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よろしくお願いします。

「エリーゼ、お前のような者は私に相応しくない。よって、アルフォンス・オランドは、エリーゼ・ミルバーンとの婚約を破棄し、ここにいるビアンカ・ウォードと婚約する」


 婚約破棄と婚約を高らかに宣言したアルフォンスの横にはビアンカ・ウォード男爵令嬢が嬉しそうに寄り添っていた。


 ここは大陸の西端にあるオランド王国。

 今夜は王立学園の卒業パーティーが開かれており、卒業を迎えた生徒を祝うために多くの貴族が集まっていた。


 この国の王子であるアルフォンスからの突然の婚約破棄に皆が静まり返る中、エリーゼは膝を折り、小さくカーテシーをしながら言った。


「私、エリーゼ・ミルバーンは、アルフォンス・オランド様からの婚約破棄をお受け致します」


 そしてすぐに踵を返して会場から出たエリーゼは、待っていた馬車に乗り、爽やかな笑顔で家に帰って行った。


 縋りながら許しを乞うエリーゼを振り払い、罵倒してやりたいと思っていたアルフォンスは、すぐに去ろうとするエリーゼを呼び止めようとしたが、近くから自分を睨むミルバーン侯爵の視線に気付くと言葉にできなかった息をゆっくりと吐いた。


 アルフォンスの悪意から逃れたエリーゼを見送ったミルバーン侯爵は、隣で安堵の表情を浮かべた妻をエスコートするとそのまま会場を後にした。

 アルフォンスは去って行く侯爵の後ろ姿を見つめながら、このままでは終わらせないと心に誓った。



*****



 誰にも言う事はなかったが、エリーゼは物心ついた時から自分が生まれ変わった事に気付いていた。

 前世での自分の名前や家族等の事は思い出せなかったが、日本という国に生まれ、既に成人して働いていた事は覚えてるが、気付いた時には、ミルバーン侯爵家の当主ゼノルドとクロエ夫妻の間に生まれた赤ちゃんだった。


 最初は訳が分からなくて戸惑う事ばかりだったが、両親はエリーゼを愛してくれるし、侯爵家の人達も優しい。

 そしてエリーゼが5歳の時に生まれた弟のレオナルドもめちゃくちゃ可愛くて、アルフォンスとの婚約が決まるまでは生まれ変わった事を受け入れて、楽しく暮らしていた。


 アルフォンスとエリーゼの婚約は2人が10歳の時、エリーゼを次の王妃にしたいと考えたシェルリア王妃から望まれて結ばれたものだ。

 だが、前世では読書が趣味で、特に「悪役令嬢もの」が大好きだったエリーゼは、王族から婚約の申し込みが来たと聞いた時、驚きと共に激しく動揺した。


(もしかして私…生まれ変わって悪役令嬢になってしまったのかも……)


 改めて鏡を見れば、エリーゼは自分でも驚くほど美しかった。

 髪は黄金色、瞳は濃い青色で、生まれた時から日焼けを知らない肌は滑らかで透き通るように白かった。

 そしてオランド王国の中で王家の血族である公爵位を除けば、最高位となる侯爵家の娘。

 しかも王国に1人しかいない王子、アルフォンスとの婚約話とくれば前世で読んだ小説の中に出てくる悪役令嬢そのものだ。


(まさか小説の中に転生したとか?……オランド王国……アルフォンス王子……そういう名が出てくる小説があったかしら?……)


 考えても思い出せなかったが、後はアルフォンスの浮気や卒業パーティーでの婚約破棄の後、断罪が待っているように思えて恐ろしくなったエリーゼは、父に断ってくれるように頼んでみた。


「お父様、お願いですから婚約の話はお断りしてください」


「私も初めは断ろうとしたんだが、シェルリア王妃から、どうしてもエリーゼが欲しいと言われて断る事が出来なかった。エリーゼの願いを聞いてやれなくてすまない」


 父の悲しそうな顔を見たエリーゼは、我儘を言った事を謝ると、アルフォンスとの婚約を受け入れて週に3日、妃教育を受けるため王宮に通う事になった。


 アルフォンスは顔合わせの時からエリーゼを嫌っていて、王妃が決めた婚約者同士のお茶の席にも顔を出さなかった。

 最初は不安だったエリーゼも、王宮に行ってもアルフォンスに会う事がないなら対策を練る必要もない。

 だったら大好きな本を読もうと考えて、妃教育が終わった後は王宮図書館で本を読んでから帰るようになった。


 妃教育は確かに大変だったが、成人していた記憶のあるエリーゼには、こどもには難しい事でも理解する事が出来たし、新しく覚えた事を自然と応用する事も出来た。

 そんなエリーゼを教える教師達はその賢さに、思わず感嘆の声を上げた。


「こんなに賢いこどもは見た事がありません」


「シェルリア様に続いて賢姫エリーゼ様が王妃になられればこの国は安泰でしょう」


 エリーゼにとってはどうでも良い言葉でも、アルフォンスにとっては嫌味にしか聞こえなかった。

 アルフォンスには、エリーゼが賞賛される言葉の後に必ず、


「それに比べてアルフォンス様は……」


 と言われている気がしてならなかったのだ。


 アルフォンスは物心ついた時から厳しい母から逃げるために父の部屋に隠れる事が多かった。

 幼い時は優しくて、いつでも遊んでくれる父が大好きだったが、父が上辺だけの国王だと気付いてからは、距離を置くようになっていた。



 自分は父の様にはならないと思っていたのに、母は優秀なエリーゼを婚約者に選んだ。

 

(母上は私の事もお飾りの王にすれば良いと思っているのか)


 アルフォンスは母に反抗し、エリーゼと会う事や母の選んだ教師から学ぶ事を避けるようになり、父の側近の息子達と過ごすようになった。


 

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