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エリーゼとミリが楽しくお喋りをしていた時、フレドリックは執務室で、初めて感じたドキリとした衝撃や、思わず手で胸を押さえてしまいそうになる甘い広がりを感じながら思っていた。
(なんて美しい人なのだろう。ミルバーン侯爵令嬢があんなに美しい人だったなんて思ってもいなかった)
馬車から降りるエリーゼの手を取り、初めてその顔を見た時ドキリとした。
その後の輝くような笑顔を見た時、顔が熱くなり、胸がドキドキするのを感じたフレドリックは後の事をグラムに任せると逃げるように執務室に戻ったのだが、思い出すと今度は彼女は私の妻なのだと思い嬉しくなってきた。
だが喜んでる場合じゃない、これは王命で結ばれた婚姻なのだ。
(ミルバーン侯爵が結婚を認めたと言っても、彼女がどう思っているかは分からない。それに身分の低い者を虐める悪女だと言う噂もある。見た目は美しいが心まで美しいとは限らないからな)
そうフレドリックが考えていると、マイケルが執務室に来てエリーゼの身の回りの世話は誰がするのかと聞いて来た。
フレドリックは今まで考えた事もなかったが、貴族の女性には必ず侍女が付き、身の回りの世話をするものだと言われ困ってしまった。
この城には侍女がいないのだ。
フレドリックは、まずは何かあればミリに頼もうと思い、グラムを呼んだ。
フレドリックに呼ばれて執務室に来たグラムは、フレドリックが思ってもいなかった話をしてきた。
「一応確認しておきたいのですが、フレドリック様は今夜から夫婦の部屋で奥様と過ごされる事になりますが、それでよろしいですね」
フレドリックは急に椅子から立ち上がり、驚いた表情で
「なっ!そ、それは!」
と言うと、急いで水差しの置いてあるサイドボードに移動して水を飲み終わると言った。
「エ、エリーゼは長旅で疲れているだろうから1人の方が良いだろう。私はこの部屋の隣で寝るつもりだ」
今朝まではエリーゼの話をしてもまるで興味を持たなかったフレドリックが、エリーゼと会った今は、話を聞いただけで耳まで赤く染めて動揺している。
グラムは、幼馴染のフレドリックが初めて見せた表情を、まるで初恋に戸惑う少年のようだと思い嬉しくなった。
だがフレドリックの事だ、エリーゼには何も伝えないまま、仮眠室で寝るつもりなのだろう。
「フレドリック様、奥様に何も言わないまま仮眠室で寝るのは絶対に駄目です。別の部屋で寝るならその事を伝えてからにしてください」
「……分かった。ちゃんと言うよ」
「奥様は今日ここに来られたばかりなんですから、ちょっとした事でも不安になるはずです。言うなら、くれぐれも奥様に誤解されないように伝えてくださいよ」
女性に興味を持った事などなかったフレドリックが急に結婚させられたのだから、戸惑ったとしても仕方のない事だが、グラムはフレドリックの事が心配でつい言ってしまう。
「フレドリック様、やはり奥様と一緒に過ごした方が良いと思います。初夜から別室というのは聞いた事がありません。奥様が歓迎されていないと誤解するかも知れませんよ」
フレドリックは空になったコップを置くとグラムに視線を向けて言った。
「ああ、分かった。考えてみるよ。ところでグラム、エリーゼの世話をミリに頼む事は出来るか? 」
「数日なら何とかなるでしょうが、ミリには辺境伯夫人としての奥様の身支度を整える事はできません。後でマイケルに頼んで誰か紹介してもらう事にしましょう」
「そうしてくれ。慣れない事をさせて済まないが、誰か見つかるまでミリに頼んでもいいか?」
「分かりました。ミリに伝えておきますね。ただし、奥様が少しでもミリを虐めるようでしたらお世話は諦めてもらいます」
「そうだな。もちろんミリを傷付ける事は私も許さないから安心してくれ」
「ではミリに伝えてきます」
執務室を出たグラムはミリを探したがどこにもいない。
夕飯の準備をしているトータスとリーシャに聞くと、奥様にご挨拶して来ると言ったまま帰って来ないと言う。
グラムはミリが虐められているのではないかと不安になり、エリーゼの部屋の前まで来ると部屋の中から楽しそうな笑い声が聞こえて来た。
扉を叩いて名乗った後、「どうぞ」と言われて部屋に入ると、そこには楽しそうに笑いながらエリーゼと紅茶を飲むミリが居た。
グラムがミリを探していた事を伝えると、
「ごめんなさい。奥様とお話してたら楽しくてうっかりしてしまったの」
「私が一緒にお茶を飲みたくて誘ってしまったの。迷惑をかけてしまったみたいでごめんなさいね」
エリーゼから謝られたグラムは驚いたが、それを隠したまま
「迷惑だなんてとんでもありません。しばらくの間はミリが奥様のお世話をする事になりましたので、これからもミリをよろしくお願い致します。今は失礼しますが、夕食の準備ができたら、お迎えに来させます」
と言うとミリを連れて部屋を出て行った。
「奥様って、すごく可愛らしくて素敵な人よ。グラムから意地悪な方かも知れないと言われてたから不安だったのだけど、とっても良い人で安心したわ。私達お友達になったのよ」
嬉しそうに話すミリを見て、グラムも安心して奥様の側に行かせる事が出来ると思った。
そこでミリにフレドリックから頼まれた話をすると、ミリも貴族の女性の支度は出来ないから誰かお願いした方が良いと言う。
グラムがマイケルに早く言わなければと思っていると、マイケルの方がグラムを呼びに来た。