第一話 無の刻印。(1)
「ふぁぁぁ…よく寝た。」
目が覚めた俺は、眠りそうな目を擦り着替えを済ます。カーテンを開ければ、そこにはキレイな青空と欠け月。
「ゔ、明るっ。」
大量の日光を浴び、体が徐々に覚めていくが、それでも目は覚めないようだ。
「《ウォーターボール》」
眼前に10cm前後の水の球を出しては、顔にぶつける。ぶつけた水の球は、弾けて、空中で蒸発する……この世界には魔法が存在する。
この世界の魔法は「生活魔法」「神聖魔法」「貴公魔法」と分けられている。
「生活魔法」は、誰でも扱える魔法。
「神聖魔法」は、王族、聖女や神父のいる教団のみしか使えない魔法。
「貴公魔法」貴族や、王族しか使えない魔法。
というのが、この世界の一般常識だ。
「ドタドタ、ガッシャーン」と、漫画でしかなさそうな音が扉の前で鳴り響き、扉がゆっくり開いていく。
「申し訳ありません。また、寝坊してしまいました。ネル様。」
彼女はカノ。俺のそば付…つまり、メイドだ。
メイドのいる家は一般的な家ではなく、貴族の家。ということで、この家…キュルロン公爵家に生まれた俺は公爵令息ということである。
「いや、大丈夫だ。自分のことは自分でできるようになれたし。」
「ですが、貴族というもの、メイドに世話されるものなんですよ。ネル様の兄上様や、夫人、旦那様だって…」
「それなら、メイドとして寝坊するのも…ねぇ。」
「うぐ、、それも、そうですね。」
カノは、顔をしかめて反論してこなくなる。
「…ネル様。お体の方は大丈夫でしょうか?」
「うん。最近は、訓練してるし、肉付もいい…」
「そうではなくて、魔力放出のことです。もう…無いんですよね?もう…辛くないんですよね?」
カノの言う。あの日というのは、成人の儀と呼ばれる儀式を受けた日のことだ。
あの日の俺は、何も知らなかったんだ。
国のことを。自分のことも…