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 2人は相談した結果、ミリはソファーに横になり、エリーゼがグラムにミリがお腹が痛くて休んでいると伝えに行った。

 するとグラムはすぐにエリーゼの部屋にミリを迎えに来ると、恥ずかしがるミリを横抱きにして、お礼を言いながら自分達の部屋に戻って行った。


(ミリは愛されているのね)


 そう思いながらグラムとミリを見送ったエリーゼが、持って来た荷物を片付けていると、フレドリックが何か困っている事はないかと聞きに来てくれた。

 ミリは体調が悪くて来れなくなったが、必要ならリーシャを呼んで来ると言うフレドリックに、エリーゼは、ひと通りの事は自分でできるから大丈夫だと答えた。

 すると、フレドリックは言った。


「それなら良かった。言い忘れていたのだが、この部屋は領主夫婦が使う部屋なので、この部屋と私の部屋は隣にある寝室で繋がっているんだ。だが、私達は王命により婚姻を結んだだけでこれからどうなるか分からない。私はここの寝室を使う気はないから、私に構わずエリーゼはこの部屋と寝室を使ってゆっくりと休んでくれ」


 それを聞いたエリーゼは悲しくなったが、それを隠すように満面の笑みで


「分かりました」


 と答えた。

 するとフレドリックはエリーゼからサッと視線を逸らし


「ここは今までの生活よりもだいぶ不便だろうが、明日マイケルが身支度を手伝える女性を連れて来るそうだから宜しく頼む」


 と言うとすぐに踵を返し、部屋から出て行ってしまった。


(笑顔が美し過ぎる。グラムは一緒に過ごした方が良いと言っていたが、急に近付いたりしたら嫌われてしまうかもしれない)


 フレドリックはそう思いながら、執務室に戻った。


 フレドリックが部屋を出て行き、1人になったエリーゼは、堪えていた涙を溢れさせながら声を殺して泣いた。

 フレドリックと仲良くなりたいと思っていたのは自分だけで、フレドリックの方はエリーゼを王命で押し付けられただけの相手としか思っていなかったのだ。

 愛のある家庭を作りたいだなんて、最初から叶わない夢だったのだと思い、悲しくてたまらなかった。


***



 この城に来るまでの間、エリーゼには考える時間がたくさんあった。


 エリーゼの両親の結婚も親同士が決めた政略結婚だったが、2人は愛し合っているとしか思えない程仲が良かった。


 (私はほんとうに悪役令嬢だったのかしら)


 初めから自分を悪役令嬢だと思い込んでいたエリーゼはアルフォンスを愛そうとした事も愛されようとした事もなかった。

 もしも努力していたらアルフォンスとの関係も今とは違っていたのかも知れないと思ってみたが、初めて会った時からアルフォンスはエリーゼを嫌っていた。


 婚約してすぐの顔合わせの時だった、王妃や侯爵の前では大人しくしていたアルフォンスが護衛だけになった途端にエリーゼに近付くと顔をゆがめ、嘲るように言ったのだ。


「どうやって母上に取り入ったのか分からないがお前のような奴は大嫌いだ。だが母上の命令は絶対だ。仕方ないから婚約者にはしてやるが、私にまで取り入ろうとしても無駄だからな。お前の事を『美人で賢い』と言う奴もいるが、お前くらいの奴なら他にも沢山いるんだ。あんまり図に乗るなよ」


 その時の事を思い出したエリーゼは思った。


(やっぱ無理!悪役令嬢だろうがなかろうがあれは無理でしょ)


 今はもうフレドリックの元へ向かってこうして馬車に乗っているのだからこれからの事を考えなければならない。

 父から聞いただけだが、フレドリックの義父ガリウスはとても素晴らしい人だったようだ。

 素晴らしい人に愛されて育てられたフレドリックも良い人なのだろうと思いたい。

 フレドリックとエリーゼの婚姻の手続きは終わっていると言われても信じられなかった侯爵が念の為にと調べた結果、書簡に書かれていた通り既に婚姻は成立しており、エリーゼの身分は辺境伯夫人になっていた。

 もう後戻りは出来ないのだ。


 前世で読んだ本の中では生まれ変わった主人公がそれぞれが与えられた世界の中で、悩みながらも自分に与えられた能力や力を使いそれなりに努力して幸せを掴んでいた。


 (私の幸せって?)


 この世界に来てからずっと両親に憧れていた。

 何かあっても家族の元に戻れればそれで良かったし、父の「大丈夫だ」という言葉を聞くだけで安心する事ができた。

 そして両親から「愛してるよエリーゼ」と抱きしめられる度に幼いエリーゼは身体中が幸せに満たされるのを感じる事ができた。


 (私は……私も幸せな家族が欲しい)


 エリーゼはそう思う自分が信じられないと思ったが、認めるしかなかった。

 不安はあるけれど、フレドリックを受け入れて仲良くなろう。

 そして出来る事ならば両親のように愛のある家庭を作っていきたい。

 エリーゼはそう思って馬車から降りたはずだった。


***


 ところがここに来た最初の夜、つい先程のことだが、フレドリックから告げられた言葉がエリーゼには


『自分達の婚姻は王命によるものに過ぎないのだから、これからの事は何も期待するな。

辺境伯夫人としての部屋は与えるが、夫婦として過ごすつもりはない』


 としか聞こえなかった。

 エリーゼは激しく傷付き、王命で書類上の妻になっただけの自分はフレドリックの妻として受け入れてもらう資格はない。

 愛のある家庭どころか愛される事もないのだと思い込んでしまった。


 翌朝エリーゼは、泣き腫らした顔を1人で冷やしながら愛される事がないのならせめてこの領地のために何か役に立たなければと強く思った。

 

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