こどもの頃祖父が話してくれたのですが……」 


 昔昔、まだシャハール王国になる前の話。

 山々が連なる中で最も高い山の上にドラゴンが住んでいた。

 ドラゴンは近くの町や村を襲っては家畜だけでなく、人を連れ去ることもあったが、ある日ドラゴンと戦う勇者が現れてドラゴン退治に向かった。

 勇者はドラゴンの住む山の途中まで登ったが、上の方まで登る事はできなかった。

 そこで山の中に潜み、ドラゴンが近くに来るのを待ち伏せる事にした。

 山の上からドラゴンが飛び立ち、麓へと降りて行き、昇って来たところを腹に向けて弓で撃った。

 腹に矢を受けたドラゴンは怒り狂い、勇者のいる場所を探すように何度も羽ばたいたり脚で山を蹴り木々をなぎ倒した。

 ドラゴンが勇者を見つけ飛んで来た時、近付いてくるドラゴンに向かって勇者は矢を放ち、その矢はドラゴンの右眼に刺さった。

 ドラゴンが動きを止めて大きく叫ぶと同時に勇者が撃った次の矢が今度は左眼に刺さった。

 ドラゴンは両眼から血を流し、暴れながら山の上にドズンと降り、その衝撃で山は揺れ、崩落してできた大きな穴に雄叫びを上げながら落ちていった。

 勇者は巻き込まれないように必死で山を降りて麓の村まで行くと、村人達は地響きや、山の方から聞こえた大きな声に驚いて集まっていた。

 話を聞いた人達は喜んで感謝し、勇者は、国王から褒美をもらった。

 そして山の中に閉じ込められて押し潰されたドラゴンは、2度と現れる事はなかった。


 ジャックは話を続けた。


「祖父は男らしい話が好きでしたから、ドラゴン退治の言い伝えしか話してくれなかったのですが、ほんとうは単なるドラゴン退治の話ではなく、隣国から逃げて来た貴族の令嬢と、勇者と名乗っていた王子様との愛の物語なのだと友人が教えてくれました」 


 その話を聞いたエリーゼは、突然霧が晴れたように前世で読んだ小説を思い出した。


「ジャック、そのお話に出てくる貴族の令嬢と、王子様の名前、分かる?」


「たしか、令嬢の名前はアイリス。……王子の名前が……すみません、忘れてしまいました。ですが、村の年寄りは山の方を指しては、あの山の頂上が崩れたような形をしているのは龍が暴れて山が崩れた跡だと言い、あの山に草木が少ないのは中で死んだドラゴンの体から出る毒で植物が生えにくいのだと言っていました。その山の事を私の町では『ドラゴン山』と呼んで、近付いてはならないと言われていたんです。

オランド王国側から見ると分からないかも知れないと思っていたんですが、初めて『悪魔の森』に行った時、ひとつだけ崩れたような形をした山肌の目立つ山があるので、すぐに『ドラゴン山』だと分かりました。私はこの言い伝えはもしかして本当に起こった事なのかも知れないと思う時があるんです。その方が面白いですしね」   


「そうね、でも多分その話はほんとうの事だと思う。ジャックが話してくれたのとほとんど同じ話を私は以前本で読んだ事があるの。シャハール王国との国境になっている山の話だとは知らなかったのだけど、昔昔、その山で勇者とドラゴンは確かに戦ったのよ。おかげで何だかスッキリしたわ。ありがとうジャック」 


 ジャックはエリーゼの言葉を聞いて嬉しそうにお礼を言うと、騎士団の寮に帰って行った。


 ジャックと話している間、エリーゼは沸き起こる喜びが顔に出ないように抑えるのに必死だった。

 部屋に戻ったエリーゼは、嬉しくてたまらなかったが忘れないうちに小説の内容を書いておかなければと机に向かった。

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