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エリーゼが畑作りを始めてしばらくすると、領主の奥様が始めた趣味に興味を持った騎士達が見に来るようになり、見ている内に手伝ってくれるようになった。
エリーゼは手伝ってくれる騎士達の為にお菓子を作り、畑に持って行く事にした。
「奥様、この畑で何を育てるんですか?」
「まずは枝豆とトウモロコシや人参を植えて、秋になったら小麦を植えようと思うの」
手伝う騎士が増えてくると、ジャックも仲間が増えた事を喜んで、皆にも食べさせてやりたいと言って枝豆の苗を沢山植えることにした。
農作業をするにも、お菓子を作るにもお金がかかる。
エリーゼは、侯爵家から持って来たドレスを城に出入りする商人に内緒で買い取ってもらうと、そのお金を使い、トータスにはお菓子を作るための材料を、ジャックには農機具や苗等畑に必要な物を購入してもらう事にした。
エリーゼは簡単に作れるクッキーを焼くことが多かったが、それでも騎士達は美味しいと言って喜んでくれる。
それが嬉しくてエリーゼもトータスに教えてもらいながら、色々なお菓子を作って畑に持って行くようになった。
エリーゼの作るお菓子は騎士達の間で評判になり、手伝う騎士が増えると畑もどんどん大きくなり、立派な農園になっていった。
まずはジャックの好きな枝豆を沢山植えて、そして人参とトウモロコシ。
それからトータスにお願いされて、サラダに使えそうな色々な種類の野菜をたくさん植えた結果、クリシアム城では新鮮な野菜が使えるようになり、トータスも騎士団の料理人達もとても喜んだ。
後は土づくりのために肥料を作ったり、作物が育つように管理も必要だ。
秋に植える小麦の苗は父が準備して送ってくれる事になっていた。
農作業の合間には、城下町からローズが遊びに来てくれてお茶をする事もあった。
ローズはお喋りの合間に、エリーゼの好みの色や宝石を聞いて持って来てくれる事もあったが、エリーゼはいつも自分には必要ないからと言って断っていた。
ある日、騎士達と畑で草取りをしている時、ひとりの騎士がエリーゼに聞いてきた。
「奥様はなぜ獣の事や植物の事を調べているんですか?」
「この領地にも獣はたくさん住んでいるのに、『魔獣』になってしまう獣とならない獣がいるでしょう? その原因を突き止めたいと思って獣を調べているの。そして鳥や獣達の食べる木の実や草に原因があるような気がして植物の事も調べているのよ」
エリーゼがそう答えると、それを聞いていた騎士が言った。
「それなら鳥や獣の好きな木の実や草を見つけたら取ってきましょうか?」
エリーゼは喜んでそうしてもらえると嬉しいと答えた。
そして木の実や草を取る時には、取れた場所も一緒に教えて欲しいと頼んだ。
それから騎士達は出掛けた先で木の実や草を食べている鳥や獣を見かけると、食べていた物をエリーゼのところに持って来てくれるようになった。
エリーゼは騎士達の前に領地の地図を広げると、どこで見つけたのかをできるだけ詳しく教えてもらい、印を付けていった。
昼間は安定期に入ったミリやリーシャの手伝いをしながら騎士達からもらった木の実や草を丁寧に乾燥させたり、畑の隅に植えて育てる事もある。
農作業をしながら手伝いに来てくれた騎士から『魔獣』の話や、町の外の話を聞いては手帳に書いていった。
夜になるとお菓子を焼いたり、植物について調べたり、まとめたりしていると、毎日があっという間に過ぎて行った。
そろそろ出産祝いを準備したいと考えたエリーゼは、城に出入りする商人から買うよりも、自分で町に行って選びたいと考えて、グラムに町へ行ってみたいと話した。
するとグラムは言った。
「奥様が1人で町に行くなんて駄目です。何かあれば大変な事になりますから。フレドリック様なら執務室にいますから行って相談してみてください」
エリーゼは仕方なく執務室に行き扉を叩くと、マイケルが笑顔で中に入れてくれた。
エリーゼは仕事をしているフレドリックの前に進むと、町に行きたいので許可をくださいと頼んだ。
するとフレドリックはそれならば、来週私と一緒に町に行こうと誘ってくれた。
フレドリックが町へ行こうと誘ってくれるなんて思ってもいなかったエリーゼは嬉しかったが、期待するなと言われた事を忘れてはいない。
「フレドリック様に無理をさせる訳にはいきません。行く許可だけくだされば充分です」
と言うと、マイケルが
「いや、奥様はフレドリックと行ってください。その方が私達も安心です」
と言うので、エリーゼはフレドリックに申し訳ないと思ったが一緒に町に行く事になった。




