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 約束の日になり、フレドリックとエリーゼは馬車に乗り町へ向かった。

 馬車と一緒にロイともう1人の騎士が護衛として馬でついて来る。

 城の門まで来ると連絡を受けていた騎士が跳ね橋を降ろして待っていた。


 跳ね橋を渡り町の大通りの近くで馬車を降りた2人は店が立ち並ぶ人通りの多い通りを歩き始めた。

 すると行き交う人達が次々にフレドリックに声を掛けてくる。


「ここでは領主も騎士も領民も皆、長い間共に『魔獣』と戦ってきた仲間なんだ」


 フレドリックがエリーゼに顔を寄せてそう囁くと、エリーゼは急に近付いてきた緑の瞳にドキリとして頬を染めた。

 その様子を見ていた少し年配の女性が大きな声で楽しそうに尋ねてきた。


「フレドリック様、一緒にいる方はどなたなんですか?」


 フレドリックは少し照れながらも大きな声で答えた。


「結婚したんだ!彼女はエリーゼ、私の妻だ。よろしく頼む」


「「 おめでとうございます!!」」


 領主が結婚した事を聞いた町の人達は歓声を上げながら集まり始めたが、 エリーゼはフレドリックに「妻」と紹介された事を喜んでしまった自分を反省していた。


(ダメよ、フレドリック様は仕方なく妻と言っただけなのだから……)


 あっと思った時にはフレドリックに手を引かれたエリーゼは町の広場へと移動していた。



 広場ではあちこちで楽しい宴会が始まり、誰もがフレドリックとエリーゼに向けてお祝いの言葉をくれた。

 エリーゼもフレドリックと一緒にお礼を言っていると、いつの間にか広場の中央にはダンスする人達の輪が出来始め、それに合わせて楽器の演奏も始まった。

 フレドリックは


「ここではめでたいことがあった時には皆で集まって踊るんだ。エリーゼも踊ろう。簡単な踊りだから皆と同じ様にすれば大丈夫だ」


 と言いながらエリーゼの手を引くと輪の中に入って行った。

 その踊りは皆で手を繋いで輪になり同じステップを繰り返す簡単なダンスだったが、音楽がどんどん早くなったり遅くなったりするのでそれに合わせるのが楽しくて忙しい。

 踊りの輪はやがて2重になりながら何しろ大勢の人が皆、嬉しそうに笑いながら踊っている。

 そんな中で踊るエリーゼもどんどん楽しくなっていった。


 ダンスが終わり、フレドリックが町の人達に御礼を言うと町の人達も笑顔でそれぞれの仕事に戻って行った。


「素敵な所ですね」


 エリーゼが眩しいくらいに美しい笑顔で言うとフレドリックは無言のままエリーゼから目を逸らした。


(……フレドリック様は、私の顔を見るのも嫌なんだわ)


 エリーゼは、妻と呼んでもらえたことを喜んだ自分が酷く惨めに思えて泣きそうになったが、町の人達の前でそんな顔をしてはいけないと思いすぐに笑顔に戻した。


「申し訳ないのですが、そろそろ帰る時間です」


 ロイが申し訳なさそうに言いながらエリーゼを見ると、エリーゼが今にも泣きそうな表情をしていたので驚いていると、すぐにいつもの笑顔に戻った。


 2人が馬車に戻ろうとすると、ロイが、乗ってきた馬車よりも大きな馬車に乗るように促す。

 不思議に思いながらもエリーゼがフレドリックの手を借りて馬車に乗ると、そこには町の人達からのプレゼントが沢山積み込まれていた。


 城に戻ったフレドリックは執務室で仕事を片づけながら町での事を思い出していた。

 町の人達がエリーゼを歓迎してくれた事も嬉しかったが、何よりエリーゼが「素敵な所」だと言ってくれた事が嬉しくてたまらなかった。

 それもあんなに素晴らしい笑顔で…。


「手が止まってるぞ」


 マイケルに言われて慌てるフレドリックにちょうど執務室に来ていたロイが楽しそうに言った。


「フレドリック様、今日の踊りは格別だったな。あんなに楽しそうに踊るフレドリック様を見たのは久しぶりで、奥様もとても楽しそうに踊っていたので皆も喜んでいた。ただ…」


「ただ何だ?」


ロイの言葉にフレドリックが聞いた


「実は、帰る時間ですと声を掛けた時の事なんだが、奥様が今にも泣きそうな顔をしてるように見えたんだ。一瞬だったから見間違いかもしれないが、何だか気になってしまって。だが、ずっと近くで見ていたが、フレドリック様と一緒だった奥様に悲しい事があったようには思えないからやっぱり俺の気のせいだな」


 ロイは難しそうな顔をしてそう言うと騎士団の寮に帰って行った。


 フレドリックはロイの言った事が気になって仕方なかったが、いくら考えてもエリーゼが悲しむような事があったとは思えない。


 仕事を終えてマイケルも帰ると、もう1度考えてやはりロイの気のせいだろうと結論付けたフレドリックは、執務室の隣にある仮眠室の寝台に潜り込むとすぐに眠ってしまった。


 

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