13
エリーゼは『魔獣』を討伐するためだけに作られた領地があるなんて、そこに行かされた王弟殿下は辛かっただろうと思い、そんな大変な所で暮らす自分の夫になった辺境伯はどんな方なんだろうと思い聞いてみた。
「お父様、クリシアム辺境伯はどんな方なのかご存知ですか?」
「今のクリシアム辺境伯領を治めているフレドリック様は、元はジェラルド王の腹違いの弟なんだ。生まれたばかりのフレドリック様を辺境伯の養子にしてはどうかと勧めたのは実は御祖父様なんだよ。
フレドリック様が生まれた時はちょうどジェラルド様に婚約者が決まり、学園を卒業されたら結婚して王太子にという時だったんだ。
御祖父様が言うには、ジェラルド様が幼い頃の宮殿内はジェラルド様が王になるのが当然だという者ばかりが集められており、異を唱える事などできる雰囲気ではなかったそうだ。だが、ジェラルド様が学園に通うようになるとそうはいかない。
当時学園に通っていた私も、ジェラルド様は王には向いていないのではないかと思わざるを得なかった。だがそれが分かっているからこそ、王妃はジェラルド様には無理なのではないかと言われる事を嫌がり、実際にその事を公の場で言った者の中には王妃の怒りを買い、処罰された者もいるらしい。
御祖父様も王に直接伺った事があるそうだが、まずは王妃の気持ちを変える必要があるが今は難しいと言われたそうだ。
王妃が苦労してやっとシェルリア様を婚約者にして、ジェラルド様が王になれる目処が着いた時にフレドリック様が生まれると、今度はフレドリック様を次の王にと言い出す者が現れた。王妃の怒りは凄まじいもので、フレドリック様の命が危ないと感じた王が信頼出来る者で周りをかためて保護しなければならない程だった。
御祖父様は、前のクリシアム辺境伯ガリウス様とはウマが合ったようで『真っ直ぐでとても気持ちの良い方』だと言ってガリウス様が王都に来た時は必ず会って楽しく酒を飲んでいた。
だからガリウス様が養子を探している事を知っていた御祖父様は、フレドリック様が生まれてすぐに母を亡くしたと聞いたとたんに、辺境伯領に早馬を送り、養子にしてはどうかと勧めたんだ。
すると「すぐ王都に行くから世話になる」という手紙が届いたかと思うと、ガリウス様が家に来て、これから王にフレドリック様を養子にしたいと願い出てくると聞いた時には、御祖父様もこれでフレドリック様も安心だと思いほっとしたそうだ。
王も良かったと思われたのだろう。その日の内にガリウス様はフレドリック様を抱いてこの家に戻って来たんだ。そう言えば、フレドリックという名もガリウス様が付けたそうだ。
私が学園から帰ったら両親がどっちが赤ん坊を抱っこするかで揉めていてたから、その日の事はよく覚えているよ。フレドリック様は黒い髪をしたとても可愛い赤ん坊で、私も膝の上で抱かせてもらったが、こっちをじっと見つめてくる緑色の瞳がまるで宝石のように輝いていて、赤ん坊とはこんなに柔らかくて可愛らしい存在なのかと思い感動したものだよ。
ガリウス様はとても誠実な優しい方で、生意気な事を言う私の話も真剣に聞いてくれて、それに対して意見も言ってくれた。それも間違っていると思ったら、間違っていると理由をつけてちゃんと説明してくれるんだ。兄弟のいない私には親の他にはそんな事を言ってくれる人などいなかったから嬉しくてな、何度もガリウス様の部屋に行っては座り込んで話を聞いてもらったものだ。
ガリウス様はフレドリック様をとても大切にされていたよ。幸せそうな顔をして、フレドリック様を抱いてあやしている姿は本当の親子としか思えない程だった。
この家にフレドリック様が居たのは長い旅に耐えられるようになるまでの間だったから、たしか2か月程居て辺境伯領から迎えに来た馬車に乗ると、ガリウス様はまた逢いに来ると言って帰って行ったんだ。
それが私達がガリウス様を見る最後になるとは…」
侯爵は辛そうな顔をして話を続けた。
「5年前の事だ。クリシアム領の村が『魔獣』に襲われた時、その戦いでガリウス様が亡くなったと聞いた時は驚いた。とても残念で悲しかったよ。辺境伯領までは遠く、何かあっても誰も助けに行く事はできないという事を思い知った。そんな所に……」
苦しそうな表情でぐっと言葉を詰まらせた侯爵の手は膝の上で固く握られていた。
その手の上からそっと手を乗せた侯爵夫人が夫の顔を覗き込むようにしながら優しく尋ねた。
「ゼノ、エリーゼの夫になるフレドリック様も優しい方なのですか?」
侯爵は少し笑顔になると言った。
「そうだったな。私が最後にフレドリック様を見たのは2年くらい前だ。シェルリア王妃が亡くなられた後、弔問のためジェラルド王の元を訪れたフレドリック様の後ろ姿を見ただけだが、背が高く逞しい男になっておられた。
赤ん坊の時からあまり変わってなければ、フレドリック様は相当美しい顔立ちをしているはずだ。性格も穏やかで素朴な方だと聞いている」
読んでくださりありがとうございます( *´꒳`* )




